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第4章【ずっとずっと大切な人】
27罪 思いやり④
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「雪ちゃん?」
「……え?」
「ボーっとして、どうかしたのかしら?」
大丈夫? と心配そうに私の顔を覗きこんでくる静の顔がドアップで、そこでようやく声を掛けられていたことに気付いた。
「あー、うん。たぶん……ちょっと疲れたんだと思う」
あはは、と空元気な笑いを返しながら私はポリポリと頬をかいた。
いろいろなことがあった。助けてはもらったけれど、さすがに心も体も限界まで疲れきっている。たぶん、みんなもそれは理解していたんだろうな。私の発言に口ごもっていた。
(まあ……そりゃ、何も言えないよね)
なんと言えばいいのか、なんと反応すればいいのか、どんなふうに関われば問題ないのか、悩むみんなの空気を感じた。
「ごめん。私、先に寝るね……片付けとか、お願いしちゃうけど……」
「そんな事、この白卯にお任せください!」
「ああ。白卯の言うとおりだ。雪はゆっくり休め」
「うん……ありがとう、白卯、真兄」
ドンッと胸を叩いて自分に任せておけと言わんばかりに主張する白卯と、いつもと変りなく接してくれようとしている真兄に、私は内心感謝した。
変に腫れ物に触るような態度を取られることが一番つらい。
「私のことは気にせず、ゆっくり休んでちょうだい。寝るときはこっそり隣に潜り込むから」
「大丈夫だよ、静。ちゃんと静のスペースはあけて寝るから」
ウインクを一つ送りながら静が軽い口調で告げる。そんな静に、私も軽い口調で言葉を返した。
私と静はお互いを見やり、そしてフフッと笑みを浮かべると――私はゆっくりと立ち上がった。
ちらりとヴェル君のほうに視線を向けると、口を“あ”の字にあけて何かを言いたげに私を見ていた。どうしたんだろう?
「ヴェル君?」
「あ……いや」
歯切れの悪いヴェル君の態度に、私は首を傾げた。
やはりあんなシーンを見せられてしまったのだから、気まずいよね。
(しかも、一回目じゃないし……)
私の立場が静だったとしたら、もしかしたら怒っていたのかもしれない。物凄く心配したのかもしれない。
だけど、私はヴェル君へ片思いをしているだけで、ヴェル君が私へ思いを寄せているわけではない。そんな女の性行為をしている姿を見せつけられて――気まずくないわけがない。
白卯と真兄が、たぶんイレギュラーなんだと思う。
「テント、いつもみたいに防音になってるし、テント内の室温も調整してあるから過ごしやすいと思うよ」
「それは凄く助かるな! いつもありがとうね、ヴェル君」
一瞬だけ視線をそらしたヴェル君だったけど、すぐににっこりと笑顔を浮かべるといつものように接してくれた。
わかりきっていた内容ではあったけれど、何も言われないよりは全然いい。
それに、付き合ってる静の手前、あれこれ私に言えないだろうしね。静が嫉妬しちゃう。
「それじゃあ、お先におやすみなさい」
ひらひらと軽く手を振ると、私は静と使うテントの一つに入っていった。
ヴェル君が言っていた通り、中に入ると快適な室温で熱くも寒くもない。音に関しては、中の音が外に漏れないだけだから、私からは分からない。わかるとしたら、外にいるみんなだけ――だ。
「……ふぅ」
テントの中に敷かれていた布団に横たわり、私はテントの天井を見上げていた。
布団と言っても、卯ノ国で柔らかくて暖かい上質な布団を知ってしまったら、テントの中に敷かれた布団なんて薄っぺらくて柔らかくもないが。それでも、ないよりはマシだ。
「……え?」
「ボーっとして、どうかしたのかしら?」
大丈夫? と心配そうに私の顔を覗きこんでくる静の顔がドアップで、そこでようやく声を掛けられていたことに気付いた。
「あー、うん。たぶん……ちょっと疲れたんだと思う」
あはは、と空元気な笑いを返しながら私はポリポリと頬をかいた。
いろいろなことがあった。助けてはもらったけれど、さすがに心も体も限界まで疲れきっている。たぶん、みんなもそれは理解していたんだろうな。私の発言に口ごもっていた。
(まあ……そりゃ、何も言えないよね)
なんと言えばいいのか、なんと反応すればいいのか、どんなふうに関われば問題ないのか、悩むみんなの空気を感じた。
「ごめん。私、先に寝るね……片付けとか、お願いしちゃうけど……」
「そんな事、この白卯にお任せください!」
「ああ。白卯の言うとおりだ。雪はゆっくり休め」
「うん……ありがとう、白卯、真兄」
ドンッと胸を叩いて自分に任せておけと言わんばかりに主張する白卯と、いつもと変りなく接してくれようとしている真兄に、私は内心感謝した。
変に腫れ物に触るような態度を取られることが一番つらい。
「私のことは気にせず、ゆっくり休んでちょうだい。寝るときはこっそり隣に潜り込むから」
「大丈夫だよ、静。ちゃんと静のスペースはあけて寝るから」
ウインクを一つ送りながら静が軽い口調で告げる。そんな静に、私も軽い口調で言葉を返した。
私と静はお互いを見やり、そしてフフッと笑みを浮かべると――私はゆっくりと立ち上がった。
ちらりとヴェル君のほうに視線を向けると、口を“あ”の字にあけて何かを言いたげに私を見ていた。どうしたんだろう?
「ヴェル君?」
「あ……いや」
歯切れの悪いヴェル君の態度に、私は首を傾げた。
やはりあんなシーンを見せられてしまったのだから、気まずいよね。
(しかも、一回目じゃないし……)
私の立場が静だったとしたら、もしかしたら怒っていたのかもしれない。物凄く心配したのかもしれない。
だけど、私はヴェル君へ片思いをしているだけで、ヴェル君が私へ思いを寄せているわけではない。そんな女の性行為をしている姿を見せつけられて――気まずくないわけがない。
白卯と真兄が、たぶんイレギュラーなんだと思う。
「テント、いつもみたいに防音になってるし、テント内の室温も調整してあるから過ごしやすいと思うよ」
「それは凄く助かるな! いつもありがとうね、ヴェル君」
一瞬だけ視線をそらしたヴェル君だったけど、すぐににっこりと笑顔を浮かべるといつものように接してくれた。
わかりきっていた内容ではあったけれど、何も言われないよりは全然いい。
それに、付き合ってる静の手前、あれこれ私に言えないだろうしね。静が嫉妬しちゃう。
「それじゃあ、お先におやすみなさい」
ひらひらと軽く手を振ると、私は静と使うテントの一つに入っていった。
ヴェル君が言っていた通り、中に入ると快適な室温で熱くも寒くもない。音に関しては、中の音が外に漏れないだけだから、私からは分からない。わかるとしたら、外にいるみんなだけ――だ。
「……ふぅ」
テントの中に敷かれていた布団に横たわり、私はテントの天井を見上げていた。
布団と言っても、卯ノ国で柔らかくて暖かい上質な布団を知ってしまったら、テントの中に敷かれた布団なんて薄っぺらくて柔らかくもないが。それでも、ないよりはマシだ。
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