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第4章【ずっとずっと大切な人】
36罪 ずっとずっと大切な人①
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テントを出た先には火の消えた焚火の跡が残っているだけだった。寒くはないけれど、日中よりは涼しい空気を感じる。
みんなテントで寝ているんだってことがよくわかる景色だった。焚火が消えてどれくらいたったのだろうか。
(さすがに、誰も起きてるわけないよね……)
シン……と静まり返っているテントを見渡して、私はそんな事を思った。
いや、誰か起きていたところで、私はどうするつもりだったんだろうか? どうすることも出来ないはずなのに。今の思いのうちを聞いてもらいたいとでも思っているんだろうか。
自分の感情のはずなのに、私は自分の気持ちがよくわからなかった。ぐちゃぐちゃだった。
「……雪、様?」
「――――ぇ?」
聞こえた声に、私は間の抜けた声を零して振り返った。そこにはテントから顔だけを出して私を見つめる白卯の姿があった。
なぜ彼が起きているのか、なぜ彼が私がテントから出ていることに気付いたのか、分からない。わからないけれど、私にとって白卯の声はただの救世主のように思えた。
「なんで……起きて、るの?」
呟いた私の声はほんの少しだけ掠れていた。
月明かりが動き、私にちょっとだけ影を落とす。暗い影が私の表情を隠してくれる。
逆に白卯が今度は月明かりに晒されて、その真っ白な髪がキラキラと月明かりで煌めいてみえる。宝石のように光を反射させてキラキラとして見える。
「なかなか寝付けずにおりまして……」
テントから出たら私がそこに居たと説明してくれた白卯に、私は苦笑を浮かべるしかなかった。
寝ててほしかったような、起きていてくれて嬉しかったような、とても複雑な気持ちだった。
「雪様は……ずっと起きられていらっしゃったので?」
「ううん……途中で、目が覚めちゃって」
あはは、と乾いた笑みをこぼしながら後頭部をカシカシと掻くように触った。
途中で目が覚めたのは本当。テントから出てきた理由はそれだけじゃないけれど。わざわざそこまで白卯に説明する必要はないと感じて、私は口を紡いだ。
「なにか……ありましたか?」
テントから完全に出てきた白卯は、私に一歩また一歩と近寄りながら問いかけた。
ビクリ、と肩が揺れてしまったのは聞かれたくなかった内容だからだろうか? それすらも、私は分からなかった。本当に反射的にビクッとしてしまったんだ。
「雪様?」
「う、ん……そ、だね」
言葉が詰まり、頭がうまく回ってくれない。なんて返せばいいのか。なんと返すのが一番いいのか。頭の中がぐちゃぐちゃで、正直な言葉が私の唇から溢れ出てしまった。
認めてしまえば、話さなくちゃいけなくなってしまうかもしれない。認めてしまえば、聞かれるかもしれない。認めてしまえば、私自身も『あの出来事』を認識せざるを得ない。
みんなテントで寝ているんだってことがよくわかる景色だった。焚火が消えてどれくらいたったのだろうか。
(さすがに、誰も起きてるわけないよね……)
シン……と静まり返っているテントを見渡して、私はそんな事を思った。
いや、誰か起きていたところで、私はどうするつもりだったんだろうか? どうすることも出来ないはずなのに。今の思いのうちを聞いてもらいたいとでも思っているんだろうか。
自分の感情のはずなのに、私は自分の気持ちがよくわからなかった。ぐちゃぐちゃだった。
「……雪、様?」
「――――ぇ?」
聞こえた声に、私は間の抜けた声を零して振り返った。そこにはテントから顔だけを出して私を見つめる白卯の姿があった。
なぜ彼が起きているのか、なぜ彼が私がテントから出ていることに気付いたのか、分からない。わからないけれど、私にとって白卯の声はただの救世主のように思えた。
「なんで……起きて、るの?」
呟いた私の声はほんの少しだけ掠れていた。
月明かりが動き、私にちょっとだけ影を落とす。暗い影が私の表情を隠してくれる。
逆に白卯が今度は月明かりに晒されて、その真っ白な髪がキラキラと月明かりで煌めいてみえる。宝石のように光を反射させてキラキラとして見える。
「なかなか寝付けずにおりまして……」
テントから出たら私がそこに居たと説明してくれた白卯に、私は苦笑を浮かべるしかなかった。
寝ててほしかったような、起きていてくれて嬉しかったような、とても複雑な気持ちだった。
「雪様は……ずっと起きられていらっしゃったので?」
「ううん……途中で、目が覚めちゃって」
あはは、と乾いた笑みをこぼしながら後頭部をカシカシと掻くように触った。
途中で目が覚めたのは本当。テントから出てきた理由はそれだけじゃないけれど。わざわざそこまで白卯に説明する必要はないと感じて、私は口を紡いだ。
「なにか……ありましたか?」
テントから完全に出てきた白卯は、私に一歩また一歩と近寄りながら問いかけた。
ビクリ、と肩が揺れてしまったのは聞かれたくなかった内容だからだろうか? それすらも、私は分からなかった。本当に反射的にビクッとしてしまったんだ。
「雪様?」
「う、ん……そ、だね」
言葉が詰まり、頭がうまく回ってくれない。なんて返せばいいのか。なんと返すのが一番いいのか。頭の中がぐちゃぐちゃで、正直な言葉が私の唇から溢れ出てしまった。
認めてしまえば、話さなくちゃいけなくなってしまうかもしれない。認めてしまえば、聞かれるかもしれない。認めてしまえば、私自身も『あの出来事』を認識せざるを得ない。
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