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第7章【愛の言葉】

59罪 鮮明に焼き付いた記憶①

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「雪様?」

 おどおどとし過ぎてしまったのかもしれない。不安そうに、そして心配そうに白卯はくうの赤い瞳にジッと見つめられてしまった。穴があったら入りたいくらいに恥ずかしい。

「ううん……その、ちょっと、ね……」
「ちょっと……なんでございますか?」

 言葉を濁しても白卯はくうには伝わってはくれなかった。
 一歩、また一歩と私の方に近寄りながら問いかけてくるその様子に、私はたじろいでしまう。同じ歩数だけ、一歩、また一歩と後ずさる。

(待って待って待って。確かに私の出来事ではないんだけど……やっぱり恥ずかしいよ! 説明だって……なんてすればいいのっ)

 ひーん、と誰かに助けを求めたかった。だけど、私の今見た過去を知っているのは私しかいない。おそらく話をすれば白卯はくうは理解してくれるだろう。だけども、あの白卯はくうゑレ妃えれひの仲睦まじい姿を拝んできたなんて……言いにくい。言いにくすぎる!
 少しだけ上体を後ろに反らしながら、私は両手を前に真っすぐに突き出した。これ以上白卯はくうが近づいてこないように。そして、伸ばしたその両手を左右にバタバタを激しく振りながら。

「は、白卯はくうゑレ妃えれひも……相思相愛、だった……のね」
「――――――!!」

 少しだけ白卯はくうから視線を逸らしながら、言葉を選びつつ告げた。その内容は、私は今しがた見てきた前世の記憶の要約したものだ。そして、言い終えてからチラリと白卯はくうを見れば――伝わった事がよく分かった。
 だって、顔を赤らめて、いつもは緩やかに動いている真っ白の耳がピンと伸びてしまっている。真っ赤な瞳も、分かりやすく泳いでいる。物凄く。間近によらなくても分かるくらいに、激しく。

「な……何を……見られたのですか……」
「な、なにって……」

 そう言って視線を逸らしてもごもごと口だけを動かす。言葉にするのが少しだけ憚られるような気がしたけれど、だけどゑレ妃えれひは前世の私なのだから、私の事でもあるんだ。

「……そ、の」
「……は、い」
「……ゑレ妃えれひが、白卯はくうと結婚したいって……大好きだって、言っていたわ」

 そう告げると、白卯はくうはぴたりと動きが停止した。何も言葉も発さず、瞬きもせず、耳も身体も動かない。ちゃんと呼吸はしているかな? なんて少し心配になってしまうくらいだ。胸のあたりがちゃんと上下してるから、呼吸はきちんとしているんだという事は分かったから、そこはすぐに安心出来たんだけど。
 いやそれでも、なんで急にフリーズしたんだろう? という疑問は尽きない。

「……あ。姫様が……結婚したい、と……そう、ですか。そうでしたか!」
「……覚えて、る?」

 噛み締めるように、どこかホッとしているような、そんな白卯はくうの言葉に私はあの記憶を彼がきちんと覚えているのか知りたくなった。
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