闇堕勇者と偽物勇者

ぼっち・ちぇりー

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イーストランドへ

ディアストについて

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 食後、僕は教会の書斎に呼ばれた。
「二人は? 」
「教祖様に会いに行ったよ。話が弾んでいるみたいで、しばらく帰って来なさそう。」
「なら良い。行くぞ。」
 フォースは本棚の紫色の本を引き抜いた。
 それから十字架の短剣を取り出すと、鞘を使ってを押す。
 ガタンっと地面が揺れて、
「少年、下がれ。」
 本棚が飛び出して来たかと思うと、左にスライドした。
 奥から隠し階段が。
「すごい音鳴ったけど。みんなにはバレない? 」
「書斎が防音室じゃない訳ないだろ。」
「なるほど、それもそうだね。モノを隠すにはもってこいだ。それに書籍となれば尚更ね。」
 僕はフォースの後を追う。
 僕が階段へ降りたと共に、本棚が閉まった。
「なんでアスピたちを連れてこなかったの? 」
「コレはお前も知っておくべきことだが…… クリートの表情を見て分かっただろ。コレから話すことは、人類の深淵の闇に触れることになる。もちろん、そのことにはアスピも関わっている。ここイーストサイドの人間なら知らない人間なんていないさ。」
 地下の大きな鉄扉間を二回に分けて、三回ノックすると、中からドアノブが開く音がして、中から案内役だった神官が出て来た。
「……ようこそおいで下さいました…… 」
「……書斎ではどうかお静かに…… 」
 神官が手を立てて小声で囁いた。
「フォース様、まずはどの辺りから説明しましょうか? 」
「勇者創生から頼む。」
「はい分かりました。」


___今より数千年も昔、女神ティアマトとその伴侶アプスーは世界をお創りなりました。女神は最初に世界を作り、そこに自分の分身である愛しき人間をつくりました。
 アプスー様は、そこに塩水を振り撒いて海をつくりました。
 それから魔族、勇者因子を創りました。
 


「勇者因子って何? 」
「アスィール様。勇者因子とはアプスー様の加護。人間が、魔族に対抗できるように、魔王が現れた来る時に赤子にランダムに宿るように魔術が組み込まれた仕組みそのものでございます。」
「そのアプスーってやつは悪い神様だね。魔族なんて最初から生み出さなければ、勇者なんて必要ないのに。」
 そこでフォースが割って入る。
「お前はせっかちだな。青年だった時よりもずっと。話は最後まで聞くべきだ。」
「作用でございます。話には続きがある。」
「実は一度、人間は、勇者は魔王に勝ったのでございます。それも、最初の一回目で。今は殆ど見受けられず、どのような人物であったかは分かりかねますが…… 今は貴方様のお持ちのドゥルガの盾ですら、製造方法が分からない状態ですし。」
 神官は続ける。
「魔王は死に、魔族たちは人間の脅威では無くなりました。そして勇者が老衰し、一世紀ほど経った後……人間たちによる勇者の防具の争奪戦が始まったのです。」
「沢山の国が争い、傷つき、幾たびの国が滅び、栄え、それでも人間は争うことを辞めませんでした。」
「事態を重く見た女神は勇者の防具に、勇者しか扱えない呪いをかけ、人間が争わないようにするために、次世代の魔王にある協定を結ばせました。」


「それが、冒険者システムの誕生です。」


「魔王は人間たちの戦う意志を削ぐため。女神ティアマトは、人間に共通の敵を作り、人々を争わないようにするために、それぞれ契約を結びました。」
「また、ティアマト様は、勇者が生まれて来ても魔王を倒さないように、彼らを魔女として異端審問にかけ、処刑するように命じました。」
「『彼らの存在は争いを生む。』と。」
「それから、数千年前から、現代に至るまで、勇者が魔女狩りから逃れたことはありません。ディアスト様を除いて。」
「私たちイーストサイドはこのような啓示を頂きました。多分相当焦っていらっしゃるのでしょう。」
 僕は質問した。
「じゃあなんで女神様は、アスピのことも処刑しようとしているの? 」
「それは……アプスー様が、ティアマト様に黙って勇者因子を分けて宿らせたからだとか。」
「彼らは年も違いますし、当然二卵性です。ですが、能力の一部は、ご存じの通り、アスピ様に宿った。アプスー様の話し方から察するに、コレは遺伝子が関係するモノではないようです。」
 僕は立ち上がった。
「じゃあすぐにでも人々にこの真実を伝えるべきだよ。」
「それは……女神様が許さないでしょう。それに真実を伝えたところで…… 冒険者も非冒険者も混乱するだけです。冒険者には魔王を倒す力が無ければ、非冒険者には魔族と戦うほどの胆力もない。そんなモノ、遠の昔に消失してしまったんです。」
 フォースが腕を組む。
「お前の師匠は、アプスーから啓示と能力を授かった超人だ。そして今、それはお前の体に宿っている。」
 多元憑依ディメージョンズ・ギフト。僕の体に宿っている……そうだ、フォースはコレを魔術ではなく魔法だと言っていた。
「アスィール様、貴方の魔術や武術は別世界から来ているモノ? そうではありませんか? 」
「よく分からないよ。前の僕なら感じていたかもしれない。」
 そこでフォースが握り拳を唇に押し当て、首を傾げた。
「いずれにせよ、人工的にでも勇者が発生したと言うのなら、女神がその事実に気づく。ということはあながち君の言っていることは間違いではないのかもしれない。アプスーの狙いも読み取れる。」
「先日、ビギニアで凱旋があったそうですが? 」
「今はまだ泳がされているだけかもしれない。いずれにせよ女神は私たちの味方ではないということだ……っと。」
「誰か来ました。」
「私が行って来ます。」
 神父が鉄の重い扉をそっと開けて書斎の方へ出ていく。
 僕とフォースは床下から聞き耳を立てた。
「コレはコレはセブンスさんでしたか。今私も職務が終わりましてね。食堂で一杯どうです? 」
「良いですね。私も報告書続きで身体が堪えて来てしまって。赤ワインでも身体に入らないとやっていけそうにありませんよ。神の子の血をね。」

 
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