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勇者の妹

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 アレから何日経っただろうか。
 いつものように
 レントや、エリンたちと朝食を取る。
 今日は焼いたベーコンエッグのサンドだ。
 噛むたびに肉汁が溢れて、目玉を齧ると……
「アスィール兄ちゃん口に卵がついてんぜ。」
「なんか、赤ちゃんみたい。」
 下の子たちに笑われるのだが……
 どうやら記憶を失う前の僕は、子供達に好かれていたらしい。
 リワン姉さんが口を拭いてくれる。
「ありがとう。リワン姉さん。でも自分でできるから大丈夫だよ。」
 食後、みんなでカルマの祈りを捧げてから、それぞれが、家事を行ったり、学校? という場所に行ってしまった。
 僕にはやることがない。
 というか出来ることが無い。
 仕事という概念はなぜかそこにある。
 言葉はなぜかそこに存在しているのに、仕事というモノがなんなのかを理解しようとすると、頭が痛くなる。
「どうしたの? 弟くん? 」
「大丈夫、ゆっくりで良いですからね。貴方にもやるべきことがみつかりますから。」
<俺のやるべきこと>
 頭痛がさらに酷くなる。
 リワン姉さんが背中を摩ってくれる。
 あっという間に頭痛は消えてしまったので僕は驚いた。
「ねえ、リワン姉さん? 生前の僕と貴方の関係は…… 」
「嫌だなぁそんなこと。」
「どうしても教えてほしい? 」
「うん、どうしても。」
「婚約者。アーちゃんは私の婚約者だよ。」
 えっ? こんな小さい子と婚約?
「アスィール君は変態なんだね。」
 リワン姉さんには顔を真っ赤にして怒った。
「そんなことないわよ。今は背が縮んじゃったけど、昔は高身長で、スタイルも良かったんだから。」
「……ごめんなさい。」
 このようなやり取りをしていると、玄関の方で『コンコン』とノックが鳴る。
「アスィール殿はいらっしゃるか? 」
「はーい、今行きます。」
 リワン姉さんがドアを開けると、筋肉質の強面の男が、屹立していた。
「リワン・スーペース殿。初にお目にかかります。教会から遣わされました。ヘブンズのセカンドです。アスィール殿とゆっくり話がしたい。不躾なお願いではございますが、居間の方をお借りしたい。」
 彼女は少し考えてから、答えた。
「分かりました。ですけど。私も相席してもよろしいですよね。」
「もちろんです。是非貴方からも助言をいただきたい。」

 正面にセカンド。僕の横にはリワン姉ちゃんが座っている。
「弟君を連れ戻しに来たんですね。」
「無論……兄のファーストの命令です。」
「貴方はやはり、私たちが彼を連れて行くことに抵抗がありますかね? 」
 リワン姉さんは難しい顔をして答えた。
「正直、自分の中でも悩んでいます。もう彼には傷ついてほしくない。記憶まで失っているんです。」
 言葉を溜める。
「彼は勇者です。そのために私たちは存在します。弟君には使命がある。」
「我々の気持ちを汲んでいただきありがとうございます。」
 それから彼は僕の方を見る。
「お前はどうなんだ? 俺たちと一緒に魔王を倒すか、このまま居心地の良いで一生を過ごすか。」
 このままじゃいけない。自分でも分かっている。心の奥底で、過去の自分が叫んでいる。
「お前が望むなら、彼女たちの保護と生活の保証を約束しよう。そのことに教皇様は好意的だ。」
「僕は……僕は……このまま穀潰しのままじゃいけないから。」
「アーちゃん! 」
 リワン姉さんが僕の体を抱きしめる。
 セカンドはマントをたなびかせると、背中で語った。
「二度目は無いぞ。」
「リワン殿。お邪魔した。それではアスィール殿はお連れするぞ。」
「ごめんね弟くん。貴方に何も用意できなくて。」
 僕は振り返って笑ってみせる。
「いいや、急だったからさ。今までありがとう。リワン姉さん。」
 僕の『今まで』という言葉に、彼女が少し震えたような気がした。
 
 僕は、セカンドの後を追う。
「ねえ。セカンド。僕に記憶が無いのと、リワン姉さんが、小さくなっちゃったのには関係があるのかな?  」
「そうだ。お前が暴走したから。彼女は能力行使をせざるを得なかった。言っただろ。二度目は無いと。次彼女が能力を使うことになれば、彼女は間違いなく消滅する。存在そのものが。」
 彼は振り返り、僕の両肩をガッチリ掴んだ。
「お前が暴走したせいで、フォースは謹慎処分を受けている。お前が暴走したせいで、だ。自分のしたことに対してはキチンと責任を取れ。」
「……悪い。お前は何も知らないんだったな。つい熱くなってしまった。」
「いや、セカンドは間違っていない。アスィールは無責任だったかもしれない。分かったよ。僕、セカンドの言葉は一生忘れない。」
 彼は少し驚いたような仕草を見せてから、再び振り返り、深い森の中を進んでいく。
「僕ね。冒険者になろうと思って、リワン姉さんに黙って、教会の女神像の前で祈ったんだ。」
「僕には冒険者の素質がなかった。」
 彼は背中の斧に手をかけて、左右を見渡しながら答えた。
「そうだ。それには意味がある。セブンズが、そうであるように。」
「俺たちが王都に帰る頃には、フォースの謹慎も解けているはずだ。」
「フォースから君の師匠の遺言を聞くといい。」
 また頭が痛む。
「魔物だ。ちょうどいい。お前も身体が鈍っているだろう。参加しろ。」
 僕が? 魔物と?
「猪だ。そこらの行商人でも狩れる。」
 そういうと、彼は腰の十字架型のロングソードを鞘ごと、こちらに投げてくる。
「貸してやる。危なくなったら助けてやる。」
 僕は腰にロングソードをぶら下げると、
 それを腰からゆっくり抜いて構えた。


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