闇堕勇者と偽物勇者

ぼっち・ちぇりー

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イーストランドへ

反撃

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[アスィール。乙姫とも契約したんだね。]
 彼女の顔は分からない。
 だが彼女が、このことをあまりよく思っていないということは声で良くわかる。
「ごめんドゥルガ。このままじゃアスピを護れないからさ。」
「乙姫も、本当は他者を傷つけたくないんだ。でも本能がそうさせてしまう。」
「だから……斬る相手は僕が決めることにした。」
[キミが後悔しないように、一つ忠告しておくよ。]
[ソイツは嘘つきで性悪で、自分のことしか考えていない利己的な奴だ。]
[アスィール。キミは騙されているよ。]
 乙姫は悲しそうな顔をした。
[ドゥルガはいつも私に酷いことを言うのね。]
[気安く僕の名前を呼ばないで欲しいね。]
「信じるよ。君のこと。」

[ったく。童貞野郎が。どうなっても知らないからな。]

 僕は無言で竜宮の剣を構えると、火傷男向けて、剣の力を使った。
 凍てつくような吹雪が、剣の鋒から溢れ出し、火傷男に纏っていた闘気を打ち消した。
「チッ。もうソイツを使いこなしたか。」
 動きが鈍くなった彼の懐に、接近して、今度こそ水平斬りを放つ。
 火傷男は身体を限界まで引き絞ると、身体をくの字に曲げて攻撃を交わした。
 地面を蹴ってバックステップ。
 四肢を使い、体勢を崩さないように着地すると、身体のホコリを払った。
「良いぜ。疾風ごときで俺に追いつけるってなら。やってやろうじゃねえか。」
 彼は跳躍すると、廊下の壁を走り始める。
 僕は剣を構えた。
 向かって右の方から、火傷男が、剣を構えて走ってくる。
 跳躍すると、回転しながら切り掛かってきた。
 僕は逆手で剣を斜め上に構えて攻撃をパリィする。
 弾かれた火傷男はそのまま両足で、蹴りの攻撃を入れてくる。
 剣は振り切らずに留めておいて正解だった。
 迫り来る脚を、自身の剣で迎え撃つ。
「パンッ」
 乾いた音と共に竜宮の剣が弾ける。
[敵を斬ることでエクスタシーに浸りやがったか。相変わらず気色の悪い奴だよお前は。]
[ハハハッ!! 何年振りかしら、肉を斬ったのは!! ]
 火傷男は、くるぶしから煙を上げながら、僕と距離を取った。
「チッ、子供騙しみたいなことをしやがって。」
 彼が体勢を低くし、自身のエモノを引き絞るように後ろに構えた時から、僕も竜宮の剣を構え直し、今度は柄を身体の腹部で構え、いつでもそれに応戦できるようにする。
 跳躍し、さっきまで僕がいた場所を、神速の一撃が通る。
 その刹那、火傷男の剣の上に飛び乗り、神速の一撃を止めた。
「テメェっ!! 」
 速さが逆転したこともある。
 さっきまで火傷男が僕にしていたことを、今度は僕がし返した。
 剣を蹴り返し、彼は反動で後ろにのけ反る。
 僕はと言うと、慣性に逆らい、体幹で無理やり前進すると、彼の頭へ向けて、連続蹴りを繰り出した。
「グガッ。」
 初めての手ごたえ。
 地面に着地した瞬間に、思いっきり蹴り上げ、逃げる彼を追う。
 斬り下ろし。
 だが、斬撃だけは喰らわまいと、彼は自身の剣でその攻撃を防いだ。
 竜宮の剣が火傷男の皮膚を捉えることは無かったので、追撃が不発に終わる。
 弾かれた慣性に身を委ねながら、軸を傾けてながら回転し、遠心力を利用して、今度は左側から斬りかかる。
 火傷男はとは言うと、剣をL字に切り返し、攻撃を防いだ。
 柄が持って行かれて、手首が捩れる。
 身体を回転させ、そのまま宙に舞い、両手で着地する。
 竜宮の剣を脚で握り、彼をさらに追い詰める。
[ギガ・スパーク]
 目が慣れてきた彼女が、火傷男向けて呪文を放った。
 が、彼はこれを関節を外して、到底人とは思えない体勢になりながら、それを避けた。
 廊下の突き当たりにポッカリ穴が開く。
「魔族になるってこったあ、良いことだぜ。なんせ、あんな命を削る強化術を使っても、こうやって身体をあべこべにしちまっても命を落とすことはないってことだからなぁ。」
 僕は廊下のつきあたりで、止まると、剣をヒュンヒュンと払ってから腰に収めた。
「どうした? まだまだ俺とやりあえるだろ? 」
「君に僕と因縁があろうとも、。」
 彼は重力に引かれながら、唾を『ぺっ』と吐いた。
「エシール。それがお前を苦しめて殺す魔族の名だ。」
 しばらくして、彼が見えなくなったところで、パッと光り、風の魔術が発動する音が聞こえた。
「ごめん、アスィール。逃しちゃった。」
 アスピが慌てて走ってくる。
 危うく落ちそうになる彼女をガッチリ掴んで、廊下に引き戻した。
「いや、アスピが無事でよかった。」
 それより。
 師匠にこのことを報告しないと。
「アスピ殿!! 」
 傷だらけの兵士が、彼女の元へと走ってくる。
「急に魔物の奴らが撤退し始めました。」
「それより。フォース殿が。」

 それからのことはあまり覚えていない。
 食堂に向かうと、セブンスが気絶したフォースを担ぎ上げて待っていた。
 どうやら魔族に呪いをかけられてしまったらしい。
 そして一夜明けて次の日に、僕は再び王宮に呼び出されることになった。

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