闇堕勇者と偽物勇者

ぼっち・ちぇりー

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間章

魔族たちの会議

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「みんなよく集まってくれたな。」
 クラン、エシール、ディアブロス、ベザレル
 そして……
 ディアスト。
 クランは私に不服そうな顔を向けている。
 彼は、私の招集にいち早く飛んできた私の忠実なシモベ。
 なら、彼の話を聞いてやるのが魔王としての務めではないか?
「どうした? クラン。」
「エスカリーナ様、どうして、この無能勇者が、何食わぬ顔で、円卓の一席に座っておられるのですか? 」
「勇者の武具が彼を拒んだのも、北の女王が、特殊な能力を所持していたというのも、私のリサーチ不足だ。」
「特に、武具がディアストを弾いたのは、私が彼に魔素を与えていたということもあるだろう。」
 ディアブロスは全く興味を示していない。ベザレルは眼を瞑って、黙ってクランの抗議を聞いている。
 そこで我慢できんとばかりに、エシールが机を叩きつけて、立ち上がった。
「コイツに罰の一つもないことが、驚きだぜ。俺は、コイツがしくじったせいで、厄介な盾を持った弟弟子と戦わされた訳だし。」
「口の聞き方をわきまえろ若者。」
 ベザレルはあくまでも中立的な立場をとっている。
 私はベザレルを手で制してから、エシールの問いに答えた。
「私が、お前たちに罰を与えたことがあるか?それにお前らを疑ったことなど一度もない。なんの枷もない。それは、お前たちが特別だからだ。 」
 セブンスは信用できない男だった。だから私は彼に臣下の証を与えたのだ。
 再びクランが反論する。
「そこが気に入らないのです。貴方は、魔族と人間を対等に見られていらっしゃる。なぜ幹部会議に人間が二人もいらっしゃるのですか? 」
「私は世界を征服する女だ。魔族の上にだけでなく、人の上にも立つ存在でなければならない。私を慕う人間には、分け隔てなく、この力を注ぐつもりだ。」
「お前は、その魔王の幹部。言っていることが分かるか? 」
「貴方様の理想も、のしかかる責務も、私が理解しなかったことはありませぬ。」
 クランは頬を膨らませて、席についた。
「あー、もうめんどくせえよ。生産性のない話ばかり。で? どーすんだ魔王様よ。俺は俺の役割だけを聞いて帰るからよ。」
 ディアブロスは右手で鉄球をクルクルと回しながら、足を組んでいる。
「まぁ待てディアブロス。お前が戦闘以外に興味がないことは知っている。お前のその戦闘能力とお前の軍の軍事力が必要だからお前を呼んだ。」
「さて。本題に入ろうか。」
「今後の侵略の方針だが…… 」
 ベザレルが何か言いたげだ。
「魔王様。なぜ主要都市を襲わずに辺境の村々だけを滅ぼすんです? 」
「それだ。ベザレル。」
「お前ら、戦争の一番うまい勝ち方はなんだと思う? 」
「力でねじ伏せることだ。」
 とディアブロス。
 いかにも彼らしい答えだと思う。
「お前らしい回答だな。だが、私はこう考えている。」
「兵士と物資の損害を最低限に抑えることだ。相手の拠点と労働力、食料が手に入ればなお良い。お前のように戦場を焼け野原にしてしまっては、戦後、食料や土地を巡って新たな争いが起きるぞ。」
「何より、お前の優秀な部下たちを失うことになるのは、私としてはあまり感心できないからな。」
「俺の手塩をかけて育てた、奴らを信用していないのか? 」
 このイノシシ男は……
 私の代わりにベザレルが答えた。
「女神の加護を受けた冒険者とやらは、何度蹴散らしても、教会で生き返っては、またワシらに歯向かってくる。」
「いくら暗黒騎士の軍勢でも数の暴力には勝てまい。」
 ディアブロスが腕まくりを始めた。
「なら運び屋もろとも殺しちまえば問題ない。最近は冒険者と見分けが付かなくなったが。殺し続ければ、いつしか蘇生できなくなるだろう。」
「私の話聞いていたか? 」
「つまり、兵糧攻めか。俺たちは、冒険者の少ない辺境の村を潰して、食料が主要都市に回らないようにすれば良いんだな? 」
 流石エシール。飲み込みが早くて助かる。
 ディアストは……
 聞き手に回っているようで、何も話そうとしない。
「オイ、お前は? 何か意見は無いのか? 」
「俺に発言権なんてありませんよ。」
 先の失敗で相当、気に病んでいるようである。
 別に落ち込むことなんてないんだけどなぁー。
「修行してきます。」
 彼は黙って円卓から立ち上がり、部屋から出て行ってしまった。
「オイ、クラン。言い過ぎだお前。」
 ディアブロスが眉をハの字に曲げている。
「フン、当然のことを言ったまでです。」
 クランはそっぽを向いている。私は彼のことを否定するつもりもない。
 人間とは共和の道を進んでほしいとは思っているが、仲良くしてほしいわけではない。
 また話が逸れかけたので、ベザレルが軌道を修正しようとする。
「先日現れた勇者の件は? 」
「アレは、しばらく放っておけ。今、彼のバックアップをしている十二使徒が異端審問に掛けられているところだ。」
「ならば叩くのは今かと。」
 人類に、彼のような隠し玉がいることは、想定外だった。
 あの時、エシールを回収した時に、始末しておけば良かったのだ。
「いや、やめておけ。今の奴は中々厄介な存在になっている。コレも私の失態だ。」
 
     * * *

 会議は三時間にも及んだ。
 短気なディアブロスも、気難しいクランも、私の話を良く聞いてくれたものだ。
 首をグルグルと回してから、会議室を出る。
 外ではメイドのアリスが、私のマントを手で抱えながら待っていた。
「お疲れ様です。魔王様。」
 言葉には感情が篭っていない。だが、コイツはこういう奴だ。
 それでも私の身の回りの世話は彼女が全部やってくれていることは知っている。
 私の身に危険が及ばないようにだ。
「ディアストは? 」
「ディアスト様なら素振りに出かけました。今日も倒れるまで振るおつもりです。」
「エスカリーナ様。」
 彼女が私を肩書きではなく、名前で呼ぶ時、それは。
「ディアスト様だけを贔屓するのは悪手かと思います。魔族内に亀裂が走っています。このままでは内部崩壊が…… 」
「アリス。お前のいう通りだ。」
「だが、私はアイツの潜在能力に目をつけている。今はエシールに劣ろうとも、奴は必ず私に…… 」
「私に? なんですか? どうせ相応しい伴侶とか言い出すんですよね。」
「違う。私はいずれ世界を統べるモノだ。伴侶など必要ない。」
「そうですか…….」
「では、私は自分の業務に戻ります。」
 そういって彼女は、私から離れていった。
「ディアスト様は、二の丸の中庭にいらっしゃいます。他のメイドには二の丸には立ち入らないようにいっておきましたので。」
 いらぬお世話だ。
「私は!! 」
「大丈夫ですよ。魔王様が、ディアスト様の修行するお姿を見て、ニヤニヤしていることを知っているのは私だけですから。」
[魔王様、頼まれていた武具一式が完成しました。]
 鍛冶屋から急にテレパシーが飛んでくる。
 伝説の武具と言っても所詮は数千年前のオーパーツ。私がアレよりも凄いものをお前にやろう。
 私は口角を上げて、鍛冶屋へと向かった。

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