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第4章【ずっとずっと大切な人】
27罪 思いやり③
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「なぁに、雪ちゃんは私と一緒にくっついて寝たいの?」
「ふえっ⁉」
静の問いかけに私は驚きの声を上げた。
なんとも変な勘違いをされそうな言い回しである。私は声にならない声を漏らしながら、あうあうと口を開閉させるだけだった。
こういう時、なんて言葉を返したらいいのか私には分からない。
別に、静と一緒にくっついて寝ることが嫌いなわけではない。そういうわけではないが、改めて言葉にされるとなんとも言えない気持ちになる。
「ふふ……冗談よ」
焦る私の姿を見て、静が小さく笑った。余計に恥ずかしさがこみ上げてきた。
「わ、笑わなくてもいいじゃん……」
「だって、雪ちゃんの慌てっぷりが可愛くて……思わず、ね」
くすくすと笑う静を見つめると、笑うのをやめて静は私を真っすぐに見つめ返してくれた。
そして、ふわりと優し気に瞳を細めると、口角を上げてにっこりと笑みを浮かべた。
「まあ、でも、雪ちゃんの言うとおり誰かが一緒のテントになるのなら私達が一番適任かもしれないわね」
「うん。あのテントのサイズで男性二人っていうのは……さすがにね」
思い浮かべれば、なんともシュールな光景なような気がした。
だからこそ、同意してくれた静にほんの少し嬉しい気持ちがこみ上げてきた。
「静さん、雪様、私は別に外でも大丈夫でございます」
「白卯、それは駄目!」
「ですが……」
「白卯が一人、テントもなしに外で寝起きしているのを私達がなんとも思わずに過ごせると思う?」
そんな薄情な人間だなんて、白卯はさすがに思っていないよね? と言わんばかりに私は問いかけた。
こう言ってしまえば白卯は口ごもってしまうのは、なんとなくイメージが出来ていた。だからこそ、予想通りに彼が口ごもってしまっている姿を見ると、少しだけ苦笑いしてしまう。
「ヴェルくん、真兄さん、白卯さんはテントを一つずつ使ってちょうだい。私と雪ちゃんが同じテントで寝起きするから」
はっきりとした口調で告げる静の言葉は“お願い”をしているようには全く聞こえないものだった。
それは、指示と言ってしまっても差し支えないような口調だった。だからこそ、誰も否定する言葉が出てこなかった。
“分かった”としか言いようのない、そんな空気に私は凄いなと思った。
私だったらこんな風に有無も言わさず指示を出すことは出来ない。どうしても“お願い”になってしまう。
「分かったよ」
みんなを代表しているかのように、ヴェル君だけがそんな風に返事を返した。
* * *
あのあと、軽く食事をした私達は焚火のまわりに座り談笑していた。時間はゆっくりと流れ、明るかった森の中もゆっくりと薄暗くなっていった。
寒さをほんの少し感じるような青緑色の草木に夕日が当たって、ほんの少し暖かな色合いに見えた。
その場に流れる空気も、日が落ちてきて涼しくなってきたのかほんの少し肌寒さを感じる。ぶるりと身震いを起こすと、私は両手を焚火のほうに伸ばした。
パチパチと静かに奏でる火の音を聞きながら、私はちょっとの間ぼーっとしていた。たぶん、疲れていたんだと思う。
談笑しているみんなの声が、ほんの少し遠く感じた。
「ふえっ⁉」
静の問いかけに私は驚きの声を上げた。
なんとも変な勘違いをされそうな言い回しである。私は声にならない声を漏らしながら、あうあうと口を開閉させるだけだった。
こういう時、なんて言葉を返したらいいのか私には分からない。
別に、静と一緒にくっついて寝ることが嫌いなわけではない。そういうわけではないが、改めて言葉にされるとなんとも言えない気持ちになる。
「ふふ……冗談よ」
焦る私の姿を見て、静が小さく笑った。余計に恥ずかしさがこみ上げてきた。
「わ、笑わなくてもいいじゃん……」
「だって、雪ちゃんの慌てっぷりが可愛くて……思わず、ね」
くすくすと笑う静を見つめると、笑うのをやめて静は私を真っすぐに見つめ返してくれた。
そして、ふわりと優し気に瞳を細めると、口角を上げてにっこりと笑みを浮かべた。
「まあ、でも、雪ちゃんの言うとおり誰かが一緒のテントになるのなら私達が一番適任かもしれないわね」
「うん。あのテントのサイズで男性二人っていうのは……さすがにね」
思い浮かべれば、なんともシュールな光景なような気がした。
だからこそ、同意してくれた静にほんの少し嬉しい気持ちがこみ上げてきた。
「静さん、雪様、私は別に外でも大丈夫でございます」
「白卯、それは駄目!」
「ですが……」
「白卯が一人、テントもなしに外で寝起きしているのを私達がなんとも思わずに過ごせると思う?」
そんな薄情な人間だなんて、白卯はさすがに思っていないよね? と言わんばかりに私は問いかけた。
こう言ってしまえば白卯は口ごもってしまうのは、なんとなくイメージが出来ていた。だからこそ、予想通りに彼が口ごもってしまっている姿を見ると、少しだけ苦笑いしてしまう。
「ヴェルくん、真兄さん、白卯さんはテントを一つずつ使ってちょうだい。私と雪ちゃんが同じテントで寝起きするから」
はっきりとした口調で告げる静の言葉は“お願い”をしているようには全く聞こえないものだった。
それは、指示と言ってしまっても差し支えないような口調だった。だからこそ、誰も否定する言葉が出てこなかった。
“分かった”としか言いようのない、そんな空気に私は凄いなと思った。
私だったらこんな風に有無も言わさず指示を出すことは出来ない。どうしても“お願い”になってしまう。
「分かったよ」
みんなを代表しているかのように、ヴェル君だけがそんな風に返事を返した。
* * *
あのあと、軽く食事をした私達は焚火のまわりに座り談笑していた。時間はゆっくりと流れ、明るかった森の中もゆっくりと薄暗くなっていった。
寒さをほんの少し感じるような青緑色の草木に夕日が当たって、ほんの少し暖かな色合いに見えた。
その場に流れる空気も、日が落ちてきて涼しくなってきたのかほんの少し肌寒さを感じる。ぶるりと身震いを起こすと、私は両手を焚火のほうに伸ばした。
パチパチと静かに奏でる火の音を聞きながら、私はちょっとの間ぼーっとしていた。たぶん、疲れていたんだと思う。
談笑しているみんなの声が、ほんの少し遠く感じた。
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