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第8章【苦い祈り】
67罪 甘い距離①
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「一体なにが……」
「ヴェル君、静っ」
ヴェル君と静が一緒に同じテントから出てきたことは、少し気にかかってしまう。だけど、そんな事に意識を向けている場合ではなかった。
テントの近くには、見たことのない人が一人座っていた。腰のあたりまで伸ばした髪は、右が白で左が黒という変わった配色をしていて、左右の頭部からは乳白色の丸みを帯びた角が生えていた。
「見つけ……たわ」
ぽわんとしたような表情を浮かべ、アシンメトリーの髪の女性が小さく呟くのが聞こえた。それと同時に、女性の背中のあたりでゆらりと細長い尻尾が揺れた。その姿は、まるで牛のようだ。
「七つの大罪は……捕まえる」
その言葉を聞いて、私はドクンと心臓が早くなるのを感じた。
また……私達、七つの大罪を狙うものが来てしまったんだ。丑ノ国では何事もなく抜け出せると思っていたのに……駄目だったんだ。
その事実に、少しだけ悔しくなってしまった。こんなところでゆっくりしている場合じゃなかったんじゃないかと思ってしまう。だけど、早く丑ノ国を抜け出したところで、寅ノ国で野宿をしたらそこの人に見つかっていたかもしれない。
「さあ……惑いなさい」
アシンメトリーの女性が両手を広げ呟いた。私と女性の距離はそれなりにあったはずなのにもかかわらず、響くように声が聞こえてきた。だけど、叫んでいる様子はなかった。
空間が歪んでいるような、不思議な感覚。
それに気付いた時には、すでにもう遅かったのかもしれない。
* * *
「ぅ……」
ぐらぐらと目が回るような変な感覚がする。眩しく何かが光っているのかと思うくらい、周りは真っ白だった。
私は右手でおでこを支えるように眉間のあたりにそっと添えると、小さく頭を振った。
私は今、何をしていたんだっけ? わからない……。よく、思い出せない。
「雪ちゃん?」
「……っ⁉」
聞こえた声に、私は慌てて視線を向けた。目を見開いていたんじゃないかと思うくらい、目が乾く。だけど、瞬きすら忘れて声のした方を見てしまう。
だって、今の声は――――
「ヴェル……君?」
私を真っすぐに見つめるヴェル君と、目が合った。胸が凄く高鳴る。苦しいくらいに激しく脈打つ。
「よかった! ここに居たんだね!」
そう言って駆け寄ってくるヴェル君に、私はなんと言葉を返せばいいのか戸惑ってしまった。
あれ……? ヴェル君って、こんなに背、高かったっけ……?
そんな事をふと考えた次の瞬間、その思考を吹き飛ばすように強い風が吹いた。眩しいくらい真っ白だった周りの景色が風によってさらわれる様に掻き消えた。違う、たぶん眩しくて見えていなかった景色がやっと見えるようになったんだ。目が慣れた……とでも言うのかもしれない。
「ヴェル君、静っ」
ヴェル君と静が一緒に同じテントから出てきたことは、少し気にかかってしまう。だけど、そんな事に意識を向けている場合ではなかった。
テントの近くには、見たことのない人が一人座っていた。腰のあたりまで伸ばした髪は、右が白で左が黒という変わった配色をしていて、左右の頭部からは乳白色の丸みを帯びた角が生えていた。
「見つけ……たわ」
ぽわんとしたような表情を浮かべ、アシンメトリーの髪の女性が小さく呟くのが聞こえた。それと同時に、女性の背中のあたりでゆらりと細長い尻尾が揺れた。その姿は、まるで牛のようだ。
「七つの大罪は……捕まえる」
その言葉を聞いて、私はドクンと心臓が早くなるのを感じた。
また……私達、七つの大罪を狙うものが来てしまったんだ。丑ノ国では何事もなく抜け出せると思っていたのに……駄目だったんだ。
その事実に、少しだけ悔しくなってしまった。こんなところでゆっくりしている場合じゃなかったんじゃないかと思ってしまう。だけど、早く丑ノ国を抜け出したところで、寅ノ国で野宿をしたらそこの人に見つかっていたかもしれない。
「さあ……惑いなさい」
アシンメトリーの女性が両手を広げ呟いた。私と女性の距離はそれなりにあったはずなのにもかかわらず、響くように声が聞こえてきた。だけど、叫んでいる様子はなかった。
空間が歪んでいるような、不思議な感覚。
それに気付いた時には、すでにもう遅かったのかもしれない。
* * *
「ぅ……」
ぐらぐらと目が回るような変な感覚がする。眩しく何かが光っているのかと思うくらい、周りは真っ白だった。
私は右手でおでこを支えるように眉間のあたりにそっと添えると、小さく頭を振った。
私は今、何をしていたんだっけ? わからない……。よく、思い出せない。
「雪ちゃん?」
「……っ⁉」
聞こえた声に、私は慌てて視線を向けた。目を見開いていたんじゃないかと思うくらい、目が乾く。だけど、瞬きすら忘れて声のした方を見てしまう。
だって、今の声は――――
「ヴェル……君?」
私を真っすぐに見つめるヴェル君と、目が合った。胸が凄く高鳴る。苦しいくらいに激しく脈打つ。
「よかった! ここに居たんだね!」
そう言って駆け寄ってくるヴェル君に、私はなんと言葉を返せばいいのか戸惑ってしまった。
あれ……? ヴェル君って、こんなに背、高かったっけ……?
そんな事をふと考えた次の瞬間、その思考を吹き飛ばすように強い風が吹いた。眩しいくらい真っ白だった周りの景色が風によってさらわれる様に掻き消えた。違う、たぶん眩しくて見えていなかった景色がやっと見えるようになったんだ。目が慣れた……とでも言うのかもしれない。
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