闇堕勇者と偽物勇者

ぼっち・ちぇりー

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イーストランドへ

竜宮の剣

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「アスィール!!大丈夫? 」
 アスピが僕に回復魔術を当てる。
 そうだ。ここを守る魔術結界は解除された。
 何者かが解除したんだ。
 かと言って、状況は変わらない。
「っと。アレ? 俺キー失ってた? へへ。どうやらお前の剣は破壊しちまったみたいだな。」
「ハハハッ!! 」
 アスピが僕に盾を差し出す。
「コレ!! 」
 僕は首を振って否定した。
「それはアスピが持ってて。」
 僕は腰から十二使徒専用の短剣を取り出した。
 十字の形をした、フォースの愛用している武器。
[ハピネス・ブレッシング]
 アスピが唱えた神の息吹が、僕の体を包み込む。
[プロテクション]
 コレで身体が鎧のように硬くなった。
 コレで剣無しでも戦えるようになる。
 短剣を逆手に構える。
 ナイフの扱いは基礎中の基礎、それだけしか習っていない。
 というかフォースから習う時間が無かった。
 彼と間合いを保つのは難しい。
 投げるか?
 いや、彼を一発で仕留められる可能性は限りなくゼロに近い。
 ここは防御のためにも、短剣は手に持って置くべきだ。
「来ねえなら、こっちから行かせてもらうぜぇぇ。」
---煉獄炎レンゴクエン---
 火傷男の左腕から、紫色にメラメラと煌る炎の蛇が履いて出てきた。
 僕は防御の姿勢を取るが、火の蛇は生き物のようにウネり、対象を捕食しようと首を伸縮させる。
「ホラ!!動きが止まってんぞ。」
 アスピのバフがあるとは言え、自分の速さで彼に追いつくには無理がある。
 そして彼には攻撃魔術がある。
 アスピが杖を構え、僕を援護しようとしているのは見て取れる。
 だが、彼女の動体視力が、火傷男の姿を捉えているとは考え辛い。
 ここだ。 
 ここで僕のアレを使うしかない。
 深呼吸して、心を整える
 集中し、目の前の炎をじっと見つめた。
 斬撃は無視して、炎を避けることだけに集中する。

--- 次元の腕パラレル・スクランブル---

 無数にある世界の渦に右腕を突っ込む。
 僕が引き当てたのは……

---聖炎ショウエン---

 ギラギラと迸る、聖なる炎の鳥が、火の蛇を薙ぎ払う。
「コイツは面白え!! お前も獄炎を!! 」
「コレは獄炎じゃない!!聖炎だ!! 」
 火の鳥は、身体をまっすぐ伸ばすと、回転しながら、蛇に喰らい付いた。
 蛇は抵抗虚しく消滅し、同時に僕の火の鳥も消滅する。
[ファイヤー・エンチャント!! ]
 火傷男は、蛇の残り火を自身の剣に引き寄せて、僕に斬りかかってくる。
 二段突き、切り上げ、回って水平斬り、ジャンプで、剣の頭身に乗り、飛び膝蹴り。
 左腕で弾き返され、勢いを殺さずにそのまま回し蹴り、切り上げを短剣でパリィする。
「ヒッ!! 」
 火傷男は、僕に隙が出来るのを待っていたかのようである。
 パリィでのけぞり、無防備になっている僕に、火傷男の回し蹴りがくりーんひっとする。
「ガァッ。」
 腹部を強打し、胃酸を吐いた。
 今度は壁に背中を強打し、全身が痺れる。
 顎を蹴り上げられ、脳天から、白の天井に頭をぶつけた。
 アスピの防御魔術のおかげか、幸運付与のおかげか、なんとか致命傷は免れることが出来たが、身体はもう動かない。
「まだ……だ!! 」
 僕は立たなければいけない。
 僕は諦めてはいけない。
 そう言った責務と強迫観念が、かろうじて僕の意識を繋いでいる。
「良い加減楽になれッ、よ。」
 僕のハラワタに、剣が突き立てられる。
 乾いた音と共にプロテクションが消滅する。
 いよいよ後がなくなった。
 刹那、白の天井が崩壊する。
 地に堕とされた僕たちは、月の浮かぶ宇宙そらをマジマジと見つめた。
 その要因は、彗星のように青々と瞬き、何か意思を発している。
 僕は彼女を求めた。
 藁をも掴む思いで
 強く
 目を涙で濡らしながら
 なぜ泣いていているのかは、自分でもよく分からない。
 自分の無力さに嫌気がさしているのか、はたまた、その剣が美しすぎて涙が出ているのか。
 蒼い剣はゆっくりと僕の方へ降りてくると、世界はまた純白の光に飲み込まれた。


[あ、あのぉ。貴方は勇者ではありませんよね。]
「僕は勇者ではないよ。」
[すみません。貴方があんまりにも私を求めるものですから……つい。]
「頼む!! 君の力を僕に貸して欲しい。今の僕の力量では、アスピを守ることができない。」
[力を貸すのは良いですけど…… ]
 彼女が俯く。
[私、斬りたくないんです。魔族も人間も。]
「強要はしないよ。僕も好きで魔族を斬ってきたわけじゃない。」
[でも……でも斬りたくて。欲望を抑えきれないんです。だって私、剣だから。]
[せめて斬っても罪悪感が湧かない相手を……私最低ですよね。]
 葛藤は誰にしもある。
 僕にだって。僕にもっと力がアレば、ディアストを無力化出来れば、捕縛することができれば、彼らディアストとアスピはまた一からやり直すことができたかもしれない。
 人類も、自分の罪を顧みるキッカケができたかもしれない。
 だが、そんなもの、過去を悔いたって、今の僕が強くなるわけではないのだ。
「分かった。でも、相手を斬るかどうかは僕が決めるよ。僕は君の持ち主になるんだから。」
「[オウス・ヴォブ]」
 彼女と僕は、同時に契約の詠唱を行った。
                        [ちょっろ。]

 竜宮の剣の柄を強く握り、再び僕は立ち上がる。


 
 
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