闇堕勇者と偽物勇者

ぼっち・ちぇりー

文字の大きさ
上 下
29 / 104
イーストランドへ

城を目指して

しおりを挟む
「フォースさんは、息一つ上がってませんね。」
 そういうクリートもいつものクールでビューティーな女性である。
「みんな!! 待ってよ。」
 アスピは僕に振り向こうともしない。
 黙々と石段の一段一段を踏み超えていく。
「巡礼で…… まぁ自身の置かれている立場というモノもある。私はヘブンズの戦闘担当だからな。仕事をこなすためにも日々の鍛錬は欠かせなかった。」
「それと違って……. 」
 クリートさんが僕の方を指さす。
「おーい。もう荷物が重くて。誰か持ってくれない!! 」
「少年は体力が無いのではない。山に慣れてないだけだ。石段を登る行為は普段使わない筋肉を使う。それに酸素も薄くなって来た。普段から高所で暮らしている君たちと少年とではまるで身体の適応力が違う。」
「ねぇ、さっきから無視してばっかりでさぁ。フォース。重いよぉ。」
 フォースは僕に振り返り、首を横に振った。
「弟子の荷物を持つ師がどこにいる? 逆に私の荷物をお前が持つべきだろう? 弟子としてその程度の気配りも出来ないようだな? 」
「そんなぁ!! 」
 アピスが無言で手を差し出してくれる。
「呆れた。勇者とか言ってたくせに、自分の身体の面倒も見れないなんて。」
「ごめん、助かるよ。」
「盾……重いんでしょ。」
「うん、ちょっとね。途中で置いて行こうと思った。もう口すら聞いてくれなくてさ。こんなの産業廃棄物だよね。」
「さん……? まぁ良いけど、アンタそれ、王様から貰った大事な盾でしょ。そんなこと、言わない方がいいわよ。人の気持ちは大切にしないと。」
「うん。そうだね。アピスは優しいから、周りの人を心配させないために、猫を被っているんでしょ? 」
「うっ!! そういうところよ。もう荷物持ってあげないわよ。」
 また彼女を怒らせてしまった。
「ごめんなさい。勇者になるには、そういうところも直さないと。」
 彼女は僕の荷物を担ぐと、クリートたちの後を追った。
「いんじゃないの。アンタはアンタで。さっきの言葉、あながち間違いじゃないからさ。勇者の妹なんていう肩書きが無ければ、あんな風には振る舞わないわよ。」
「荷物、ありがとう。やっぱりアスピは優しいね。おかげでなんとか石段を登っていけそうだ。」
「ちゃんと鍛えないとダメよ? 」
「うん。」
 山の中腹まできた頃だろうか?
 生い茂る木々の間から、懸け造りの石建築が現れ始めた。
「見て、アレがイーストサイドの本拠地。本店よ。」
「ってことは。イーストサイドには、チェーン店が存在するの? 」
「ウェストにもあるわよ。世界のいたるところにね。宗教ってそんなもん。必要なのよ、どこの人間にも。」
「そういえばさ。アスピは信仰しているの? 女神ティアマト様? 」
 彼女は苦笑いをした。
 またイケナイことを聞いてしまったか。
 本来、こういう宗教的なことは聞かない方が良いのかも知れない。
「形式上はね。教義だから。でも加護は受けてないわ。私はこの旅が終わったら。」
 首に右手で手刀を作り当てがった。
 彼女は何にも言わない。だが、意味は分かった。
 彼女は魔王を倒した最後、教会によって兄と同じように処刑されるのだ。
「まぁ拾った命だし? それにさ、肉親を殺した奴の加護なんて、まっぴらごめんだわ。」
 それから彼女はクスクスと笑った。
「聞いたわよ。フォースから。アンタは魔王を倒したら故郷の義理の姉と結婚するんだって? 」
「そう。リワン姉ちゃんと僕は許嫁だから…… 」
「馬鹿みたい…… 馬鹿みたいでとっても良いわね。」
「ねぇ? 」
「魔王を倒した人間は、他の人間からどう見えるかしらね。」
 僕は少し考えた。
 でもまだその意味が僕には分からなかった。
「ねぇ。お花畑のアンタに教えてあげる。」
「人間には気をつけなさい。貴方が思っているほど、人間っていうのは、脅威にも恐れにも強くない。このことだけは絶対に忘れないで。」
 彼女がじっと僕の目を見る。
 ディアストと同じ金色の瞳、だ。これだけは彼女の本心から来たモノだと理解できた。
「分かった。」
「でも。」
「アスピのことも必ず助けるよ。」
「へぇなんでぇ?」
「勇者だから。」
「さっきの話聞いてた? 」
 そうこうしているうちに、僕たちは、アスピたちの本拠地へと辿り着いた。
「コレはコレはフォース殿。慣れない旅路で疲れたであろう。ささ、お荷物を。」
 フォースは登山でガクガクになっている僕を指差した。
「アレの方が消耗が激しい。持ってやってくれ。」
「コレはコレは勇者様。」
 ウェストサイドの人に荷物を持ってもらえて、一息つけた。
「ふう。助かったぁ。」
「勇者どの? その盾も。」
 僕はドゥルガを抱き抱えて、背を向ける。
「剣はお願い。でもコレは手放せないよ。人から貰ったモノなんだ。それもビギニア王から。」
「コレはコレは失礼いたしました。」
 そうこうやりとりをしているうちに、奥から見慣れた格好をした神官がこちらにやって来る。
 フォースと同じヘブンズの法衣。
「セブンスか。入れ違いだと思っていたが……護衛ご苦労。」
 彼は腕を前に組むと軽く一礼した。
「そちらこそ、盾の死守お疲れ様。ファーストから連絡があってですね。せっかくですからそのままアスィールたちの護衛をしなさいと。」
「異常はなかったか? 」
「はい、何事も。ここの守りは強固ですし、なんせこの山には私が居ますから。」
 彼の力量はまだ見たことがない。
 だが、テンスとの戦闘の最中で、かなりの手練であることは感じ取れた。
 それでも、戦闘専門のフォースには及ばないはずだ。
「さぁさぁ。皆さん、風呂の準備も夕食の支度もできていますから。明後日の謁見に向けて、英気を養って下さい。」
 僕たちは僧侶に連れられて、建物の中へと入った。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

飯屋の娘は魔法を使いたくない?

秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。 魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。 それを見ていた貴族の青年が…。 異世界転生の話です。 のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。 ※ 表紙は星影さんの作品です。 ※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

貧乏男爵家の末っ子が眠り姫になるまでとその後

空月
恋愛
貧乏男爵家の末っ子・アルティアの婚約者は、何故か公爵家嫡男で非の打ち所のない男・キースである。 魔術学院の二年生に進学して少し経った頃、「君と俺とでは釣り合わないと思わないか」と言われる。 そのときは曖昧な笑みで流したアルティアだったが、その数日後、倒れて眠ったままの状態になってしまう。 すると、キースの態度が豹変して……?

聖女は聞いてしまった

夕景あき
ファンタジー
「道具に心は不要だ」 父である国王に、そう言われて育った聖女。 彼女の周囲には、彼女を心を持つ人間として扱う人は、ほとんどいなくなっていた。 聖女自身も、自分の心の動きを無視して、聖女という治癒道具になりきり何も考えず、言われた事をただやり、ただ生きているだけの日々を過ごしていた。 そんな日々が10年過ぎた後、勇者と賢者と魔法使いと共に聖女は魔王討伐の旅に出ることになる。 旅の中で心をとり戻し、勇者に恋をする聖女。 しかし、勇者の本音を聞いてしまった聖女は絶望するのだった·····。 ネガティブ思考系聖女の恋愛ストーリー! ※ハッピーエンドなので、安心してお読みください!

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

遺棄令嬢いけしゃあしゃあと幸せになる☆婚約破棄されたけど私は悪くないので侯爵さまに嫁ぎます!

天田れおぽん
ファンタジー
婚約破棄されましたが私は悪くないので反省しません。いけしゃあしゃあと侯爵家に嫁いで幸せになっちゃいます。  魔法省に勤めるトレーシー・ダウジャン伯爵令嬢は、婿養子の父と義母、義妹と暮らしていたが婚約者を義妹に取られた上に家から追い出されてしまう。  でも優秀な彼女は王城に住み、個性的な人たちに囲まれて楽しく仕事に取り組む。  一方、ダウジャン伯爵家にはトレーシーの親戚が乗り込み、父たち家族は追い出されてしまう。  トレーシーは先輩であるアルバス・メイデン侯爵令息と王族から依頼された仕事をしながら仲を深める。  互いの気持ちに気付いた二人は、幸せを手に入れていく。 。oOo。.:♥:.。oOo。.:♥:.。oOo。.:♥:.。oOo。.:♥:.  他サイトにも連載中 2023/09/06 少し修正したバージョンと入れ替えながら更新を再開します。  よろしくお願いいたします。m(_ _)m

神々に見捨てられし者、自力で最強へ

九頭七尾
ファンタジー
三大貴族の一角、アルベール家の長子として生まれた少年、ライズ。だが「祝福の儀」で何の天職も授かることができなかった彼は、『神々に見捨てられた者』と蔑まれ、一族を追放されてしまう。 「天職なし。最高じゃないか」 しかし彼は逆にこの状況を喜んだ。というのも、実はこの世界は、前世で彼がやり込んでいたゲーム【グランドワールド】にそっくりだったのだ。 天職を取得せずにゲームを始める「超ハードモード」こそが最強になれる道だと知るライズは、前世の知識を活かして成り上がっていく。

処理中です...