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第4章【ずっとずっと大切な人】
35罪 聞きたくなかった②
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ふわりと、空気が流れた気がした。清潔な空気が広がった気がした。もわっとした空気が消えた気がした。それはつまり、ヴェル君の生活魔法が使われた瞬間だった。
「……いつも綺麗にしてくれてありがとうね、ヴェルくん」
「……べつに」
「ふふ……またいつもの感じなのね。終わるとそうやってつれなくなるの」
しゅるりと聞こえる布ずれの音を耳にすると、彼らが乱れた服を整えているのだと分かった。
そうしているうちに聞こえてきた会話に、聞き耳を立ててしまう。だけど、ヴェル君は凄くつれない態度で静に返事をする。男の人ってそういうものなのかな?
「雪ちゃん起こす前に、俺……自分のテントに戻るよ。ちゃんと眠れているのも確認できたし」
「そうね。もともとそういう話でテントに来たんだものね」
「……それじゃ、おやすみ、静ちゃん」
「ええ、おやすみなさい、ヴェルくん」
ぽろぽろと涙があふれ出るのが止まらない。私はヴェル君がテントから出ていくのに気付くと、寝相を装って顔を地面に向けた。泣いているのが遠巻きでも見えないように。
この暗がりじゃ見えないとは思うけど、念のためだ。
「……おやすみ、雪ちゃん」
「…………」
ヴェル君がテントから出ていったあと、少しだけ間を開けてから静がそんな風に呟いた。
起きているのがバレた? そんな風に慌てたけれど、たぶん自分が寝るから眠っている私に対して挨拶をしただけなんだろうなと思うことにした。
バレているのか、バレていないのか、実際のところは分からない。私から静は見えないし、彼女がどんな表情を浮かべているのかわからない。
だから私は返事を返すことなく、そのまま無言を貫いた。
(……こんなんじゃ、眠れないよ……)
先ほどまでの二人の甘い声が頭から離れない。大好きな人の甘い吐息が忘れられない。彼の愛が向けられているのが私じゃなくて静なのが悲しい。
ヴェル君がどんな風に抱くのか、どんな風に愛を囁くのか、どんな表情を浮かべるのか、私は知らない。
(……っ)
ほんの少し、ヴェル君のことを想像してしまった。その瞬間、じわっと私の秘部が熱くなるのを感じた。
じんわりと濡れてくるのが分かった。ゾクゾクとした感覚が腰のあたりに広がっていった。
隣からスース―と寝息が聞こえてきたのを確認して、私はゆっくりと起き上がった。寝るのが早いなとは思ったけど、セックスしたあとなのだから疲れていても当然だ。
音を立てないように立ち上がると、ゆっくりとテントの入り口から外へと出た。
見上げれば月がまぶしいくらいに輝いていて、優しく私を包み込むように照らしていた。私の涙の痕さえも映し出すように。
「……いつも綺麗にしてくれてありがとうね、ヴェルくん」
「……べつに」
「ふふ……またいつもの感じなのね。終わるとそうやってつれなくなるの」
しゅるりと聞こえる布ずれの音を耳にすると、彼らが乱れた服を整えているのだと分かった。
そうしているうちに聞こえてきた会話に、聞き耳を立ててしまう。だけど、ヴェル君は凄くつれない態度で静に返事をする。男の人ってそういうものなのかな?
「雪ちゃん起こす前に、俺……自分のテントに戻るよ。ちゃんと眠れているのも確認できたし」
「そうね。もともとそういう話でテントに来たんだものね」
「……それじゃ、おやすみ、静ちゃん」
「ええ、おやすみなさい、ヴェルくん」
ぽろぽろと涙があふれ出るのが止まらない。私はヴェル君がテントから出ていくのに気付くと、寝相を装って顔を地面に向けた。泣いているのが遠巻きでも見えないように。
この暗がりじゃ見えないとは思うけど、念のためだ。
「……おやすみ、雪ちゃん」
「…………」
ヴェル君がテントから出ていったあと、少しだけ間を開けてから静がそんな風に呟いた。
起きているのがバレた? そんな風に慌てたけれど、たぶん自分が寝るから眠っている私に対して挨拶をしただけなんだろうなと思うことにした。
バレているのか、バレていないのか、実際のところは分からない。私から静は見えないし、彼女がどんな表情を浮かべているのかわからない。
だから私は返事を返すことなく、そのまま無言を貫いた。
(……こんなんじゃ、眠れないよ……)
先ほどまでの二人の甘い声が頭から離れない。大好きな人の甘い吐息が忘れられない。彼の愛が向けられているのが私じゃなくて静なのが悲しい。
ヴェル君がどんな風に抱くのか、どんな風に愛を囁くのか、どんな表情を浮かべるのか、私は知らない。
(……っ)
ほんの少し、ヴェル君のことを想像してしまった。その瞬間、じわっと私の秘部が熱くなるのを感じた。
じんわりと濡れてくるのが分かった。ゾクゾクとした感覚が腰のあたりに広がっていった。
隣からスース―と寝息が聞こえてきたのを確認して、私はゆっくりと起き上がった。寝るのが早いなとは思ったけど、セックスしたあとなのだから疲れていても当然だ。
音を立てないように立ち上がると、ゆっくりとテントの入り口から外へと出た。
見上げれば月がまぶしいくらいに輝いていて、優しく私を包み込むように照らしていた。私の涙の痕さえも映し出すように。
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