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四国会議
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魔族たちの真の目的が、人間たちを武力で制圧することではなく、兵糧攻めによって、じわじわと我々を追い詰めることだったとは……
既に私たちの国、ウェストランドでも、その被害は目に見えて明らかだった。
王都でこのような様子なら、辺境の村々はその限りでは無いだろう。
私は各村々に冒険者を派遣し、物資の安定供給を測ったが、彼らの力は、魔王の幹部たちには、まるで歯が立たなかった。
運び屋を手配するにも無駄な被害を出すことが出来ず、ただ辺境の村々で罪のない人々が虐殺される毎日……
『コンコン』
「このような老耄をこんなところまで呼び出して、いったいどのようなご用件で? 」
北峰から出向いた女王スカサアの側近ダミアン。
彼は姓を持たず、代々女王のために仕えて来た一族の末裔だ。ノースランドからは必ず彼がくると思っていた。
そして。
「失礼します。」
かつて勇者の妹であるアスピ・クリスチャンの護衛を務めたバロア王の側近、クリート。
このような事態にもかかわらず、彼女は相変わらずのすまし顔で、それが私は少し癪に触った。
だから彼女の動揺を誘うべく、私は彼女たちを呼ぶ
「よし、役者は揃ったな。入れ咎人ども。」
手を縄で縛られて、それは四人全員に繋がれている。
「すまない、ビギニア王。サウスランドの使いが見当たらないのだが。」
ダミアンが周りを見渡した。
「使いならそこにいる。そこの下品なモノをぶら下げた海賊の女こそがサウスランドの使いだ。ポート王からはそう話を聞いている。」
流石のクリートの方も、平常心ではいられず、また焦っていると言うよりは気まずい顔を見せて、恥ずかしそうに口を開いた。
「なぜ、使者にこのような仕打ちを。仮にでもサウスランドの使者なのでしょう? 」
私は下心を心の奥底へと押し込むと、平常心で彼女の問いに答えた。
「彼らは使者であり、罪人だからだ。言葉通りの意味だよ。」
「ビギニア王、彼らの縄を解きなさい。それは冤罪です。我々イーストランドの騒動でも、首謀者は十二使徒セブンス一人、彼らには、なんの罪もなく、それどころか、彼に対して責任を示し、自らで処分した功績もあります。そのような人物が、何故咎人という汚名を着せられ無ければならないのでしょうか? 」
「今日はよく喋るな、クリート殿。」
私は十二使徒の一人、フォースを問いただすことにした。
「なぜ、バロア城でセブンスと接触した時に、彼を殺さなかった。十二使徒で一番強いのは、お前だと聞いたが。」
すると彼はその問いに、淡々と答え始める。
「私の失態です。彼が魔眼を保持しているとは思いませんでした。また、その情報を事前に仕入れていたとしても、魔に堕ちた彼を十二使徒の中で止められる人間は私も含めて、一人も居なかったと考えます。それぐらい彼は強かった。」
「この役立たずめ。気まぐれで作ったお前らが、まざかこんな形で国益を損ねるとはな。」
ダミアンが静かに手を上げて発言の機会を待っている。
私はそれに応じることにした。
「なんだ? ダミアン。」
「ここに私たちが集められたのは、今の状態を打開すべく、建設的な提案を出し合うことだと聞きました。」
「そこにいる勇者たちへの叱責を聞かされるだけでしたら、私はここでお暇させていただきます。私たちの国も奴隷制を廃止し、今国内が混乱しているのです。厳しい土地ゆえ、魔王軍が来ないとはいえ、作物が充分に取れないのは、あなた方と一緒。」
どいつもコイツも揃って。
「逆にお前は建設的な提案があると申すか? ダミアン。」
老人はここぞとばかりに話し始めた。
しまった、彼のペースに乗せられてしまう。
「はい、女王スカサア様からの伝聞を元に。
」
「かつて伝説の勇者が得意としていた時空間古代魔術が今回の問題打破の鍵になるかと。」
老人は、縄に縛られた青年の肩を持つと、高らかに宣言する。
「この青年が、真の勇者であれば、かの伝説の勇者が使っていた時空間魔術を習得出来るはずです。そして…… 」
「古代魔術が、現代に復活すれば、流通の面では魔族を大きく出し抜ける。人間は再び、この四大陸に返り咲くでしょう。」
この青年にそれが出来るという見込みは少ない。
だって、この青年は……
偽物だから。
「もし、こやつが、それを成し遂げられなかったら? 」
「私が……この私めが腹を斬ります。」
「爺さん!! 」
青年は瞳孔を開き、急に叫んだ。
さっきまで何も言わなかった青年が。
「女王様に真実を伝えるように、二人を唆したのも、この私。そして、ノースランドの奴隷制を廃止させたのも、この私。」
「どっちにしろ何ですよ。この青年が時空間魔術を習得出来なければ、四大陸は魔族に滅ぼされる。魔族の影響がなくても、ノースランドの人間たちは滅ぶ。」
「三ヶ月。時間をください。それまでに、私が彼を鍛えます。」
「彼を真の勇者に。そして、四大陸の王都をそれぞれポータルで繋ぎ、人、モノの行き来を自由にする。」
「さすれば、私たちは、かの大魔王とも、堕ちた勇者とも、対等に渡り合うことが出来ましょう。」
彼の意見はごもっともだった。
それに彼らは、犯罪者。用済みになったのならば、処刑すれば良い。
もし、仮に、この青年が時空間魔術を習得出来れば、ペンタゴンたちに、魔術を研究させ、模倣すれば良い。
「分かった。三ヶ月だ。こちらとて、もう時間は無い。奴らは兵糧攻めで国力の弱った我らを一気に攻めるつもりだ。猶予はそう多く無いだろう。」
私は立ち上がると、部屋から出ていった。
「会議はコレで終了だ。検討を祈る。」
私とて暇では無い。
書斎に戻り、山積みになった書類の山に溜息をつく。
魔王軍の兵糧攻めから、さらに書類が増えたような気がする。
こっちは、土地の所有権による争い。
こっちは、入会地。魔王軍の侵略によって物資が不足し、他所の村の人間が、入会地で盗みを働いているらしい。
私は椅子を引き、そこに尻を下ろすと、インクと羽を手に取り、仕事を始めた。
既に私たちの国、ウェストランドでも、その被害は目に見えて明らかだった。
王都でこのような様子なら、辺境の村々はその限りでは無いだろう。
私は各村々に冒険者を派遣し、物資の安定供給を測ったが、彼らの力は、魔王の幹部たちには、まるで歯が立たなかった。
運び屋を手配するにも無駄な被害を出すことが出来ず、ただ辺境の村々で罪のない人々が虐殺される毎日……
『コンコン』
「このような老耄をこんなところまで呼び出して、いったいどのようなご用件で? 」
北峰から出向いた女王スカサアの側近ダミアン。
彼は姓を持たず、代々女王のために仕えて来た一族の末裔だ。ノースランドからは必ず彼がくると思っていた。
そして。
「失礼します。」
かつて勇者の妹であるアスピ・クリスチャンの護衛を務めたバロア王の側近、クリート。
このような事態にもかかわらず、彼女は相変わらずのすまし顔で、それが私は少し癪に触った。
だから彼女の動揺を誘うべく、私は彼女たちを呼ぶ
「よし、役者は揃ったな。入れ咎人ども。」
手を縄で縛られて、それは四人全員に繋がれている。
「すまない、ビギニア王。サウスランドの使いが見当たらないのだが。」
ダミアンが周りを見渡した。
「使いならそこにいる。そこの下品なモノをぶら下げた海賊の女こそがサウスランドの使いだ。ポート王からはそう話を聞いている。」
流石のクリートの方も、平常心ではいられず、また焦っていると言うよりは気まずい顔を見せて、恥ずかしそうに口を開いた。
「なぜ、使者にこのような仕打ちを。仮にでもサウスランドの使者なのでしょう? 」
私は下心を心の奥底へと押し込むと、平常心で彼女の問いに答えた。
「彼らは使者であり、罪人だからだ。言葉通りの意味だよ。」
「ビギニア王、彼らの縄を解きなさい。それは冤罪です。我々イーストランドの騒動でも、首謀者は十二使徒セブンス一人、彼らには、なんの罪もなく、それどころか、彼に対して責任を示し、自らで処分した功績もあります。そのような人物が、何故咎人という汚名を着せられ無ければならないのでしょうか? 」
「今日はよく喋るな、クリート殿。」
私は十二使徒の一人、フォースを問いただすことにした。
「なぜ、バロア城でセブンスと接触した時に、彼を殺さなかった。十二使徒で一番強いのは、お前だと聞いたが。」
すると彼はその問いに、淡々と答え始める。
「私の失態です。彼が魔眼を保持しているとは思いませんでした。また、その情報を事前に仕入れていたとしても、魔に堕ちた彼を十二使徒の中で止められる人間は私も含めて、一人も居なかったと考えます。それぐらい彼は強かった。」
「この役立たずめ。気まぐれで作ったお前らが、まざかこんな形で国益を損ねるとはな。」
ダミアンが静かに手を上げて発言の機会を待っている。
私はそれに応じることにした。
「なんだ? ダミアン。」
「ここに私たちが集められたのは、今の状態を打開すべく、建設的な提案を出し合うことだと聞きました。」
「そこにいる勇者たちへの叱責を聞かされるだけでしたら、私はここでお暇させていただきます。私たちの国も奴隷制を廃止し、今国内が混乱しているのです。厳しい土地ゆえ、魔王軍が来ないとはいえ、作物が充分に取れないのは、あなた方と一緒。」
どいつもコイツも揃って。
「逆にお前は建設的な提案があると申すか? ダミアン。」
老人はここぞとばかりに話し始めた。
しまった、彼のペースに乗せられてしまう。
「はい、女王スカサア様からの伝聞を元に。
」
「かつて伝説の勇者が得意としていた時空間古代魔術が今回の問題打破の鍵になるかと。」
老人は、縄に縛られた青年の肩を持つと、高らかに宣言する。
「この青年が、真の勇者であれば、かの伝説の勇者が使っていた時空間魔術を習得出来るはずです。そして…… 」
「古代魔術が、現代に復活すれば、流通の面では魔族を大きく出し抜ける。人間は再び、この四大陸に返り咲くでしょう。」
この青年にそれが出来るという見込みは少ない。
だって、この青年は……
偽物だから。
「もし、こやつが、それを成し遂げられなかったら? 」
「私が……この私めが腹を斬ります。」
「爺さん!! 」
青年は瞳孔を開き、急に叫んだ。
さっきまで何も言わなかった青年が。
「女王様に真実を伝えるように、二人を唆したのも、この私。そして、ノースランドの奴隷制を廃止させたのも、この私。」
「どっちにしろ何ですよ。この青年が時空間魔術を習得出来なければ、四大陸は魔族に滅ぼされる。魔族の影響がなくても、ノースランドの人間たちは滅ぶ。」
「三ヶ月。時間をください。それまでに、私が彼を鍛えます。」
「彼を真の勇者に。そして、四大陸の王都をそれぞれポータルで繋ぎ、人、モノの行き来を自由にする。」
「さすれば、私たちは、かの大魔王とも、堕ちた勇者とも、対等に渡り合うことが出来ましょう。」
彼の意見はごもっともだった。
それに彼らは、犯罪者。用済みになったのならば、処刑すれば良い。
もし、仮に、この青年が時空間魔術を習得出来れば、ペンタゴンたちに、魔術を研究させ、模倣すれば良い。
「分かった。三ヶ月だ。こちらとて、もう時間は無い。奴らは兵糧攻めで国力の弱った我らを一気に攻めるつもりだ。猶予はそう多く無いだろう。」
私は立ち上がると、部屋から出ていった。
「会議はコレで終了だ。検討を祈る。」
私とて暇では無い。
書斎に戻り、山積みになった書類の山に溜息をつく。
魔王軍の兵糧攻めから、さらに書類が増えたような気がする。
こっちは、土地の所有権による争い。
こっちは、入会地。魔王軍の侵略によって物資が不足し、他所の村の人間が、入会地で盗みを働いているらしい。
私は椅子を引き、そこに尻を下ろすと、インクと羽を手に取り、仕事を始めた。
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