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第7章【愛の言葉】

53罪 在りし日の過去を垣間見よ・3 (3)①

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「おかあさま?」

 そう小さく声を漏らしながら、広い王城をさ迷い歩くのは四歳のハルナだった。
 母親であるハドリーを探して煌びやかな通路を歩いていた。塵一つついていない窓枠に、一切の汚れもついていない綺麗な窓からは王城の周りに植えられた青々とした木々が良く見える。視線を下ろせば茶色のフローリングに真っすぐに敷かれた赤い絨毯は綺麗に同じ方向に向かって毛並みが整っていた。その上を小さなハルナの足が踏みしめて行く。

「やだ……妾の子じゃない」
「……めかけー?」

 ふと聞こえた声は、ハルナと親しくないメイドの声だった。
 実は、ハルナのお世話をしているのは実の母親であるハドリーと、もう一人ハドリーと仲の良かったメイドの一人のリフィルだけだった。それはハルナがメイドであるハドリーと神国王の間に生まれた子供だからだった。
 妾の子、と陰口を叩かれるほど、ハルナの立場は弱かった。けれど、本人はそのことについてよく理解していないのは不幸中の幸いなのかもしれない。何を言われても理解できないのだから。それも、ハルナが四歳だからかもしれないが。

「妾って意味が分からないみたいよ、あの子」
「幼いって言っても、神国王様の血の入った子なのにね……やっぱり頭が悪くて股の緩いあの女から生まれる子も、頭が悪いって事でしょ」
「じゃあ、股も緩いんじゃないのー?」
「あははは、言えてるー!」

 聞こえていても言っている意味は分からないだろうと、二人のメイドはハルナを笑いながら悪口を言い続けた。
 実際、四歳のハルナには妾がどういうものなのか、股が緩いとはどういう事なのか、理解出来なかった。けれど、ただ一つ……頭が悪いという意味だけは何となく理解出来た。そして、それが自分たちを侮辱する言葉だという事も。

「お、おかあさまをバカにしないで!」

 ぎゅ、とスカートの裾を握りしめてハルナは批難の声を上げた。
 自分を馬鹿にされるのはまだいい。だけど、自分の母親であるハドリーの事だけは馬鹿にされたくなかったのだ。子供ながらに、母を大切に思う気持ちは一人前に持っていたから。

「あらら? おバカなハルナ様でも、ちょっとは言葉の意味が分かるみたいねぇ?」
「ばかじゃないもんー!」
「でも、あなたのお母様が股が緩いのは正解よね?」

 スタスタスタ、とハルナの目の前まで近寄ってくると、一人のメイドが腰に手を当て、腰を折って顔をハルナに近づけながら問いかけた。どうせ、意味なんて分からないだろうと思いながら。

「またが……ゆるい?」
「そんなバカな子供に、股が緩いなんて言っても理解できないってー」
「あははは、確かにそうよね!」

 首をかしげてキョトンとするハルナを見て、別のメイドが大きな声で笑いながら告げる。その口調も凄くハルナを馬鹿にしたもので、言っている意味が理解出来なくても馬鹿にされていることはその態度で伝わってくる。
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