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第7章【愛の言葉】
51罪 在りし日の過去を垣間見よ・3 (1)①
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「わかったよ……引っ張られすぎないように気を付けるから」
だからもう、そんなに強く言わないで……と私は肩を落とした。
これ以上はいたたまれなくなる。
そんな事を思いながらも、私も静も自分たちのすべきことを忘れてはいなかった。ゆっくりとした足取りで冷たい地面を踏みしめ、泉の中央に佇む石碑に向かって歩みを向ける。
一歩、立ち止まると。
「真兄さんも。ほら」
そう言って、静が真兄に手を差し伸べた。そうだ。すっかり忘れていたけれど、私と静以外にも、真兄も記憶を取り戻さなきゃいけないんだった。
真兄はどんな前世を見たのか、どんな力を取り戻しつつあるのか、それを教えてくれない。
聞いてもはぐらかされておしまいだ。そんなに話せないような前世なのだろうか?
それとも、話すような内容のない前世なのだろうか? いや、さすがにそんな事はないか。
二人のやり取りをジッと眺めながら、私はそんな事を考えていた。だって、私の前世がゑレ妃という白卯が居た卯ノ国のお姫様で、静の前世はハルナって女の人……じゃあ、ってなるもの。
「大丈夫でございますか?」
「うん、大丈夫だよ、白卯。心配してくれてありがとう」
石碑を見つめる私の背中に、白卯が心配そうな声色で声を掛けてきた。
元気よく返事を返したかったけれど、そこまで吹っ切れていなかった私の声は少しだけ頼りなかったかもしれない。
小さくて、弱弱しくて、か細くて……心配になってしまうような声だったかもしれない。
だけど、やらなきゃいけない。やらないといけない。私は、取り戻さなきゃいけない。
ぐ、と拳を握りしめた。指全体に力がこもり、じんわりと赤みを帯びていく。
「雪ちゃん」
「うん。いこう、静、真兄」
ふぅ、と一つ大きく息を吐き出した。それは心を落ち着かせるため。
私達のすべきことを思い出せ。そう心に強く唱えながら、私は泉の中に足を踏み入れた。
冷たい。痛い。寒い。丑ノ国の気候を考えれば、泉が暖かいわけがない。それは私だってわかっていたはずだ。
――在りし日の過去を垣間見よ――
いつぞやの時と同じように、石碑に三人で近づいた瞬間だった。頭の中に声が響いた。
こだまするように頭の中をその言葉だけで埋め尽くされた瞬間、ぐらりと意識が反転するような不思議な感覚を覚えた。
* * *
ゑレ妃、九歳。
「はーくっ!」
「ひ、姫さまっ⁉」
幼い頃のゑレ妃はこっそりと白卯の後ろに近寄って、彼の名前を呼びながら後ろから抱き着くことに夢中だった。ゑレ妃に抱き着かれた白卯は驚きの声を上げながらも、抱き着いてきた彼女を落とさないようにとしっかりとおんぶをしてくれる。それが分かっていたからこその行動だった。
だからもう、そんなに強く言わないで……と私は肩を落とした。
これ以上はいたたまれなくなる。
そんな事を思いながらも、私も静も自分たちのすべきことを忘れてはいなかった。ゆっくりとした足取りで冷たい地面を踏みしめ、泉の中央に佇む石碑に向かって歩みを向ける。
一歩、立ち止まると。
「真兄さんも。ほら」
そう言って、静が真兄に手を差し伸べた。そうだ。すっかり忘れていたけれど、私と静以外にも、真兄も記憶を取り戻さなきゃいけないんだった。
真兄はどんな前世を見たのか、どんな力を取り戻しつつあるのか、それを教えてくれない。
聞いてもはぐらかされておしまいだ。そんなに話せないような前世なのだろうか?
それとも、話すような内容のない前世なのだろうか? いや、さすがにそんな事はないか。
二人のやり取りをジッと眺めながら、私はそんな事を考えていた。だって、私の前世がゑレ妃という白卯が居た卯ノ国のお姫様で、静の前世はハルナって女の人……じゃあ、ってなるもの。
「大丈夫でございますか?」
「うん、大丈夫だよ、白卯。心配してくれてありがとう」
石碑を見つめる私の背中に、白卯が心配そうな声色で声を掛けてきた。
元気よく返事を返したかったけれど、そこまで吹っ切れていなかった私の声は少しだけ頼りなかったかもしれない。
小さくて、弱弱しくて、か細くて……心配になってしまうような声だったかもしれない。
だけど、やらなきゃいけない。やらないといけない。私は、取り戻さなきゃいけない。
ぐ、と拳を握りしめた。指全体に力がこもり、じんわりと赤みを帯びていく。
「雪ちゃん」
「うん。いこう、静、真兄」
ふぅ、と一つ大きく息を吐き出した。それは心を落ち着かせるため。
私達のすべきことを思い出せ。そう心に強く唱えながら、私は泉の中に足を踏み入れた。
冷たい。痛い。寒い。丑ノ国の気候を考えれば、泉が暖かいわけがない。それは私だってわかっていたはずだ。
――在りし日の過去を垣間見よ――
いつぞやの時と同じように、石碑に三人で近づいた瞬間だった。頭の中に声が響いた。
こだまするように頭の中をその言葉だけで埋め尽くされた瞬間、ぐらりと意識が反転するような不思議な感覚を覚えた。
* * *
ゑレ妃、九歳。
「はーくっ!」
「ひ、姫さまっ⁉」
幼い頃のゑレ妃はこっそりと白卯の後ろに近寄って、彼の名前を呼びながら後ろから抱き着くことに夢中だった。ゑレ妃に抱き着かれた白卯は驚きの声を上げながらも、抱き着いてきた彼女を落とさないようにとしっかりとおんぶをしてくれる。それが分かっていたからこその行動だった。
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