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第3章【一途に想うからこそ】

26罪 ネヘミヤと女王陛下①

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「ねぇねぇ、ネヘミヤ」
「なんじゃ?」

 ネヘミヤを手招くのは、銀髪を両側でふんわりとお団子にした美女だった。
 ゆったりとした足取りで近づくネヘミヤの首に両手を回し、抱き着く様に彼を見上げる。
 鼠色の髪で顔の半分を隠されたネヘミヤの片側の瞳を真っすぐ見つめる美女は、グレーのくりっとした瞳を持っていた。
 彼女は子ノ国の女王陛下だった。

わらわ七つの大罪グリモワールを捕まえてこいと申したら、ネヘミヤはどうする?」
「女王陛下のご命令とあらば。じゃが……」

 そこまで言うと、ネヘミヤはジッと女王陛下の瞳を見つめた。
 女王陛下に対してこうも平然としていられるのは、子ノ国に存在する窮鼠という妖の長だからかもしれない。
 彼は何代も前からこの国の陛下に仕えている。
 女性だった時も、男性だった時も、変わらずに仕え続けてきた。

「女王陛下はあまり乗り気ではなかったのではなかったか……?」

 記憶違いかのぉ? と首を傾げるネヘミヤに女王陛下は苦笑を浮かべた。

「確かにそうだったのだけれどな……」

 ネヘミヤの言うとおり、女王陛下は七つの大罪(グリモワール)を捕まえることに乗り気ではなかった。
 何故別の世界の者達を自分たちの都合で呼び寄せて、無理やり従わせなければならないのか、彼女には理解できなかった。
 人はどんな身分であっても自由というものを持っていて、それは何人にも犯されるべきものではないと考えていたからだ。
 召喚された七つの大罪(グリモワール)が自らの意思で神国王の命令に従うのなら、それは彼らの自由だから女王陛下だって何も言わない。
 けれど、今回、各国に出された命令はそんなものじゃなかった。

「なにか、あったのかぇ?」

 女王陛下の両頬を包み込むように、ネヘミヤは彼女の顔に両手を添えた。
 二人の視線が絡み合い、そして女王陛下の方から視線を逸らした。
 それはいつもの女王陛下からの合図。肯定する意図を含む仕草。

わらわはネヘミヤを失いとぉない」
「……女王陛下」
「ネヘミヤはわらわのそばにおらんといかん」

 小さく呟く女王陛下の声はか細くて、近くにいるネヘミヤですら聞き取るのがやっとだ。
 地面を踏みしめる足のつま先でグッと背伸びをすると、女王陛下は自身の顔がネヘミヤから見えないようにより一層彼に近づいた。
 首に回す両腕に力をこめて、ギューッとネヘミヤに抱き着いたのだ。

「女王陛下?」
わらわはネヘミヤを失わないためなら、なんだってするぞ」

 女王陛下は、自身の大きなつぶらな瞳をスッと細める。
 神国王から提示された命令を守るために、女王陛下は心を鬼にすることを決めた。
 本当は飲み込みたくない命令だったが、女王陛下が小さく告げた言葉の意味どおりネヘミヤを守るために命令に従うことにしたのだ。
 神国王は子ノ国の女王陛下が七つの大罪グリモワールを捕まえることに前向きでないことは分かっていた。
 だからこそ、女王陛下に言ったのだ。
 命令に従わないなら、ネヘミヤをよこせ――――と。
 子ノ国の窮鼠の長を辞めさせ、神国王直属の部下として七つの大罪グリモワールを捕まえることに奔走させる――――と。
 そして、ぼろ雑巾のように擦り切れるまで使い切って、死したら返してやる――――と。
 それが、子ノ国の女王陛下が神国王に従わなかった場合のやり方だと、神国王は笑っていた。
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