闇堕勇者と偽物勇者

ぼっち・ちぇりー

文字の大きさ
上 下
43 / 104
呪いを解くため

父親

しおりを挟む
  防寒着を貰ったとはいえ、ノースランドは冷える。
 両腕を組んで、容赦ない北風に身体をガクガクガクガク、ブルブルと震わせる。
「こんな寒い中? なんで? 薪なんて市場に行けば普通に売ってるでしょ? 」
 農夫は大木を乗せる用のソリを引きながら、ボソボソと話し始める。
「高すぎる。私たちにはそんな金は無いさ。」
 高すぎる? そんなに家計が苦しいのだろうか?
「薪はどこの家でもつかう。商人はそれが分かっていて商品の値段を異常に釣り上げるんだ。」
「王都の方へは? 」
「直訴した奴が、教唆罪で捕まって処刑された。商人とも繋がっている。買収されたかどうかでな。」
「こんな土地じゃ農業なんて出来ない。だから、私たちは人を売って、税を払うことしかできなかった。」
「じゃあ、いっぱい木を斬って帰らないとね。お金に困らないように。」
「そうだな。今日は2人手だから、いつもより多くの薪を持って帰れそうだ。」
 農夫は斧を持つと、丁度良い大きさの樹木の幹をたたき始めた。
「力は入れなくて良い、コツは力のかけ方だ。斧の遠心力で正確に叩き込め。」
「そっちはダメだ。私のところに倒れて来る。私と同じ方角を叩け。」
 斧を振るうというモーションは何か似ている。
 そんな感じがした。
「めちゃくちゃだが、様になっているな。」
「そういやオマエは。」
「冒険者。今は訳あって、王都に行かなきゃいけないんだ。ここの王様に会わないと。アペシュの兜が必要なんだ。」
 コンコン。
 農夫は黙々と木に斧を打ちつけている。
「そうか。王都に…… 気をつけろよ。さっき言った通り、この国の政治は腐敗が進んでいる。」
「それと、それは母さんには言うな。母さんは絶対に止めに入る。」
「お父さんは? 」
「俺は止めない。おまえの能力を信じているからな。必ずお前は女王に会える。氷の女王にな。」
 コンコン
「オマエの冒険の話、聞かせてくれないか? 」
のことは師匠か聞いたことだけど…… 」
 コンコン
 それから僕は、アスィールが孤児で、王宮の魔道士から特別な能力、『魔法』を受け継いだこと、計画は、兄弟子の暴走で凍結されたということ。
 それから辺境の孤児院で生計を立てながら、他の被験者の子供たちと暮らしていたこと。
 その、自分の義理の姉と婚約していること。
 今は教会に保護されていること。
 そして、の自分について話した。
 お父さんは僕を疑わず、ただ、僕の話を無言で聞いていた。
 【虚偽平心キョキヘイシン
 日が傾く頃には、僕も木こりに慣れ、武術で、木を薙ぎ倒すほどになった。
 流石のお父さんも、僕が、切り口を作らずに、木を斬った時には、腰を抜かしていたが。
 ソリには大木をたくさん積むことができた。
「さぁ。帰って薪にするんだ。」
「うん。」
 帰りは僕がソリを引く。
 お父さんは後ろから、ソリを押してくれた。
「おいお前、そこの他所者は誰だ。新入りか。お上からは何も聞いていないが。」
 村人だ。
 彼もこの極寒の中、入会地で薪になるモノを探しに来たのだろう。
 蛇のような獲物を見る目。
 この人も、お父さんと同じく、生活に困っている。
 と、言うのなら。
「この方は客人だ。明日、王都へ向かうらしい。訳あって今日は家に住まわせることになった。」
 村人は、お父さんの耳に何やら囁くと、そのまま山の方へと帰ってしまった。
「さぁ、帰るぞ。母さんが待ってる。」

     * * *

 お父さんは家に帰るや否や、樹木の乾燥した場所を見つけ、切り出すと、火おこし機を取り出して、火種になりそうな干し草を取ってると、あぐらをかき始めた。
「ちょっと待って。」
「コレはコツがいる。私に任せなさい。」
 ---聖炎ショウエン---
 僕の右手から放たれた、ギラギラと迸る炎。
 それを火種に移すと、すぐさま、樹木へと移した。
「お前、魔術が使えるのか? 」
 魔法のことを話すとややこしくなるので、
「王宮魔道士の師匠から習った。」
 と一言だけ答えた。
「母さん!!火を起こせたよ。アスィールがやったんだ。彼は立派になって帰ってきた。」
 家の中へと走って行ってしまった。
「まぁ、アスィール。貴方、魔術の素質が? 」
 鼻がむず痒くなる。
「まぁ、ね。僕が王宮に引き取られたのも、素質を認められてのことだし。」
「さぁ、ご飯の支度をするから。中に入りなさい。」
 僕は彼女たちに背中を押され、家に入る。
     
     * * *

「へえ、アンタにも両親が? でもアンタ記憶がないんでしょ? 」
 僕はドゥルガを磨きながら、頷いた。
「そうだよ。でも感覚が覚えていた。母さんに抱かれた感覚。アレは間違いなく母だ。」
 アスピは、真っ赤な顔を顰める。
「確かにあの夫婦はアンタの名前を
「でもね。十数年も前のことをあの夫婦が覚えているとは考えにくいし、アンタ…… 」
「そんな訳無いよ。だって、お父さんたちは僕の名前を。」
「そんなモノ、魔術やら暗示でどうにでもなるわよ。アンタは幼い頃、あの両親に売られた。それは紛れもない事実。そして、この村の人間は…… 」
「分かってるよそれぐらい。」
[ってないね。アスィールは。]
 ドゥルガが出てくる。
[分かってるかい? アスピはこんな状況で、君はであの夫婦を実の両親だと勘違いしている。いや、させられている。コレで、君が奴隷商にでも売られてみろ、フォースは衰弱死するし、アスピはどうされるか分からない。みろよ、この村、アレだけ人間がいるのに、良い歳の人間ばっかり。コレがどう言う意味か分かるかい? ]
「みんな出稼ぎに出ているんだよ。」
[いいや、それならもっとこの村の人間はいい暮らしをしているはずだ。もう結論は出ているだろう? ]
[みんなここで生まれた人間たちは、物心ついた頃には、商品として売りにだされるんだ。そのために、みんな子供を産んでいる。]
 そこに乙姫が割って入った。
[ドゥルガさん!! ]
[チッ。邪魔をするな乙姫。僕が何か間違ったことを言っているかい?違うよな。]
[だとしても、もっと別の言い方があるでしょう。]
 乙姫はドゥルガと違っていい奴だ。
 コレが剣の化身だとは思えない。
 盾の方が、剣の方よりトゲトゲ強いじゃないか。
[面白くないそうなのに、邪魔するなよクズ。]
 何か聞こえたような気がする。
 きっと幻聴だ。
「アスィール。夕飯が出来たわよ。」
 母さんだ。
「アスピ? 立てるかい? 」
「私はパス。まだ調子が良くなくて。お腹も空いてないから。おばさまにそう言っておいて。」
 彼女は僕を背にすると、また眠り始めた。

 




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

飯屋の娘は魔法を使いたくない?

秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。 魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。 それを見ていた貴族の青年が…。 異世界転生の話です。 のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。 ※ 表紙は星影さんの作品です。 ※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

神々に見捨てられし者、自力で最強へ

九頭七尾
ファンタジー
三大貴族の一角、アルベール家の長子として生まれた少年、ライズ。だが「祝福の儀」で何の天職も授かることができなかった彼は、『神々に見捨てられた者』と蔑まれ、一族を追放されてしまう。 「天職なし。最高じゃないか」 しかし彼は逆にこの状況を喜んだ。というのも、実はこの世界は、前世で彼がやり込んでいたゲーム【グランドワールド】にそっくりだったのだ。 天職を取得せずにゲームを始める「超ハードモード」こそが最強になれる道だと知るライズは、前世の知識を活かして成り上がっていく。

どうも、死んだはずの悪役令嬢です。

西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。 皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。 アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。 「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」 こっそり呟いた瞬間、 《願いを聞き届けてあげるよ!》 何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。 「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」 義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。 今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで… ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。 はたしてアシュレイは元に戻れるのか? 剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。 ざまあが書きたかった。それだけです。

貧乏男爵家の末っ子が眠り姫になるまでとその後

空月
恋愛
貧乏男爵家の末っ子・アルティアの婚約者は、何故か公爵家嫡男で非の打ち所のない男・キースである。 魔術学院の二年生に進学して少し経った頃、「君と俺とでは釣り合わないと思わないか」と言われる。 そのときは曖昧な笑みで流したアルティアだったが、その数日後、倒れて眠ったままの状態になってしまう。 すると、キースの態度が豹変して……?

聖女は聞いてしまった

夕景あき
ファンタジー
「道具に心は不要だ」 父である国王に、そう言われて育った聖女。 彼女の周囲には、彼女を心を持つ人間として扱う人は、ほとんどいなくなっていた。 聖女自身も、自分の心の動きを無視して、聖女という治癒道具になりきり何も考えず、言われた事をただやり、ただ生きているだけの日々を過ごしていた。 そんな日々が10年過ぎた後、勇者と賢者と魔法使いと共に聖女は魔王討伐の旅に出ることになる。 旅の中で心をとり戻し、勇者に恋をする聖女。 しかし、勇者の本音を聞いてしまった聖女は絶望するのだった·····。 ネガティブ思考系聖女の恋愛ストーリー! ※ハッピーエンドなので、安心してお読みください!

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

処理中です...