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第7章【愛の言葉】

57罪 在りし日の過去を垣間見よ・3 (7)②

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 着物のようなものを流し着て、けれど雪の中を歩きやすいようにと黒いズボンにモコモコのブーツを履いた男は、黒い髪に赤い瞳をしていた。

「……瀕死、のようだね」

 跪くように片膝でしゃがみ込み、男は母子を見つめた。そしてぽつりと呟くと、目を伏せた。

「――――白卯はくう。いるかい?」
「――ここに」

 真っ白な雪兎の――長の名を呼ぶと、男の後ろにすぐに跪いた状態でその名の主が現れた。
 真っ白な髪に、真っ白なウサギの耳、そして真っ白な狩衣のような服を着て、髪の毛から覗く瞳だけが赤かった。

ゐ吹いぶき様、何用でございましょうか」

 少しだけ髪がぐしゃぐしゃなのは、恐らくこの国の姫の子守をしていたからだろう。
 ちょうど、この国の姫が十の誕生日を迎えたところだった。

「この二人を、屋敷に」
「……かしこまりました」

 一瞬だけ顔をしかめたが、すぐに白卯はくうゐ吹いぶきの指示を受け入れた。
 真っ白な服が赤く染まることも気にせずに、白卯はくうは幼子を力強く抱きしめ続ける母親の身体を抱え上げた。背中と膝の裏に腕を回すようにして、しっかりと二人を落とさないように抱えると。
 スッ……、と白卯はくうは屋敷に向かって歩き出した。

「……ハルナ、を……」
「……ん?」
「ハル、ナ……を…………おね、が…………しま、す」

 血の気の引いた唇を震わせ、母親――ハドリーは必死に懇願した。自分はもう助からないと、悟っていたのだろう。だからこそ、自分の娘だけは……生かす為に逃がしてきたハルナだけは、何とかお願いしたかったのだ。自分たちを逃がすために深月みつきに立ち向かってくれたリフィルの為にも、ハルナだけでも、と。

「……かしこまりました。ですから…………」

 どうするかを決めるのは自分ではなくゐ吹いぶきゑン姫えんきだという事を、白卯はくうはきちんと理解していた。けれども、今、このハドリーに必要な言葉はそんな言葉ではないことも分かっていた。
 だからこそ、柔らかい表情で、柔らかい口調で白卯はくうは告げた。

「…………安心、してください」

 と。すると、ほんの少しだけ、ハドリーの表情が柔らかくなったような気がした。笑顔がほんの少しだけ浮かんだように見える。

――ありが……とう――

 声にはならなかった感謝の言葉。ほんの少しだけ動いたハドリーの唇。でも、その感謝の気持ちは、感謝の言葉は、無音のまま白卯はくうに届いた。しっかりと、その心に。
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