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勇者の妹
初戦闘
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剣を抜いた途端に頭痛が走る。
今度のは、頭が冴えるような、絞られるような心地の良い……
そう、天啓みたいな。
頭では忘れていても。身体は覚えていた。
武器の使い方、獲物の狩方を
飛びかかってくるウリ坊、刹那のタイミングで、明鏡止水の世界に一雫……
中段水平斬りが、ウリ坊の腹部へとクリーンヒットする。
ウリ坊は、空中で一回転し、地面に着地する。
まだまだやる気だ。
突進を見切り、左に避ける。
体勢を低くし、跳躍の準備をする。
ロングソードを右側に構え、もう一度、彼の腹部を捉える
跳ね橋が跳ね上がるかのように、ロングソードの刃が跳ね上がる。
ウリ坊は空高く飛び上がった。
跳ね上がったロングソードと共に、自身も跳躍し、次の攻撃への姿勢をとった。
彼に最後の一撃を与えようと思ったところで、僕はそれを躊躇った。
体勢を崩し、無様に尻餅をつく。
ウリ坊は背中から地面に落っこちると、悲鳴を上げながら、茂みの方へ逃げていった。
「なぜ止めを刺さなかった。」
「だって、可哀想じゃないか。もういいよ。追っ払えたんだから。」
『パチン』
セカンドが僕の頬をぶった。
「今、ぶったな。」
「そうだ。今、お前は初めて打たれた。なぜか分かるか? 」
「イノシシを殺せなかったから? 」
「30点だ。」
「殺せなかったからでは無い。奴を楽にしてやれなかっただからだ。」
「良いか? お前が、その刃で、何かを傷つけたのなら、その責任は……そうだ。お前が取れ。」
「なら、さっきのイノシシを手当てしてくるよ。薬草……持っているでしょ? まざか丸腰で僕の護衛をしに来たわけでも無いんだし。」
「いや、もう遅いようだな。」
茂みの奥から、無数の赤い目が僕たちを釘付けにして離さない。
「この魔物は、非常に仲間意識が高い。さっきのも無論、どこかの群れのイノシシだったんだろうな。」
「見ろ、母イノシシだ。」
そりゃあ無いだろあー。
僕は口をぽかんと開けて、全長4メートルはあろうかという巨躯を見上げる。
「逃げるのは? 」
「俺だけならどうにかなるだろうな。しかし、彼らは鼻が効く。どこまでも追いかけてくるぞ。お前は彼らの餌だろうな。」
「それより、王都まで逃げる間に、道ゆく冒険者や、村人を襲いながら、俺たちを執拗に追い続けるだろう。」
「冒険者はまだしも、村人は…… 」
「お前はどちらを取る。他の人間たちを傷つけるか、今、目の前にいる巨躯を殺し、身を守るか。」
「僕は…… 」
「甘ったれるな? 二度目は無い。」
「お前は一度間違えた。だから今俺たちは危険に晒されている。」
「こうなれば、母親も子供もろとも皆殺しにしなければならなくなった。」
「お前はその責任が取れるか。」
僕の犯した間違いが、廻り回って自分に返って来ている。
「ごめん。というか今更遅いか。」
そうだ。彼らを殺さずとも、僕たちはあの子供を殺さなければならなかった。
これが魔物と人間の関係。
<目を背けるな。受け入れろ。>
頭の中で、何者かが囁く。
僕の手を握ってくれる。
<殺すのは生きるため。>
体勢を低くし、ロングソードを鞘に収めたまま、刃を後ろに地面と平行に。
<だけど肯定するな。否定もするな。>
「<【珪眼流】>」
【拾ノ拳】
【燕還】
__水平に斬った。
だが、確かに見えた。水平に切り上げられた、二撃目の斬撃が。
母イノシシの目が、ガッチリそれを捉えているのを俺は見た。
「うぉぉぉぉぉ。」
彼女を眉間から、尻尾まで一刀両断する。
彼女の紅い血潮が、僕の視界を覆う。
彼女は、勢いを殺せずに、近くの大樹へと激突する。
束の間、全身から血が吹き出し、血の雨が、僕に降り注いだ。
僕は、顔を上げると全身でそれを受けとめる。
まるで自身を戒めるかのように。
悲しい泣き声で、子供達が、また一人また一人と、母親へと寄り添っていく。
セカンドは、子供達を、一人一人、十字を切りながら斬り殺していく。
「僕のケツを拭いて下さってありがとうございます。」
「勘違いするな。人間に母親を殺された子イノシシたちは、必ず人間に牙を向くようになる。」
「魔族に親を殺された子供が冒険者になり、我を忘れ、目的を忘れ、魔物を殺して回るようにな。」
僕は倒れそうになって踏ん張った。
「安心するにはまだ早い。魔物の血は、さらに他の魔物を呼び寄せる。」
「さっさとここを離れるぞ。」
* * *
森を抜けた先で、僕はセカンドに川に突き落とされた。
「感染症に? はたまた呪いにでもかかりたいのか? 身体を清めろ。魔除けにもなる。」
「大丈夫? 僕を川に落としちゃってさ。下流の人が困らない? 」
「あいにく下流には何も無いさ。もう何も……な。」
「そんな顔をするな。最近魔王軍の動きが活発になった。あちこちで村を襲うようになってな。」
「冒険者は? 」
「そうか……お前は知らないんだな。何度も死に続けて壊れた人間たちを。あんなもの何の役にも立たないさ。」
「その上、女神の加護のせいで、魔王軍の幹部にはまるで歯が立たない。」
「なんで? 」
「成長が止まるんだよ。ある一定でな。女神の加護を受けると、それ以上強くなることは出来ない。」
僕はますます理由が分からなくなった。
女神は、魔王を倒すために冒険者に不死の力を与えているのではないのか?
「どうして? 」
「さっきからそればっかりだなお前は。んなもん知らねえよ。女神に直接聞いてくれ。」
僕は震えながら、川から上がった。
「冷えるだろ。飯にするぞ。」
上ではセカンドが、薪木を起こしている。
僕のお腹がググッと鳴った。
今度のは、頭が冴えるような、絞られるような心地の良い……
そう、天啓みたいな。
頭では忘れていても。身体は覚えていた。
武器の使い方、獲物の狩方を
飛びかかってくるウリ坊、刹那のタイミングで、明鏡止水の世界に一雫……
中段水平斬りが、ウリ坊の腹部へとクリーンヒットする。
ウリ坊は、空中で一回転し、地面に着地する。
まだまだやる気だ。
突進を見切り、左に避ける。
体勢を低くし、跳躍の準備をする。
ロングソードを右側に構え、もう一度、彼の腹部を捉える
跳ね橋が跳ね上がるかのように、ロングソードの刃が跳ね上がる。
ウリ坊は空高く飛び上がった。
跳ね上がったロングソードと共に、自身も跳躍し、次の攻撃への姿勢をとった。
彼に最後の一撃を与えようと思ったところで、僕はそれを躊躇った。
体勢を崩し、無様に尻餅をつく。
ウリ坊は背中から地面に落っこちると、悲鳴を上げながら、茂みの方へ逃げていった。
「なぜ止めを刺さなかった。」
「だって、可哀想じゃないか。もういいよ。追っ払えたんだから。」
『パチン』
セカンドが僕の頬をぶった。
「今、ぶったな。」
「そうだ。今、お前は初めて打たれた。なぜか分かるか? 」
「イノシシを殺せなかったから? 」
「30点だ。」
「殺せなかったからでは無い。奴を楽にしてやれなかっただからだ。」
「良いか? お前が、その刃で、何かを傷つけたのなら、その責任は……そうだ。お前が取れ。」
「なら、さっきのイノシシを手当てしてくるよ。薬草……持っているでしょ? まざか丸腰で僕の護衛をしに来たわけでも無いんだし。」
「いや、もう遅いようだな。」
茂みの奥から、無数の赤い目が僕たちを釘付けにして離さない。
「この魔物は、非常に仲間意識が高い。さっきのも無論、どこかの群れのイノシシだったんだろうな。」
「見ろ、母イノシシだ。」
そりゃあ無いだろあー。
僕は口をぽかんと開けて、全長4メートルはあろうかという巨躯を見上げる。
「逃げるのは? 」
「俺だけならどうにかなるだろうな。しかし、彼らは鼻が効く。どこまでも追いかけてくるぞ。お前は彼らの餌だろうな。」
「それより、王都まで逃げる間に、道ゆく冒険者や、村人を襲いながら、俺たちを執拗に追い続けるだろう。」
「冒険者はまだしも、村人は…… 」
「お前はどちらを取る。他の人間たちを傷つけるか、今、目の前にいる巨躯を殺し、身を守るか。」
「僕は…… 」
「甘ったれるな? 二度目は無い。」
「お前は一度間違えた。だから今俺たちは危険に晒されている。」
「こうなれば、母親も子供もろとも皆殺しにしなければならなくなった。」
「お前はその責任が取れるか。」
僕の犯した間違いが、廻り回って自分に返って来ている。
「ごめん。というか今更遅いか。」
そうだ。彼らを殺さずとも、僕たちはあの子供を殺さなければならなかった。
これが魔物と人間の関係。
<目を背けるな。受け入れろ。>
頭の中で、何者かが囁く。
僕の手を握ってくれる。
<殺すのは生きるため。>
体勢を低くし、ロングソードを鞘に収めたまま、刃を後ろに地面と平行に。
<だけど肯定するな。否定もするな。>
「<【珪眼流】>」
【拾ノ拳】
【燕還】
__水平に斬った。
だが、確かに見えた。水平に切り上げられた、二撃目の斬撃が。
母イノシシの目が、ガッチリそれを捉えているのを俺は見た。
「うぉぉぉぉぉ。」
彼女を眉間から、尻尾まで一刀両断する。
彼女の紅い血潮が、僕の視界を覆う。
彼女は、勢いを殺せずに、近くの大樹へと激突する。
束の間、全身から血が吹き出し、血の雨が、僕に降り注いだ。
僕は、顔を上げると全身でそれを受けとめる。
まるで自身を戒めるかのように。
悲しい泣き声で、子供達が、また一人また一人と、母親へと寄り添っていく。
セカンドは、子供達を、一人一人、十字を切りながら斬り殺していく。
「僕のケツを拭いて下さってありがとうございます。」
「勘違いするな。人間に母親を殺された子イノシシたちは、必ず人間に牙を向くようになる。」
「魔族に親を殺された子供が冒険者になり、我を忘れ、目的を忘れ、魔物を殺して回るようにな。」
僕は倒れそうになって踏ん張った。
「安心するにはまだ早い。魔物の血は、さらに他の魔物を呼び寄せる。」
「さっさとここを離れるぞ。」
* * *
森を抜けた先で、僕はセカンドに川に突き落とされた。
「感染症に? はたまた呪いにでもかかりたいのか? 身体を清めろ。魔除けにもなる。」
「大丈夫? 僕を川に落としちゃってさ。下流の人が困らない? 」
「あいにく下流には何も無いさ。もう何も……な。」
「そんな顔をするな。最近魔王軍の動きが活発になった。あちこちで村を襲うようになってな。」
「冒険者は? 」
「そうか……お前は知らないんだな。何度も死に続けて壊れた人間たちを。あんなもの何の役にも立たないさ。」
「その上、女神の加護のせいで、魔王軍の幹部にはまるで歯が立たない。」
「なんで? 」
「成長が止まるんだよ。ある一定でな。女神の加護を受けると、それ以上強くなることは出来ない。」
僕はますます理由が分からなくなった。
女神は、魔王を倒すために冒険者に不死の力を与えているのではないのか?
「どうして? 」
「さっきからそればっかりだなお前は。んなもん知らねえよ。女神に直接聞いてくれ。」
僕は震えながら、川から上がった。
「冷えるだろ。飯にするぞ。」
上ではセカンドが、薪木を起こしている。
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