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第4章【ずっとずっと大切な人】
30罪 まだ帰さない①
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「それじゃあ、私達は先に寝ていますね」
「おやすみ、静。ヴェル。白卯」
「おやすみなさい、真兄」
「おやすみ、真」
「はい、おやすみなさいませ」
お互いがお互いの顔を見合うようにして挨拶を交わした。
何も知らない人たち。何かをたくらむ者。たくらんでいる事を分かっていながら為す術のない者。
軽く手を振りながら、静は白卯と真がテントの中に入ったことを確認するとヴェルへと向き直った。その顔には満面の笑みが貼りつけられていた。
「行きましょう、ヴェルくん」
「…………ああ」
「なに? あまり乗り気しなさそうね?」
ズバリと言い当てられてしまえば、ヴェルは口ごもるしかなかった。
冷たい空気が二人の間を通り抜け、二人の髪の毛が揺れる。二人の色が重なり合い、交ざり合い、絡み合う。その様はなんだか情事のようで、ヴェルは視線をそらしたくなった。
「ほら。雪ちゃんの様子、見に行きましょう? 気になる……でしょう?」
「――そりゃ、気になるけど……」
「けど……なぁに?」
何かを言いよどむヴェルに、静は笑顔を崩さずに問い返した。その表情が、なんだか怖くて背筋が凍えるような感じを覚えた。
これ以上、足踏みをしてはいけない。
そんな風に思ってしまうには十分な効果を、静の笑顔は持っていた。
「あまりのんきにしていると、雪ちゃん起きてしまうかもしれないわよ?」
「静ちゃんは寝てると思うの……?」
問いに対して問いで返すヴェルに、静は小さくため息をつき肩をすくめた。
(私の問いには答えてくれるつもりはないのかしら?)
そんな風に残念そうにする静の姿を見て、ヴェルは「あ……」と小さく声を漏らした。
やってしまったかもしれない……と思ったのだろう。
「いや、寝てるんだとしたら起こしちゃうのは悪いと思うから早いとこ様子を見て寝た方がいいとは思うけどっ」
そんな風に早口でまくし立てるように話すヴェルの様子に、静はプッと笑ってしまった。
そんなに慌てることないのに、と内心思いながらも、そういう反応をヴェルがするようにしたのも自分であることも静は理解していた。
「そうね。起こしちゃ悪いから、そーっと…………見に行きましょう? まあ、ヴェルくんの言うとおり絶対に寝てるとは言いきれないけれどね」
唇をきゅっと横に引きながら笑う静は、そっとヴェルの手をとった。
そして彼を案内するように手を引き、雪の眠るテントに向かって歩みを進めていった。
「………………っ」
テントが近づくにつれてドキンドキンと、心臓が早鐘を打つように脈打ちはじめた。
手を握る静の手を、無意識に強く掴んでいた。
「おやすみ、静。ヴェル。白卯」
「おやすみなさい、真兄」
「おやすみ、真」
「はい、おやすみなさいませ」
お互いがお互いの顔を見合うようにして挨拶を交わした。
何も知らない人たち。何かをたくらむ者。たくらんでいる事を分かっていながら為す術のない者。
軽く手を振りながら、静は白卯と真がテントの中に入ったことを確認するとヴェルへと向き直った。その顔には満面の笑みが貼りつけられていた。
「行きましょう、ヴェルくん」
「…………ああ」
「なに? あまり乗り気しなさそうね?」
ズバリと言い当てられてしまえば、ヴェルは口ごもるしかなかった。
冷たい空気が二人の間を通り抜け、二人の髪の毛が揺れる。二人の色が重なり合い、交ざり合い、絡み合う。その様はなんだか情事のようで、ヴェルは視線をそらしたくなった。
「ほら。雪ちゃんの様子、見に行きましょう? 気になる……でしょう?」
「――そりゃ、気になるけど……」
「けど……なぁに?」
何かを言いよどむヴェルに、静は笑顔を崩さずに問い返した。その表情が、なんだか怖くて背筋が凍えるような感じを覚えた。
これ以上、足踏みをしてはいけない。
そんな風に思ってしまうには十分な効果を、静の笑顔は持っていた。
「あまりのんきにしていると、雪ちゃん起きてしまうかもしれないわよ?」
「静ちゃんは寝てると思うの……?」
問いに対して問いで返すヴェルに、静は小さくため息をつき肩をすくめた。
(私の問いには答えてくれるつもりはないのかしら?)
そんな風に残念そうにする静の姿を見て、ヴェルは「あ……」と小さく声を漏らした。
やってしまったかもしれない……と思ったのだろう。
「いや、寝てるんだとしたら起こしちゃうのは悪いと思うから早いとこ様子を見て寝た方がいいとは思うけどっ」
そんな風に早口でまくし立てるように話すヴェルの様子に、静はプッと笑ってしまった。
そんなに慌てることないのに、と内心思いながらも、そういう反応をヴェルがするようにしたのも自分であることも静は理解していた。
「そうね。起こしちゃ悪いから、そーっと…………見に行きましょう? まあ、ヴェルくんの言うとおり絶対に寝てるとは言いきれないけれどね」
唇をきゅっと横に引きながら笑う静は、そっとヴェルの手をとった。
そして彼を案内するように手を引き、雪の眠るテントに向かって歩みを進めていった。
「………………っ」
テントが近づくにつれてドキンドキンと、心臓が早鐘を打つように脈打ちはじめた。
手を握る静の手を、無意識に強く掴んでいた。
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