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イーストランドへ
離別
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「勇者よ。この度は大義であった。」
僕は首を上げて、王の方を見た。
感謝と、懐疑心と、煩わしさが混ざった複雑な顔。
「お褒めの言葉を頂けて光栄です。」
自身の脳を駆け巡る複雑な感情のせいで、彼に上手く思いを伝えることが出来ない。
だが、コレが最適解だったのだと僕は思う。
『ゴホンゴホン』
バロア王が咳き込んだ。
クリートが彼の背中を摩る。
「すまない。体調があまり良くなくてな。その剣はソナタに預ける。」
「それで魔族から狙われなくなるのならば、結界など不要だ。」
「ありがとうございます。殿下もお体にお気をつけて。」
* * *
「セブンス。ソナタはどうする? 」
私はバロア王に話を振られたことで我に帰った。
「私はフォースと、バロア城の一件を一度ウェストランドに伝えるために、渡航しようと考えています。」
「そうか…… フォース殿の件、ノーストランドのアペシュの兜なら呪いを解けるかもしれん。そう思って、セブンス殿にも同行して欲しかったのだが。」
あのジジィ。余計なことをベラベラと。
こうなれば、なんとしてでもアスィールたちの邪魔をしなければならない。
「ワシが、彼女……氷の女王に封書を送ろう。検討を祈る。」
* * *
王が玉座を出たあと、クリートさんがこちらにやって来た。
「すみませんアスィール様。王がこんな状態で、ここを開けるわけにはいきません。」
「ですから。」「大丈夫。」
「大丈夫だよクリートさん。僕たちに任せて。アスピだっているんだ。彼女は一緒にノース・ランドに行ってくれるって言ってくれたんだ。」
「だって!! しょうがないでしょ。こんなことになって。アンタ一人だけを置いてはいけない。」
彼女の気の強い口調は、少し弱々しくなっている。
無理もない。
少しの間とはいえ、一緒に冒険して来た仲間が、自分の故郷でこんなことになってしまったのだから。
僕は棺桶に入っているフォースを見た。
「こんなところに生きた人間を入れるべきじゃないかもね。」
「馬鹿言わないで。」
彼女に怒られてしまった。
「アスィール様。」
「大丈夫だって。だって僕たちは勇者だから。並大抵のことじゃ死んだりしないし、ましてや折れてしまうこともない。必ずフォースを目覚めさせてみせるよ。」
「ご検討を……お祈りします。」
こうして僕たちは二人になってしまった。
北方諸国は年中厳しい場所だと言う。
だが、フォースのタイムリミットを考えると、クズクズしてはいられなかった。
今はアスピが補助魔法をフォースにかけて、なんとか命を繋いでいるが、それもいつまで続くか分からない。
今の彼は身体が死んでいるも同然だ。
その状態が続けば……
「行こうアスピ。船は何処だい? 」
「バロア王が、城の地下に隠した、荒波をも越えられる立派な魔導船がある。それを持って行って良いって。」
「借りるんじゃなくて? 」
「知らないわよ。バロア王は、城が襲われたのも、私たちのせいだって考えているみたい。遅かれ早かれだったでしょうに。」
「僕たちが襲わせたようなもんだよ。」
僕はアスピに手を出した。
「フォースは僕が担ぐ。」
「何よ。つい最近まで、山を登るだけでへこたれていた奴が。」
そうだ。
今の僕は、ドゥルガと乙姫を担いでいるが、重いとは微塵も思わない。
確かに今は登るのではなく降る作業だが。
エレベータと呼ばれる僕らを覆う二畳の箱は、ゆっくりと地上へ堕ちていっていた。
小舟を出す地下水路よりまだ下、水深0メートルを目指している。
「ごめんねアスピ。君にも付いてきてもらって。君は、ここで王様の護衛をしているべきだった。」
「言ったでしょ。私も負い目を感じているって。罪滅ぼしよ。コレも。」
「そう言ってくれると、こっちの気持ちも楽になるよ。」
「何それ!! アンタ無理してない? 」
「……してないよ。僕は勇者としての…… 」
「勇者勇者って!! アンタは!! アンタはどうしたいのよ。アスィールは。無垢で純粋で毒舌なアンタは!!」
「僕は僕だよ。」
苦し紛れの言い訳を彼女は見抜いていた。
今は二人で争っている場合ではない。
そのことは彼女も分かっていた。
だから彼女は必死に怒りを抑えている。
「ホラついたわよ。アンタ、魔導船は動かしたことないわよね。私が操縦するから。アンタは私が用意したチェックリストを確認して、船に問題がないか確かめて。」
彼女にスクロールを渡される。
言われた通りに船を調べ、この船が普段から人の手によってメンテナンスが行われていることを確認してから、バロア城の人たちに深く感謝し、それからチェックリストを彼女に渡した。
「魔力動元、燃料、ボイラーに、スクリュー、ともに異常なし……ね。」
「気が散るから向こうに行ってて。」
彼女に言われるがまま、制御室を出る。
彼女は今にも爆発しそうだった。
少しでも冷静にさせるために、今は彼女の近くにいない方が良い。
「ありがとう。疲れたら言って。僕が変わるから。」
「アンタに出来んの? 」
「出来ない。だから教えて欲しい。」
「良いわよ。私がやった方が早くノースランドに着くから。」
「そう。」
僕と彼女の心は完全に離れている。
ただ一つ、フォースという仲間の存在だけが、僕らをかろうじて繋ぎ止めていた。
ここに突っ立っていても、彼女の邪魔になるだけなので、その場を後にすることにした。
僕は首を上げて、王の方を見た。
感謝と、懐疑心と、煩わしさが混ざった複雑な顔。
「お褒めの言葉を頂けて光栄です。」
自身の脳を駆け巡る複雑な感情のせいで、彼に上手く思いを伝えることが出来ない。
だが、コレが最適解だったのだと僕は思う。
『ゴホンゴホン』
バロア王が咳き込んだ。
クリートが彼の背中を摩る。
「すまない。体調があまり良くなくてな。その剣はソナタに預ける。」
「それで魔族から狙われなくなるのならば、結界など不要だ。」
「ありがとうございます。殿下もお体にお気をつけて。」
* * *
「セブンス。ソナタはどうする? 」
私はバロア王に話を振られたことで我に帰った。
「私はフォースと、バロア城の一件を一度ウェストランドに伝えるために、渡航しようと考えています。」
「そうか…… フォース殿の件、ノーストランドのアペシュの兜なら呪いを解けるかもしれん。そう思って、セブンス殿にも同行して欲しかったのだが。」
あのジジィ。余計なことをベラベラと。
こうなれば、なんとしてでもアスィールたちの邪魔をしなければならない。
「ワシが、彼女……氷の女王に封書を送ろう。検討を祈る。」
* * *
王が玉座を出たあと、クリートさんがこちらにやって来た。
「すみませんアスィール様。王がこんな状態で、ここを開けるわけにはいきません。」
「ですから。」「大丈夫。」
「大丈夫だよクリートさん。僕たちに任せて。アスピだっているんだ。彼女は一緒にノース・ランドに行ってくれるって言ってくれたんだ。」
「だって!! しょうがないでしょ。こんなことになって。アンタ一人だけを置いてはいけない。」
彼女の気の強い口調は、少し弱々しくなっている。
無理もない。
少しの間とはいえ、一緒に冒険して来た仲間が、自分の故郷でこんなことになってしまったのだから。
僕は棺桶に入っているフォースを見た。
「こんなところに生きた人間を入れるべきじゃないかもね。」
「馬鹿言わないで。」
彼女に怒られてしまった。
「アスィール様。」
「大丈夫だって。だって僕たちは勇者だから。並大抵のことじゃ死んだりしないし、ましてや折れてしまうこともない。必ずフォースを目覚めさせてみせるよ。」
「ご検討を……お祈りします。」
こうして僕たちは二人になってしまった。
北方諸国は年中厳しい場所だと言う。
だが、フォースのタイムリミットを考えると、クズクズしてはいられなかった。
今はアスピが補助魔法をフォースにかけて、なんとか命を繋いでいるが、それもいつまで続くか分からない。
今の彼は身体が死んでいるも同然だ。
その状態が続けば……
「行こうアスピ。船は何処だい? 」
「バロア王が、城の地下に隠した、荒波をも越えられる立派な魔導船がある。それを持って行って良いって。」
「借りるんじゃなくて? 」
「知らないわよ。バロア王は、城が襲われたのも、私たちのせいだって考えているみたい。遅かれ早かれだったでしょうに。」
「僕たちが襲わせたようなもんだよ。」
僕はアスピに手を出した。
「フォースは僕が担ぐ。」
「何よ。つい最近まで、山を登るだけでへこたれていた奴が。」
そうだ。
今の僕は、ドゥルガと乙姫を担いでいるが、重いとは微塵も思わない。
確かに今は登るのではなく降る作業だが。
エレベータと呼ばれる僕らを覆う二畳の箱は、ゆっくりと地上へ堕ちていっていた。
小舟を出す地下水路よりまだ下、水深0メートルを目指している。
「ごめんねアスピ。君にも付いてきてもらって。君は、ここで王様の護衛をしているべきだった。」
「言ったでしょ。私も負い目を感じているって。罪滅ぼしよ。コレも。」
「そう言ってくれると、こっちの気持ちも楽になるよ。」
「何それ!! アンタ無理してない? 」
「……してないよ。僕は勇者としての…… 」
「勇者勇者って!! アンタは!! アンタはどうしたいのよ。アスィールは。無垢で純粋で毒舌なアンタは!!」
「僕は僕だよ。」
苦し紛れの言い訳を彼女は見抜いていた。
今は二人で争っている場合ではない。
そのことは彼女も分かっていた。
だから彼女は必死に怒りを抑えている。
「ホラついたわよ。アンタ、魔導船は動かしたことないわよね。私が操縦するから。アンタは私が用意したチェックリストを確認して、船に問題がないか確かめて。」
彼女にスクロールを渡される。
言われた通りに船を調べ、この船が普段から人の手によってメンテナンスが行われていることを確認してから、バロア城の人たちに深く感謝し、それからチェックリストを彼女に渡した。
「魔力動元、燃料、ボイラーに、スクリュー、ともに異常なし……ね。」
「気が散るから向こうに行ってて。」
彼女に言われるがまま、制御室を出る。
彼女は今にも爆発しそうだった。
少しでも冷静にさせるために、今は彼女の近くにいない方が良い。
「ありがとう。疲れたら言って。僕が変わるから。」
「アンタに出来んの? 」
「出来ない。だから教えて欲しい。」
「良いわよ。私がやった方が早くノースランドに着くから。」
「そう。」
僕と彼女の心は完全に離れている。
ただ一つ、フォースという仲間の存在だけが、僕らをかろうじて繋ぎ止めていた。
ここに突っ立っていても、彼女の邪魔になるだけなので、その場を後にすることにした。
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