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第7章【愛の言葉】
59罪 鮮明に焼き付いた記憶②
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そうですか、とはどちらの意味なのだろうか。肩透かしを食らったような反応だったのか、それとも覚えておらず『そんな事があったのか』という意味での言葉なのか。それは、白卯本人にしか分からない。
「ええ、覚えていますよ。とても……鮮明に。今でも――――思い出せます」
そう言いながら、白卯は目を細めて視線を空の方へと向けた。
すでに暗くなり始めていた空は紫色から闇の色へと移ろっていた。その空の色は、もう私の前世の記憶を揺さぶることはなかった。
「わたくしは、ゑレ妃様の遠い遠い血縁者ということは、記憶の中にございましたか?」
「……うん。当時のゑレ妃は理解出来てなかったみたいだけど。母親であるゑン姫と話していたのを記憶していたみたいだよ」
「……そうで、ございましたか」
嬉しいような、少し切ないような、そんな表情を浮かべていた。そんな白卯の表情を見ていると、ほんの少しだけ私の胸がチクリと痛んだ。
白卯のことを『私が』好きというわけじゃない。だけど、白卯の事を『好きだったゑレ妃の気持ち』は、たぶんココに残っているんだと思う。だからこんなに胸が痛いんだ。
この感情は、たぶん、幼い頃のゑレ妃の物とは少し違うんじゃないかなと……私は思った。まだ、成長したゑレ妃の気持ちを私は前世の記憶として見ていないからハッキリと断言する事は出来ない。だけど、女の直感として、そう感じた。
「姫様に結婚してほしいと、大好きだと言ってくださったあの時、わたくしはとても複雑な気持ちでした」
「……うん。そう、だよね。だって……言ってしまえば、遠い遠いおじいちゃん、ってこと……だもんね」
どれくらい前なのかは分からないから、なんと言えばいいのか分からない。だから、子供っぽいかもしれないけれど『遠い遠いおじいちゃん』と言葉を濁した。
そして、私の世界でも『四親等以上』離れていないと親族と結婚する事が出来ない。たぶん、こっちの世界でも似たような決まりがあるのだろう。もしかしたら、ただ単に白卯が気にし過ぎなだけかもしれないけれど……何となく、ゑン姫の発言がそれを物語っていたようにも思う。
「でも、ゑレ妃の事……大好きだったんでしょ? 大切、だったんだよね?」
「――――――はい。大切で、大好きで、愛して……おりました」
もうその言葉は本人には届くことはないけれど。
白卯は、愛という言葉を噛み締めるように呟いた。そんな健気な姿を見ていると、その気持ちが報われるといいなと……思った。気持ちが通い合うという形では報われることはないけれど、少しでも……白卯の気持ちが軽くなれば、と。
「ええ、覚えていますよ。とても……鮮明に。今でも――――思い出せます」
そう言いながら、白卯は目を細めて視線を空の方へと向けた。
すでに暗くなり始めていた空は紫色から闇の色へと移ろっていた。その空の色は、もう私の前世の記憶を揺さぶることはなかった。
「わたくしは、ゑレ妃様の遠い遠い血縁者ということは、記憶の中にございましたか?」
「……うん。当時のゑレ妃は理解出来てなかったみたいだけど。母親であるゑン姫と話していたのを記憶していたみたいだよ」
「……そうで、ございましたか」
嬉しいような、少し切ないような、そんな表情を浮かべていた。そんな白卯の表情を見ていると、ほんの少しだけ私の胸がチクリと痛んだ。
白卯のことを『私が』好きというわけじゃない。だけど、白卯の事を『好きだったゑレ妃の気持ち』は、たぶんココに残っているんだと思う。だからこんなに胸が痛いんだ。
この感情は、たぶん、幼い頃のゑレ妃の物とは少し違うんじゃないかなと……私は思った。まだ、成長したゑレ妃の気持ちを私は前世の記憶として見ていないからハッキリと断言する事は出来ない。だけど、女の直感として、そう感じた。
「姫様に結婚してほしいと、大好きだと言ってくださったあの時、わたくしはとても複雑な気持ちでした」
「……うん。そう、だよね。だって……言ってしまえば、遠い遠いおじいちゃん、ってこと……だもんね」
どれくらい前なのかは分からないから、なんと言えばいいのか分からない。だから、子供っぽいかもしれないけれど『遠い遠いおじいちゃん』と言葉を濁した。
そして、私の世界でも『四親等以上』離れていないと親族と結婚する事が出来ない。たぶん、こっちの世界でも似たような決まりがあるのだろう。もしかしたら、ただ単に白卯が気にし過ぎなだけかもしれないけれど……何となく、ゑン姫の発言がそれを物語っていたようにも思う。
「でも、ゑレ妃の事……大好きだったんでしょ? 大切、だったんだよね?」
「――――――はい。大切で、大好きで、愛して……おりました」
もうその言葉は本人には届くことはないけれど。
白卯は、愛という言葉を噛み締めるように呟いた。そんな健気な姿を見ていると、その気持ちが報われるといいなと……思った。気持ちが通い合うという形では報われることはないけれど、少しでも……白卯の気持ちが軽くなれば、と。
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