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魔王討伐
ベザレル・トルバ・メッソ
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僕が、十二使徒たちと再会を果たし、言葉を交わす中。
今もなお、この一瞬にも魔王軍たちの進撃は続いている。
当然、クランがやられたことは、魔王エスカリーナの元にも届いているはずで、最早、無視できなくなった僕のことを野放しにしてくれるわけが無かった。
彼女は僕を計画の障壁として認知していることを、今、確信した。
シクスさんが建ててくれた、魔素探知機の針が大きく振れ、磁場が馬鹿になり、針はクルクルと何回転かすると、バネが飛び出して明後日の方向に飛んでいった。
「父さん、母さん。隠れていて。」
フォースたちは、まだクランとの戦闘での魔力が回復していない。
僕は、十二使徒たちがいる小山まで跳躍して降りていく。
魔王軍。
禍々しい紫と赤と黒の鎧をつけた魔導兵たちが、ドス黒い次元の裂け目から、ゾロゾロと溢れ出てくる。
戦闘を率いているのは……
杖を構えた年老いた魔族だった。
歩き方、杖の構え、そして、二手・三手先を見通しているような、鋭い眼光。
全て合理的で隙が無く、その身なり一つ一つが歴戦の猛者を醸し出していた。
彼の使い古されたマントには、幾つもの魔法陣が描かれている。
魔力を流すことで、即座に魔術を発動させるためだ。
敵からの不意打ちに対する対策……
いや、それよりも、部下に後ろから襲われないためか?
彼のマントに刻まれたソレは、彼の死角に多く配置されているため、そういう風にも感じた。
ソレをいいことに、彼は、僕たちに背を向けて、魔導兵たちを激励する。
「魔王様は先のクランの死で心を強く痛めておられる。」
「ならば我々がすべきことは一つ。」
「勇者を殺せ。」
「人間を殺せ。」
「薄汚い悪鬼どもに正義の鉄槌を。」
小屋のドアを開けて、気だるそうに出てきたのは、サードだ。
「やれやれ。とうとうやって来たか。」
「おい、小僧。お前が連れて来たな。」
適当なことを言わないでほしい。
でも、心当たりが無いわけが無い。
魔王も、時空間魔術が使えないわけじゃ無い。
ソレは、1番最初にディアストと戦った時に気づいていた。
「フィフス。彼のせいじゃ無い。どっちにしろ、我々の根城は魔王軍にもバレていたさ。アスィール君が居る時に来てくれてよかった。」
「そうかね、シクス。俺には奴らの狙いが俺らっていうより、コイツを追ってここまで来たようにしか思えないが。」
魔素の異常を感知したセカンドが、盾と鎧を担いでこちらに走ってくる。
「済まない。森で修行をしていた。」
「アスィール。帰っていたのか。」
ソレからセカンドは老魔導士を見る。
「貴方も帰っていたのですね。サーティンス。」
十二使徒。文字通り一二人で構成された教皇の手と足……
だったはずだ。
だけど、セカンドは、目の前の老魔導士をサーティンスと呼んだ。
「なんで…… 」
「十二使徒とは、元々、ある男から教皇をお守りするために結成された組織だ。」
「始まりの十三番。ベザレル・トルバ・メッソ。歩く厄災。」
僕は困惑した。
いや、自分でも薄々気が付いていたのだ。
だけど僕は認めたく無かった。
だからこそ、セカンドを問いただしたのだ。
「なんで、教皇の側近が魔王軍なんかに。」
老魔導士は、杖でコンコンと地面を突いた。
「いい、セカンド。ワシから説明する。」
「小僧。汚れを拭い取るには、何が必要だと思う? 」
数ヶ月間、世界を回り続けて、気が付いたことがある。
今ならソレが分かった。
「綺麗なぞうきん。」
老魔導士は厳しい顔をして、頷いた。
「正解だ。若者よ。」
「人が人として生きていく中で、そういう役回りをする人間は必要不可欠だ。ソレに、私も自分の境遇に不満を持ったことはない。むしろ、本望だった。身寄りのないワシを拾って下さり、必要として下さったのは、誰でもない教皇様。」
「昔話をしよう。」
「簡潔にお願いします。」
「オイ、若僧。年寄りの話は聞くもんだ。大魔導士様からの忠告だぞ。」
「ワシは教皇の影として、ソレが人間たちの為になると信じて、汚れを拭い去る雑巾として、その使命を全うして来た。」
「だがな。殺しても殺しても、貴族も、聖職者も私服を肥やすだけ。」
「ある日、気が付いた。私がやっているゴロツキや犯罪者の始末、横暴を働く貴族の成敗は、全て私服を肥やす豚どものためにしかならないとな。」
「私は、貴族の権力闘争のために、己の手を汚し、聖職者の名誉を守るために、返り血を浴びていた。」
「私は教皇を問いただした。」
「でも結局帰ってくるのは、『国のため』だとそれだけだ。」
「私は、国を綺麗にするために、自ら汚れを背負っていると、勝手に誤解していた。」
セカンドが目を細めた。
「だから貴方は魔王軍に。」
「そうだ。内側から破壊できないのなら、外側から。」
「皮肉にも、私が目指す場所には、魔王様がいたよ。私たちは、同じ目的地を見ていたんだ。」
「セブンスを唆したのもアナタですね。」
ベザレルは、冷笑すると、両手を返してとぼけて見せた。
「唆した? 冗談はやめてほしいね後継者。彼は自分から望んで魔王軍に来た。彼をその気にさせたのは、君たちだろう? 醜い君たち人間の本性が、彼を正義の道へと導いた。」
「正義だと…… 笑わせないでください。今、アナタが引き連れている禍々しい兵士達。そこにどのような大義名分があると言うのですか? 」
「議論は並行線だな。ソレも無理ない。君たちにも、君達なりの大義名分があるのだろう。」
「ならば力で示すのみ。」
「十三番ッ。」
セカンドとベザレルとの会話に気押されていた僕は、後ろから何者かに肩を叩かれて、ハッと我に帰った。
「僕たち十二使徒で、魔導兵を抑える。」
「君はレザベルを頼むよ。」
サード達は、セカンドを連れると、魔導兵の元へと走っていく。
僕も乙姫を抜き、ドゥルガを構えて、ソレから目の前の大魔導士を見上げた。
今もなお、この一瞬にも魔王軍たちの進撃は続いている。
当然、クランがやられたことは、魔王エスカリーナの元にも届いているはずで、最早、無視できなくなった僕のことを野放しにしてくれるわけが無かった。
彼女は僕を計画の障壁として認知していることを、今、確信した。
シクスさんが建ててくれた、魔素探知機の針が大きく振れ、磁場が馬鹿になり、針はクルクルと何回転かすると、バネが飛び出して明後日の方向に飛んでいった。
「父さん、母さん。隠れていて。」
フォースたちは、まだクランとの戦闘での魔力が回復していない。
僕は、十二使徒たちがいる小山まで跳躍して降りていく。
魔王軍。
禍々しい紫と赤と黒の鎧をつけた魔導兵たちが、ドス黒い次元の裂け目から、ゾロゾロと溢れ出てくる。
戦闘を率いているのは……
杖を構えた年老いた魔族だった。
歩き方、杖の構え、そして、二手・三手先を見通しているような、鋭い眼光。
全て合理的で隙が無く、その身なり一つ一つが歴戦の猛者を醸し出していた。
彼の使い古されたマントには、幾つもの魔法陣が描かれている。
魔力を流すことで、即座に魔術を発動させるためだ。
敵からの不意打ちに対する対策……
いや、それよりも、部下に後ろから襲われないためか?
彼のマントに刻まれたソレは、彼の死角に多く配置されているため、そういう風にも感じた。
ソレをいいことに、彼は、僕たちに背を向けて、魔導兵たちを激励する。
「魔王様は先のクランの死で心を強く痛めておられる。」
「ならば我々がすべきことは一つ。」
「勇者を殺せ。」
「人間を殺せ。」
「薄汚い悪鬼どもに正義の鉄槌を。」
小屋のドアを開けて、気だるそうに出てきたのは、サードだ。
「やれやれ。とうとうやって来たか。」
「おい、小僧。お前が連れて来たな。」
適当なことを言わないでほしい。
でも、心当たりが無いわけが無い。
魔王も、時空間魔術が使えないわけじゃ無い。
ソレは、1番最初にディアストと戦った時に気づいていた。
「フィフス。彼のせいじゃ無い。どっちにしろ、我々の根城は魔王軍にもバレていたさ。アスィール君が居る時に来てくれてよかった。」
「そうかね、シクス。俺には奴らの狙いが俺らっていうより、コイツを追ってここまで来たようにしか思えないが。」
魔素の異常を感知したセカンドが、盾と鎧を担いでこちらに走ってくる。
「済まない。森で修行をしていた。」
「アスィール。帰っていたのか。」
ソレからセカンドは老魔導士を見る。
「貴方も帰っていたのですね。サーティンス。」
十二使徒。文字通り一二人で構成された教皇の手と足……
だったはずだ。
だけど、セカンドは、目の前の老魔導士をサーティンスと呼んだ。
「なんで…… 」
「十二使徒とは、元々、ある男から教皇をお守りするために結成された組織だ。」
「始まりの十三番。ベザレル・トルバ・メッソ。歩く厄災。」
僕は困惑した。
いや、自分でも薄々気が付いていたのだ。
だけど僕は認めたく無かった。
だからこそ、セカンドを問いただしたのだ。
「なんで、教皇の側近が魔王軍なんかに。」
老魔導士は、杖でコンコンと地面を突いた。
「いい、セカンド。ワシから説明する。」
「小僧。汚れを拭い取るには、何が必要だと思う? 」
数ヶ月間、世界を回り続けて、気が付いたことがある。
今ならソレが分かった。
「綺麗なぞうきん。」
老魔導士は厳しい顔をして、頷いた。
「正解だ。若者よ。」
「人が人として生きていく中で、そういう役回りをする人間は必要不可欠だ。ソレに、私も自分の境遇に不満を持ったことはない。むしろ、本望だった。身寄りのないワシを拾って下さり、必要として下さったのは、誰でもない教皇様。」
「昔話をしよう。」
「簡潔にお願いします。」
「オイ、若僧。年寄りの話は聞くもんだ。大魔導士様からの忠告だぞ。」
「ワシは教皇の影として、ソレが人間たちの為になると信じて、汚れを拭い去る雑巾として、その使命を全うして来た。」
「だがな。殺しても殺しても、貴族も、聖職者も私服を肥やすだけ。」
「ある日、気が付いた。私がやっているゴロツキや犯罪者の始末、横暴を働く貴族の成敗は、全て私服を肥やす豚どものためにしかならないとな。」
「私は、貴族の権力闘争のために、己の手を汚し、聖職者の名誉を守るために、返り血を浴びていた。」
「私は教皇を問いただした。」
「でも結局帰ってくるのは、『国のため』だとそれだけだ。」
「私は、国を綺麗にするために、自ら汚れを背負っていると、勝手に誤解していた。」
セカンドが目を細めた。
「だから貴方は魔王軍に。」
「そうだ。内側から破壊できないのなら、外側から。」
「皮肉にも、私が目指す場所には、魔王様がいたよ。私たちは、同じ目的地を見ていたんだ。」
「セブンスを唆したのもアナタですね。」
ベザレルは、冷笑すると、両手を返してとぼけて見せた。
「唆した? 冗談はやめてほしいね後継者。彼は自分から望んで魔王軍に来た。彼をその気にさせたのは、君たちだろう? 醜い君たち人間の本性が、彼を正義の道へと導いた。」
「正義だと…… 笑わせないでください。今、アナタが引き連れている禍々しい兵士達。そこにどのような大義名分があると言うのですか? 」
「議論は並行線だな。ソレも無理ない。君たちにも、君達なりの大義名分があるのだろう。」
「ならば力で示すのみ。」
「十三番ッ。」
セカンドとベザレルとの会話に気押されていた僕は、後ろから何者かに肩を叩かれて、ハッと我に帰った。
「僕たち十二使徒で、魔導兵を抑える。」
「君はレザベルを頼むよ。」
サード達は、セカンドを連れると、魔導兵の元へと走っていく。
僕も乙姫を抜き、ドゥルガを構えて、ソレから目の前の大魔導士を見上げた。
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