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第5章【石碑の守護者】
41罪 真実②
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『白卯殿……お話するのであれば、私達からお話しします』
「……かしこまりました」
なんと言おうかと迷っている白卯に耀さんがため息交じりに言いきった。
自分たちで説明をするから余計なことを言うな、という圧力にも感じるが――――たぶん、彼らの事だからちゃんと教えてくれるだろう。
『本当に、君には敵わないよ……』
そんな風に苦笑を浮かべた燿は、ゆっくりと空を仰ぎ見る。それにつられる様に私も空をゆっくりと仰ぎ見た。
いつの間にか暗くなりつつあった空はオレンジ色から紫色に変色していっているようにも見えた。それと同時に不思議な感覚に囚われた。こんな空を、私は以前どこかで……見たような気がした。
『僕達はね――』
意識が別のところへ向きかけていた私の耳に、燿の声が届いた。空を見上げていた私の視線は、そこから素早く燿と耀さんの方へと向き直った。
『君達が亡くなった時は……雪ちゃんの予想通り、生きていたよ』
言葉を選び、考え、悩みながら、燿は文字を音として紡いでいく。
過去を思い出すように、懐かしさに燿と耀さんの瞳が細められた。まるで、つい今しがたまでその時代に居たかのように、懐かしさに浸る声。
その時がとても大切だったんだと感じられるくらい、優しい表情を彼らは浮かべていた。
「じゃあ……!」
燿の言葉を耳にして、私はやっぱり彼らは意図的に魂になったのだと確信した。もちろん、それが良いこととも悪いこととも言えない。この世界の考えや常識は、私達の元の世界の考えや常識とは違うからだ。
だとしても、やっぱり気持ちのいいものじゃない。前世の私達が死んだから彼らは死ぬことになった。たぶん、これを彼らに言ったら“違う”と言われそうだけれど。
『私達は、貴方達が亡くなった後はしばらくは魂の警護をしていたのですよ、魂の塔で』
「魂の…………塔?」
聞きなれない単語に、私はオウム返しに問い返していた。そもそもが、私達には死んだ後の人間の魂なんて見る機会なんてなかった。もちろん、見える人も居たみたいだけど……私は見たことがない。
『死した魂はそのまますぐに生まれ変わるわけじゃありません』
『死した魂は一度、魔国にある魂の塔で保管されたのち――輪廻転生の渦に放出されるんだ』
『本来は天界の管轄だったんだけど、はるか遠い昔に停戦協定を結んでからは、魔国にその業務が委任されたんだ』
「天界から魔国に……だけ?」
天界がもともと管理していた輪廻転生の業務を、互いの国を脅かさない約束に魔国に委任したという話を聞いて、少しだけ疑問だった。なぜ、天界から魔国にだけなのか。なぜ、魔国から天界にはないのか。
その疑問は無意識に言葉に出ていたらしく、それを聞いた燿も耀さんも苦笑を浮かべるだけだった。
『それは……きっと、記憶を取り戻していけばわかることだと思いますよ』
「……ぇ?」
『はるか昔、君達が七つの大罪(グリモワール)だったころの記憶を取り戻せば、きっと理解できるよ』
ぴしゃりと話を区切られてしまった。これ以上は話してくれないという事だろう。
たぶん、これから話してくれる燿と耀さんが石碑の守護者になった経緯の話とは関係のない話だからなんだろう。
それはそれですごく気になるのだけれど……。
『さて、それで……私達が雪さん達の死後どうしていたか……という話でしたね』
戻されてしまった話題。私はどうすることも出来なくて、ただただ二人の言葉に耳を傾けることに集中することにした。
たぶん、今もう一度聞いても、絶対に彼らは教えてくれないだろうから。
いや、もしかしたら教えてくれるかもしれない。でも、そうしたらきっと、彼らが石碑の守護者になった経緯は教えてくれなくなってしまうだろう。だったらもう、飲み込むしかない。
『僕達は、ゑレ妃ちゃんが亡くなった時は魂の塔には居なかったんだ。僕達が君達二人の魂と会ったのは、静ちゃんの前世であるハルナちゃんの死後……』
告げる言葉は淡々としていて、何の感情も乗せていないように思えた。それはわざとなのか……。
「……かしこまりました」
なんと言おうかと迷っている白卯に耀さんがため息交じりに言いきった。
自分たちで説明をするから余計なことを言うな、という圧力にも感じるが――――たぶん、彼らの事だからちゃんと教えてくれるだろう。
『本当に、君には敵わないよ……』
そんな風に苦笑を浮かべた燿は、ゆっくりと空を仰ぎ見る。それにつられる様に私も空をゆっくりと仰ぎ見た。
いつの間にか暗くなりつつあった空はオレンジ色から紫色に変色していっているようにも見えた。それと同時に不思議な感覚に囚われた。こんな空を、私は以前どこかで……見たような気がした。
『僕達はね――』
意識が別のところへ向きかけていた私の耳に、燿の声が届いた。空を見上げていた私の視線は、そこから素早く燿と耀さんの方へと向き直った。
『君達が亡くなった時は……雪ちゃんの予想通り、生きていたよ』
言葉を選び、考え、悩みながら、燿は文字を音として紡いでいく。
過去を思い出すように、懐かしさに燿と耀さんの瞳が細められた。まるで、つい今しがたまでその時代に居たかのように、懐かしさに浸る声。
その時がとても大切だったんだと感じられるくらい、優しい表情を彼らは浮かべていた。
「じゃあ……!」
燿の言葉を耳にして、私はやっぱり彼らは意図的に魂になったのだと確信した。もちろん、それが良いこととも悪いこととも言えない。この世界の考えや常識は、私達の元の世界の考えや常識とは違うからだ。
だとしても、やっぱり気持ちのいいものじゃない。前世の私達が死んだから彼らは死ぬことになった。たぶん、これを彼らに言ったら“違う”と言われそうだけれど。
『私達は、貴方達が亡くなった後はしばらくは魂の警護をしていたのですよ、魂の塔で』
「魂の…………塔?」
聞きなれない単語に、私はオウム返しに問い返していた。そもそもが、私達には死んだ後の人間の魂なんて見る機会なんてなかった。もちろん、見える人も居たみたいだけど……私は見たことがない。
『死した魂はそのまますぐに生まれ変わるわけじゃありません』
『死した魂は一度、魔国にある魂の塔で保管されたのち――輪廻転生の渦に放出されるんだ』
『本来は天界の管轄だったんだけど、はるか遠い昔に停戦協定を結んでからは、魔国にその業務が委任されたんだ』
「天界から魔国に……だけ?」
天界がもともと管理していた輪廻転生の業務を、互いの国を脅かさない約束に魔国に委任したという話を聞いて、少しだけ疑問だった。なぜ、天界から魔国にだけなのか。なぜ、魔国から天界にはないのか。
その疑問は無意識に言葉に出ていたらしく、それを聞いた燿も耀さんも苦笑を浮かべるだけだった。
『それは……きっと、記憶を取り戻していけばわかることだと思いますよ』
「……ぇ?」
『はるか昔、君達が七つの大罪(グリモワール)だったころの記憶を取り戻せば、きっと理解できるよ』
ぴしゃりと話を区切られてしまった。これ以上は話してくれないという事だろう。
たぶん、これから話してくれる燿と耀さんが石碑の守護者になった経緯の話とは関係のない話だからなんだろう。
それはそれですごく気になるのだけれど……。
『さて、それで……私達が雪さん達の死後どうしていたか……という話でしたね』
戻されてしまった話題。私はどうすることも出来なくて、ただただ二人の言葉に耳を傾けることに集中することにした。
たぶん、今もう一度聞いても、絶対に彼らは教えてくれないだろうから。
いや、もしかしたら教えてくれるかもしれない。でも、そうしたらきっと、彼らが石碑の守護者になった経緯は教えてくれなくなってしまうだろう。だったらもう、飲み込むしかない。
『僕達は、ゑレ妃ちゃんが亡くなった時は魂の塔には居なかったんだ。僕達が君達二人の魂と会ったのは、静ちゃんの前世であるハルナちゃんの死後……』
告げる言葉は淡々としていて、何の感情も乗せていないように思えた。それはわざとなのか……。
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