異世界召喚されたら好きな人を親友に寝盗られた~七つの大罪(グリモワール)の一人だった私は、記憶を取り戻しながら好きな人も取り戻す!~

卯月えり

文字の大きさ
上 下
181 / 283
第3章【一途に想うからこそ】

26罪 ネヘミヤと女王陛下⑤

しおりを挟む
「いいのですよ、雪様」
「でも、よく来させてくれたね?」

 白卯はくうはこれでも、卯ノ国の妖の長だ。
 こんな簡単に国を離れて大丈夫なのだろうか?

「それはもう、私の雪様への思いの強さから……!!」
「ごり押ししたのね?」
「……静さん、それはあんまりです……」

 白卯はくうの言葉をバッサリと切るように告げた静の言葉に、白卯はくうはシュンッと肩を落とした。

「ですが、ゐ榛いはる様とゑツ姫えつき様が皆様のことを心配されていたのは本当です。そして、雪様と関係の深い私に皆の後を追うようにと……」
「お二人には感謝しないとだね……」
「ああ、本当にな」

 瞳を細め、卯ノ国の王と王妃を思いながら告げる白卯はくうを見つめ、私と真兄は大きく頷きあった。

「まさか、あなたまで来てくれるとは思わなかったわ」
「うん、俺も。思いもよらない助っ人にびっくりしたよ」

(静の表情が一瞬だけ引きつったような気がしたのは、私の気のせいかな?)

 一瞬だけ垣間見えた静の表情が気にかかったが、私はすぐににっこりと微笑む静に気のせいだと思う事にした。
 親友をそんな見間違いで疑いたくないし。
 近くにいたヴェル君も普通に相槌を打っているし、たぶん、私が気にしすぎなんだろう。
 真兄といろいろ話をした時から、少しだけ神経過敏になっているのかもしれないな……なんて内心苦笑した。

「とりあえずは、ここを離れましょう」
「ええ。静さんに賛成です」

 一歩を踏み出しながら告げる静の言葉に、白卯はくうも他の皆も満場一致で頷き合うと先へ進むべく歩きはじめた。
 私はその間、ずっと白卯はくうに抱きかかえられたままだったのだけれど。
 でもたぶん、降りたところで私の足取りはおぼつかないだろうから“降ろして”とは言わなかった。
 実際問題、地面でシていたから体中が痛いのと、イきすぎて体がだるい。

(……あんまり思い出したくないけど)

 自分の体の状態を客観的に把握しようとすると、どうしてもあの行為のことを置いておくことが出来ない。
 脳裏に過っては、嫌悪感に吐き気が増す。
 だけど、見上げればにっこりと微笑み返してくれる白卯はくうの存在が、私の心を支えてくれているように感じた。

(真兄もヴェル君も、結局は静が一番大切なんだし……)

 そう思うと、私には白卯はくうだけだという気持ちになってくる。
 もちろん、そんな事ないのは分かってる。
 真兄もヴェル君も私のことを大切に扱ってくれるし、心配してくれるし、気遣ってもくれる。
 だけど、根本的な所で二人は“静のもの”というイメージがぬぐえない。

(ヴェル君の事が好きなのに、白卯はくうに支えられて大切にされて嬉しく思うのは……なんだか少し、自分の気持ちに対して裏切りのようにも感じるな)

 ヴェル君を思いながら白卯はくうにすがる、そんな状況に内心苦笑が漏れた。
 どんなにつらい状況でも、どんなに私を選んでくれなくても、一途にヴェル君だけを思い続けられたらどんなにかっこよかったか。
 だけど、私には無理そうだ。どんなに大好きでも、どんなに思っていても、結局は静を一番に考えて静を支えるヴェル君だけを思い続けるのは――正直心が折れそうになる事もある。
 大好きな人が別の人を見ているのを見つめ続ける、そんなのつらい。

「雪様?」

 どうしました? と心配そうに視線をおろす白卯はくうに、私はにっこりと微笑みを返しながら。

「ううん。なんでもないよ」

 気丈にそう返すだけだった。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...