上 下
203 / 283
第4章【ずっとずっと大切な人】

36罪 ずっとずっと大切な人①

しおりを挟む
 テントを出た先には火の消えた焚火の跡が残っているだけだった。寒くはないけれど、日中よりは涼しい空気を感じる。
 みんなテントで寝ているんだってことがよくわかる景色だった。焚火が消えてどれくらいたったのだろうか。

(さすがに、誰も起きてるわけないよね……)

 シン……と静まり返っているテントを見渡して、私はそんな事を思った。
 いや、誰か起きていたところで、私はどうするつもりだったんだろうか? どうすることも出来ないはずなのに。今の思いのうちを聞いてもらいたいとでも思っているんだろうか。
 自分の感情のはずなのに、私は自分の気持ちがよくわからなかった。ぐちゃぐちゃだった。

「……雪、様?」
「――――ぇ?」

 聞こえた声に、私は間の抜けた声を零して振り返った。そこにはテントから顔だけを出して私を見つめる白卯はくうの姿があった。
 なぜ彼が起きているのか、なぜ彼が私がテントから出ていることに気付いたのか、分からない。わからないけれど、私にとって白卯はくうの声はただの救世主のように思えた。

「なんで……起きて、るの?」

 呟いた私の声はほんの少しだけ掠れていた。
 月明かりが動き、私にちょっとだけ影を落とす。暗い影が私の表情を隠してくれる。
 逆に白卯はくうが今度は月明かりに晒されて、その真っ白な髪がキラキラと月明かりで煌めいてみえる。宝石のように光を反射させてキラキラとして見える。

「なかなか寝付けずにおりまして……」

 テントから出たら私がそこに居たと説明してくれた白卯はくうに、私は苦笑を浮かべるしかなかった。
 寝ててほしかったような、起きていてくれて嬉しかったような、とても複雑な気持ちだった。

「雪様は……ずっと起きられていらっしゃったので?」
「ううん……途中で、目が覚めちゃって」

 あはは、と乾いた笑みをこぼしながら後頭部をカシカシと掻くように触った。
 途中で目が覚めたのは本当。テントから出てきた理由はそれだけじゃないけれど。わざわざそこまで白卯はくうに説明する必要はないと感じて、私は口を紡いだ。

「なにか……ありましたか?」

 テントから完全に出てきた白卯はくうは、私に一歩また一歩と近寄りながら問いかけた。
 ビクリ、と肩が揺れてしまったのは聞かれたくなかった内容だからだろうか? それすらも、私は分からなかった。本当に反射的にビクッとしてしまったんだ。

「雪様?」
「う、ん……そ、だね」

 言葉が詰まり、頭がうまく回ってくれない。なんて返せばいいのか。なんと返すのが一番いいのか。頭の中がぐちゃぐちゃで、正直な言葉が私の唇から溢れ出てしまった。
 認めてしまえば、話さなくちゃいけなくなってしまうかもしれない。認めてしまえば、聞かれるかもしれない。認めてしまえば、私自身も『あの出来事』を認識せざるを得ない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

【R18】黒髪メガネのサラリーマンに監禁された話。

猫足02
恋愛
ある日、大学の帰り道に誘拐された美琴は、そのまま犯人のマンションに監禁されてしまう。 『ずっと君を見てたんだ。君だけを愛してる』 一度コンビニで見かけただけの、端正な顔立ちの男。一見犯罪とは無縁そうな彼は、狂っていた。

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

先生!放課後の隣の教室から女子の喘ぎ声が聴こえました…

ヘロディア
恋愛
居残りを余儀なくされた高校生の主人公。 しかし、隣の部屋からかすかに女子の喘ぎ声が聴こえてくるのであった。 気になって覗いてみた主人公は、衝撃的な光景を目の当たりにする…

隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました

ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら…… という、とんでもないお話を書きました。 ぜひ読んでください。

これ以上ヤったら●っちゃう!

ヘロディア
恋愛
彼氏が変態である主人公。 いつも自分の部屋に呼んで戯れていたが、とうとう彼の部屋に呼ばれてしまい…

お嬢様、お仕置の時間です。

moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。 両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。 私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。 私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。 両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。 新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。 私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。 海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。 しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。 海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。 しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。

【R18】幼馴染の男3人にノリで乳首当てゲームされて思わず感じてしまい、次々と告白されて予想外の展開に…【短縮版】

うすい
恋愛
【ストーリー】 幼馴染の男3人と久しぶりに飲みに集まったななか。自分だけ異性であることを意識しないくらい仲がよく、久しぶりに4人で集まれたことを嬉しく思っていた。 そんな中、幼馴染のうちの1人が乳首当てゲームにハマっていると言い出し、ななか以外の3人が実際にゲームをして盛り上がる。 3人のやり取りを微笑ましく眺めるななかだったが、自分も参加させられ、思わず感じてしまい―――。 さらにその後、幼馴染たちから次々と衝撃の事実を伝えられ、事態は思わぬ方向に発展していく。 【登場人物】 ・ななか 広告マーケターとして働く新社会人。純粋で素直だが流されやすい。大学時代に一度だけ彼氏がいたが、身体の相性が微妙で別れた。 ・かつや 不動産の営業マンとして働く新社会人。社交的な性格で男女問わず友達が多い。ななかと同じ大学出身。 ・よしひこ 飲食店経営者。クールで口数が少ない。頭も顔も要領もいいため学生時代はモテた。短期留学経験者。 ・しんじ 工場勤務の社会人。控えめな性格だがしっかり者。みんなよりも社会人歴が長い。最近同棲中の彼女と別れた。 【注意】 ※一度全作品を削除されてしまったため、本番シーンはカットしての投稿となります。 そのため読みにくい点や把握しにくい点が多いかと思いますがご了承ください。 フルバージョンはpixivやFantiaで配信させていただいております。 ※男数人で女を取り合うなど、くっさい乙女ゲーム感満載です。 ※フィクションとしてお楽しみいただきますようお願い申し上げます。

処理中です...