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第8章【苦い祈り】
61罪 痛む心に蓋をして①
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前世の記憶と力の一部を取り戻した私達は、あの後すぐに泉から離れた。けれど、真っ暗になってしまった森の中をこれ以上先に進むことは出来なくて、テントを張って野宿をすることとなった。
本当だったら静とは別のテントで寝たかった。前回の出来事が……あるから。だけど、静もヴェル君も私が『知ってしまっている事実』を知らない。だからこそ、そんな事を提案する事は出来なかった。そもそもテントの数も人数分より一つ足りない。もしそれを提案する場合、私と静ではない誰かに二人で寝るようにお願いするしかない。
(そんな事になったら、恋人同士である静とヴェル君が一緒になるに決まってる)
それは、正直なところ嫌だった。だけど、私が寝ている(と思っている横)でまた致されても、いたたまれない。どうするのが一番いいのか悩んでいる間に、全員分のテントが張られてしまっていた。
パチパチと火が鳴り続ける焚火の周りをぐるりと囲うように、四つのテントが張られている。
「それじゃあ、いつもみたいに私と雪ちゃんが同じテントで、残りの三つを真兄さんとヴェルくんと白卯さんで分けるのでいいわよね?」
「はい。わたくしはそれでよいかと思います」
「俺も異論はない」
「俺もそれでいいと思うよ」
静の提案に、白卯も真兄もヴェル君も即座に賛同していた。私は……私、は正直な話その組み合わせしかないと思っていた。
今更拒否するのも、変に思われるかもしれないし。
(そうだよ。起きていないで、早々に寝てしまえばいいんだ……!)
そう考えるしかなかった。
もちろん、今回もまた私が寝ている横で静とヴェル君がするとは限らない。そう、しないかもしれない事を期待するしかなかった。
「雪ちゃん?」
「あ、ううん。なんでもないよ!」
「本当に?」
「本当だよ」
本当に私でいいの? と口から飛び出てしまいそうになった言葉。だけど、その言葉を寸前で飲み込んでにっこりと笑顔を浮かべた。大丈夫。問題ない。そう自分に言い聞かせるように言いきった。
「それなら良いのだけれど……」
そう言いながらも、どことなく静は信じ切れていないように思えた。本当は何か言いたいことがあるのに私が隠しているんじゃないかと勘繰っているように見えた。
だけど、そう見えるのは私が実際に隠し事をしているからかもしれない。うしろめたさを持っていると、本人がそんな思いがなくてもそう見えてしまう事があると聞いたことがある。だから、気のせいだと思う事にして、静の煮え切らないような言葉にはにっこりと笑顔だけを返すことにした。
* * *
あのあと、いつものようにヴェル君が調理をしてくれた。材料はもともと月の塔から持ってきて空間魔法で収納していた調味料や、森の中で採ったキノコや木の実、ヴェル君が捕まえて来てくれた野鳥の肉などだった。凄く豪勢で、出来上がった時の立ち上がる香はとても香ばしくて食欲をそそった。だから、それら夕飯は私達五人であっさりペロっと食べてしまった。
「あー、おなかいっぱい!」
「分かるわ。とても美味しかったわよね」
その辺の少し大きめの石を持ち寄って座っている私達は、少しだけ体を後ろに反らしてお腹をさすった。もう食べられないってくらい、お腹がぱんぱんだ。
「喜んでもらえたみたいで何よりだよ」
「ヴェル君、ほんとに料理上手だよね」
「まあ、月の塔でもよく料理していたしね」
ぽりぽりと頬をかきながら、ヴェル君は少しだけ照れ臭そうに笑っていた。
本当だったら静とは別のテントで寝たかった。前回の出来事が……あるから。だけど、静もヴェル君も私が『知ってしまっている事実』を知らない。だからこそ、そんな事を提案する事は出来なかった。そもそもテントの数も人数分より一つ足りない。もしそれを提案する場合、私と静ではない誰かに二人で寝るようにお願いするしかない。
(そんな事になったら、恋人同士である静とヴェル君が一緒になるに決まってる)
それは、正直なところ嫌だった。だけど、私が寝ている(と思っている横)でまた致されても、いたたまれない。どうするのが一番いいのか悩んでいる間に、全員分のテントが張られてしまっていた。
パチパチと火が鳴り続ける焚火の周りをぐるりと囲うように、四つのテントが張られている。
「それじゃあ、いつもみたいに私と雪ちゃんが同じテントで、残りの三つを真兄さんとヴェルくんと白卯さんで分けるのでいいわよね?」
「はい。わたくしはそれでよいかと思います」
「俺も異論はない」
「俺もそれでいいと思うよ」
静の提案に、白卯も真兄もヴェル君も即座に賛同していた。私は……私、は正直な話その組み合わせしかないと思っていた。
今更拒否するのも、変に思われるかもしれないし。
(そうだよ。起きていないで、早々に寝てしまえばいいんだ……!)
そう考えるしかなかった。
もちろん、今回もまた私が寝ている横で静とヴェル君がするとは限らない。そう、しないかもしれない事を期待するしかなかった。
「雪ちゃん?」
「あ、ううん。なんでもないよ!」
「本当に?」
「本当だよ」
本当に私でいいの? と口から飛び出てしまいそうになった言葉。だけど、その言葉を寸前で飲み込んでにっこりと笑顔を浮かべた。大丈夫。問題ない。そう自分に言い聞かせるように言いきった。
「それなら良いのだけれど……」
そう言いながらも、どことなく静は信じ切れていないように思えた。本当は何か言いたいことがあるのに私が隠しているんじゃないかと勘繰っているように見えた。
だけど、そう見えるのは私が実際に隠し事をしているからかもしれない。うしろめたさを持っていると、本人がそんな思いがなくてもそう見えてしまう事があると聞いたことがある。だから、気のせいだと思う事にして、静の煮え切らないような言葉にはにっこりと笑顔だけを返すことにした。
* * *
あのあと、いつものようにヴェル君が調理をしてくれた。材料はもともと月の塔から持ってきて空間魔法で収納していた調味料や、森の中で採ったキノコや木の実、ヴェル君が捕まえて来てくれた野鳥の肉などだった。凄く豪勢で、出来上がった時の立ち上がる香はとても香ばしくて食欲をそそった。だから、それら夕飯は私達五人であっさりペロっと食べてしまった。
「あー、おなかいっぱい!」
「分かるわ。とても美味しかったわよね」
その辺の少し大きめの石を持ち寄って座っている私達は、少しだけ体を後ろに反らしてお腹をさすった。もう食べられないってくらい、お腹がぱんぱんだ。
「喜んでもらえたみたいで何よりだよ」
「ヴェル君、ほんとに料理上手だよね」
「まあ、月の塔でもよく料理していたしね」
ぽりぽりと頬をかきながら、ヴェル君は少しだけ照れ臭そうに笑っていた。
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