闇堕勇者と偽物勇者

ぼっち・ちぇりー

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魔王討伐

死神

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「解せぬな。」
「なぜお前は、人間のためにそこまでする? 」
 時間稼ぎか。
 彼はウィザード。
 なら、魔術が発動するまでの時間を……
 いや、ソレは無い。
 ロープに魔法陣を編み込むような男だ。
 なら、攻撃魔法を、杖や手袋に仕込んでいないはずがない。
「おかしな魔術を宮廷魔導士を仕込まれ、暴走し、記憶を消されて、おかしな思想を仕込まれ。」
「……… 」
「信じていた協力者に裏切られた。」
「いや、お前はその前からだな。お前の不幸は、お前の両親が、お前を奴隷として、ウェストランドに売るところからだ。」
 おめでたい。
「随分と調べたんですね。一人の、ただの奴隷のために。」
「調べたさ。なんだって、あのエシールが、お前を危険視するもんだからな。」
[アスィール!! ]
「大丈夫だよ勇者。」
 今更だ。今更すぎる。
「今すぐ、扉を閉じろ勇者よ。」
「お前の目指す世界は、そちらには無い。」



「断る。」



「ふん。お前も同じだ。お前もきっと奴ら汚い貴族や聖職者たちと同じになる。魔王を倒せばな。」
「名誉に、ふんぞり返り、民を虐げる。」


「民を虐げているのはどっちだよ老害。」


「ほう? 」
「いくら世界が腐っていたとしても、いくら人間が汚れた存在でも、傷ついていい人間なんて一人も居ないんだ。」
「青臭いな少年。いつだって、安寧の世は犠牲の上に成り立つ。」
「ワシの目指す世界が、その先にあるというのなら、私は悪魔にでも魂を売ろう。この手を汚そう。」
「ワシは、私ができる範囲で、この世界を変えていく。」
「ワシの足りない部分は、御方エスカリーナが補ってくれる。」
 呆れた。
 僕は呆れすぎて。
「その魔王は、果たして、貴方の要求を呑んでくれますかね? 」
「言ってろ勇者。」
「言いますよ。僕は勇者ですから。」
[カオス・インテグレート!! ]
 ベザレルの両腕から放たれる混沌の光。
[アスィール。アレは無理だ。]
「だと思った。」
---飛鷹ヒヨウ---
 身体に稲妻を宿し、同時に疾風で、身体強化を行う。
 今度は手加減無し、出力100%だ。
 負荷はオキュペティーが軽減してくれる。
「ほう、ワシの崩壊魔術を見切るか。」
[あんな魔術、少なくとも数千年前には無かった。]
「コレも、歴史の進歩ってやつかな? 勇者。」
「ソレもそのはず。十二の魔術属性が発見されたのは九百年前。」
「ディスペルが発見されたのは、ちょうど一世紀ほど前だ。」
「だけどな。若造。ディスペルにはその先がある。」
[ゴットブレス]
「頼むドゥルガ!! 」
[無理だよアスィール。避けて!! ]
 大きくバックステップし、神の息吹を、紙一重で交わした。
[アレは…… アレは魔術じゃない!! ]
「流石だな。良い武具を持ったな勇者。」
「ティスペルとは、本来、魔術師のメタとして使われる存在。原理は簡単だ。対極となる魔術属性の魔力を、相手の魔術にぶつけて『無』を発生させる魔術の基本。今の魔術学校の生徒なら、誰でも知っている。」
「だけどな。勇者。対極なる魔力を、一ミリのズレなく調整してぶつけた時、ある現象が起こる。」
「対消滅により発生した、『世界の余波』だ。」
 ゴットブレスで焼かれた大地は、塵一つなく、綺麗に抉り取られていた。
「先ほどの、『神』と『混沌』は、『虚無』と対極を位置する。」
[ケイオス・ボイド!! ]
 目の前で、橙に光る球体が不意に姿を現した。
[ लुमाルマ]
 不意に時空間魔術を発動する。
 もちろん、対象は、光る球体ではなく、僕自身。
[はいよ。]
「甘いな!! 」
 背中で、とてつもないエネルギーを感じる。
「コレには耐えられまい。」
 移動先を読まれていた。
 コレも長い戦闘経験から得られる、ベテランの勘ってやつか。
「オキュペティー!! 頼む。」
[アイアイサー。]
 慣性に逆らい、熱源から離れる。
[アスィール。そのまま奴と距離を詰めろ。魔術師とは距離を取るな。]
 その言葉通り、ベザレルに急接近し、懐に潜り込む。
 だが、彼は自分と距離を取る気は無いようで、そのまま杖を構えている。
 自分の本能が、下がれと言っている。
 だけど、慣性がソレを許してくれない。
[ボイド・エンチャント]
 不確定要素である、五大元素の一つ。虚無。
 彼の杖が、僕の脇腹にクリーンヒットする。
「ぐぁ。」
[大丈夫ですか?閣下。]
「ほう、身体を真っ二つにするつもりでいたが。」
 僕は痺れる身体に鞭を打って立ち上がった。
「ごめん。大丈夫? 姑獲コカク? 」
[滅相ない。主人を守れなかったこの鎧を、お許し下さいませ。]
 世界の余波により、音を置き去りにしたベザレルが、こちらに突っ込んでくる。
 切り上げで、垂直に吹き飛ばす。
[フェニックス・レイン ]
「ドゥルガ!! 」
 無数に降り注ぐ金色の雨を、ドゥルガの力で弾き返す。
[レイン・ウォッシング]
 刹那、時間の停止を覚えた。
 僕の前で無数の『余波』が発生する。



 ____気がついた時には、僕は、岩盤に全身を打ちつけて倒れていた。
「……間合いに隙がない。」
 ザクザクと死神の足音がする。
「お前が、盾で魔術を弾き返してくるというのは想定済みだ。」
「ソレを見越した上で、ファイアーアローの量を調節した。」
「だが驚いた。まざか『世界の余波』は、魔力に反応し、対象を誘爆されるとは。」
「高い魔力がアダになったな。」
 僕は手探りで乙姫を探す。
 ドゥルガを手繰り寄せる。
「もう楽になれ。お前の魔力は、ほぼゼロ。あと一回でも初期魔術を発動すれば、魔力切れで死に至る程度だ。」
  लुमाルマが発動しない。
 勇者の声が聞こえない。
「もう一度聞く。ワシと一緒に、魔王軍に来ないか? 」
「断る!! 」
「なら死ね。お前はエスカリーナ様から賞金を付けられている。ここでのの垂れ死んでも、魔族に首を漁られるだけ。俺には、お前の末路を決められる権利がある。」






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