闇堕勇者と偽物勇者

ぼっち・ちぇりー

文字の大きさ
上 下
46 / 104
呪いを解くため

北峰のドラゴン

しおりを挟む
 どうやら北峰の白竜のせいで、物流が滞っていたということもあって、女王が家臣にその旨を告げると、快く馬車を貸してくれた。
「すごい吹雪ね。」
「うん。フォースには留守番してもらって正解だったよ。」
「ねえ大丈夫? じゃ無さそうね。」
「別に。アスピは悪くないよ。正しいことを言っている。僕があそこで村人たちを襲っていれば、僕は勇者ではいられなくなっていた。」
「だってッ、人間は正しくないじゃない。」
「いや、ごめん。今の言葉は忘れて。」
「お二人さん。」
 御者の存在を再確認し、気まずくなった。
 ソレから僕たちは罰が悪そうに別々の方を見る。
「女王様にはどうか内密にお願いしますね。」
「あっしらだって悪いことしているということは重々承知なんですよ。」
 アスピが苦虫を噛み締める。
「ただね。奴隷を売らないと、この国はやっていけないんです。みんな飢えて死んじゃうんですよ。」
「だったら他の大陸に移住すれば良いじゃない。」
 御者は一瞬言葉を濁らせた。
「卵が先か鶏が先か…… いや、モラルハザードって奴が正しいですかね。増えすぎた人口を養うために、他所から来た人間を奴隷にして、そうやっている内に、あっしらは他の大陸から疎まれるようになったんですわ。まぁ自業自得ですけどね。」
「でもね。人間ってのは不思議で。そういう毛嫌いした奴からでも『人を買う』という行為からは逃れなれないんですよ。人間は面倒なことを他人に押し付ける。金持ちは特にね。」
「嬢さんはどう思いますかね? 奴隷を売るあっしらと、奴隷を買う貴族たち。どっちが悪いと思いますか。」
 彼女が無言で杖を振り上げるのを見た。
 僕は行為が行われる前にソレを抑えた。
「ごめんなさい。私、今、貴方より全然冷静じゃない見たい。」
 僕は横に諭すようにゆっくりと振った。
「怒ってくれてありがとうアスピ。アスピが怒ってくれなかったら、僕が御者を斬り殺していたよ。」

     * * *

「じゃあ、お二人さん頼みましたよ。私はもちろん戦闘経験なんてありませんし。ホラ、餅は餅屋っていうでしょ。馬は馭者、ドラゴン退治は冒険者ってね。」
 僕たちは冒険者ではない。
 無論、あの白の顎門に身体を砕かれれば、運び屋に見つかり、教会で蘇生されることもなく死ぬ。
「あそこに行くには、目の前の洞窟を通れば良さそうだけど。」
「どうやらその必要は無さそうだけどね。」
 白竜様はご丁寧にも、僕たちを見つけるや否や、銀色輝く翼を羽ばたかせてこちらへと降りて来た。
 彼は僕らに襲い掛かる……ことはなく、その大きな翼で木々を揺らすと、ゆっくりこちらへと降りて来た。
[汝、我を討伐しに来たのか? ]
 あまりの出来事に、僕は耳を疑った。
 僕だけじゃない、アスピも目を点にして驚いている。
[人語はコレであっているな。]
 アスピはポッカリ呟く。
「魔導竜。」
[通じているではないか。]
 白竜は、つのを振って首を傾げた。
「そうだよ。ここの女王様との取引で。仲間を救うために、君を討伐してくれと。」
 白竜は鋭い眼光を赫く光らせると、構える。
[ならば、それ以上話すことはあるまい。死ね!! ]
「アスピ!! 後ろは任せた。」
 我に返ったアスピは大声で叫んだ。
「気をつけて。奴は魔導竜よ。」
 回転するアスピを背に、僕は木の股に足をかけると、白竜の首まで跳躍した。
 竜宮の剣がいつもより血を求めているきがする。
 手元でカタカタと震えた。
[フンッ。]
 白竜の薙ぎ払いをドゥルガで受け止めた。
 そして竜宮の剣で尻尾を両断する。
[アアン。]
 竜宮の剣が、爆発を起こす。
 予期せぬ事態に白竜は少し怯んだ。
[ギガフレア]
 その隙をアスピは見逃さなかった。
 地獄の業火を白竜へと叩き込む。
 雪で湿気っているはずの木が燃え始めた。
[ハッ!! ]
 白竜が翼を払うと、周りの木々は黒煙を上げながら、消火されてしまった。
「嘘…….最上級魔術よ。」
[小娘よ。我にそのような術が通用すると思ったか? 我魔導竜ゾ。]
 僕は腰を抜かすアスピを横目に、白竜の前へと走り出した。
[今度はこちらから行かせてもらうとするか。]
[オーロラ・ブレス!! ]
 爆ける可視光線の嵐に思わず目を顰める。
 だが、魔術に対する対抗策ならこちらにもある。
「ドゥルガ!!頼む!! 」
[アスィール!! 伏せろ。]
 ドゥルガの様子が明らかにおかしい。
 僕は彼女を信じて、体勢を低くし、頭を守る。
 刹那、耳をろうすような轟音と、凍てつくようなひょうが僕を襲う。
 ぐあっ!! 
______________

「……ィール。」
「アスィール!! 」
 彼女が右手で僕の身体を溶かしながら、左手で身体の治癒を行なっている。
 どうやら気を失っていたのは一瞬だったらしい。
 良かった。
「ありがとうアスピ。」
 僕は突き刺さった竜宮の剣を再び手に取ると、白竜へと向ける。
[いつの時代も人間というものは…… ]
 再び白竜が、顎門に何かを溜め始める。
[アレは魔術じゃない。分かるだろう?奴は文字通り息を吐くように魔力を放出している。]
 ドゥルガが僕にアドバイスをする。
 二度目はない。
 アレをもう一度喰らえば、僕は間違いなく死ぬだろう。
 だからと言って、アスピを見殺しにするわけには行かない。
 ここら一帯は足場が悪い。
 僕だけならなんとかなるだろうけど。
「本で読んだことがある。ドラゴンは、魔力の使い方が上手くて、魔術を唱えなくても、攻撃が出来るって。」 
 ドゥルガで防げないのなら、あの『手』を使うしかない。
--- 次元の腕パラレル・スクランブル---
 体勢を低くし、雪を掻き分けながら走る。
 そして右手で世界の片鱗を掴み取った。
「ビンゴ!! 」
 すぐさま僕は、その術を叫んだ。
---星鉄ショウテツ---
 僕の身体が鉛のように硬くなる。
 アスピも同時に、銀色の光沢に包まれた。
 身体が動かなくなる。
 だが今度は、耳を聾することも、雹に身体を吹き飛ばされることも無かった。
 嵐が止み、したり顔の白竜の輪郭が徐々に顕になる。
[エルフレア]
 星鉄の解けたアスピが、中級魔術を叩き込む。
[馬鹿の一つ覚えか。]
 吠える白竜。
 だが、彼女の狙いは白竜では無い。
[なっ!! 馬鹿な。]
 足元の雪が一瞬で溶け、白き巨躯は、熱湯へと落とされる。
 慌てて翼を羽ばたかせるも、翼についた水滴のせいで、上手くいっていないようだ。
 僕は走りながら奴に迫った。
「【珪眼流】」
  【捌ノ拳】
  【飛鐡ショウテツ
 翼に穴を穿ち、白竜の飛行を妨害する。
 そのまま回転しながら、奴の後頭部へと向けて武術を放つ。
 【竜巻招来タツマキショウライ
 白銀の大山は、そこで力無く倒れると、水飛沫を上げて、それから動かなくなった。

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

飯屋の娘は魔法を使いたくない?

秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。 魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。 それを見ていた貴族の青年が…。 異世界転生の話です。 のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。 ※ 表紙は星影さんの作品です。 ※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

神々に見捨てられし者、自力で最強へ

九頭七尾
ファンタジー
三大貴族の一角、アルベール家の長子として生まれた少年、ライズ。だが「祝福の儀」で何の天職も授かることができなかった彼は、『神々に見捨てられた者』と蔑まれ、一族を追放されてしまう。 「天職なし。最高じゃないか」 しかし彼は逆にこの状況を喜んだ。というのも、実はこの世界は、前世で彼がやり込んでいたゲーム【グランドワールド】にそっくりだったのだ。 天職を取得せずにゲームを始める「超ハードモード」こそが最強になれる道だと知るライズは、前世の知識を活かして成り上がっていく。

貧乏男爵家の末っ子が眠り姫になるまでとその後

空月
恋愛
貧乏男爵家の末っ子・アルティアの婚約者は、何故か公爵家嫡男で非の打ち所のない男・キースである。 魔術学院の二年生に進学して少し経った頃、「君と俺とでは釣り合わないと思わないか」と言われる。 そのときは曖昧な笑みで流したアルティアだったが、その数日後、倒れて眠ったままの状態になってしまう。 すると、キースの態度が豹変して……?

悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。

向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。 それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない! しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。 ……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。 魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。 木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

聖女は聞いてしまった

夕景あき
ファンタジー
「道具に心は不要だ」 父である国王に、そう言われて育った聖女。 彼女の周囲には、彼女を心を持つ人間として扱う人は、ほとんどいなくなっていた。 聖女自身も、自分の心の動きを無視して、聖女という治癒道具になりきり何も考えず、言われた事をただやり、ただ生きているだけの日々を過ごしていた。 そんな日々が10年過ぎた後、勇者と賢者と魔法使いと共に聖女は魔王討伐の旅に出ることになる。 旅の中で心をとり戻し、勇者に恋をする聖女。 しかし、勇者の本音を聞いてしまった聖女は絶望するのだった·····。 ネガティブ思考系聖女の恋愛ストーリー! ※ハッピーエンドなので、安心してお読みください!

処理中です...