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第3章【一途に想うからこそ】

21罪 人質②

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 もしかしたら、彼もネヘミヤと同じくらいプレッシャーを与えられる強さを持っていたのかもしれない。

「この石碑を壊したのは、うぬか?」
「……っ」

 なんと答えればいいのか、私はわからなくて何も答えられなかった。すると、ネヘミヤはにっこりと優しく微笑んで私に向かって一歩を踏み出した。
 笑ってはくれた。だけど、それだけで緊張感はぬぐえないし、警戒心を解くことはできなかった。
 だって、まだひしひしとプレッシャーを感じていたから。

「ふむ……答えないということは、肯定ととらえてもよいのか?」
「……ぁ」

 実際、壊してしまったのは私達だ。だから否定すれば噓になってしまう。だけど、この瞬間はきっと否定するべきだったんだろう。
 もちろん、恐怖心で喉が張り付いて声が出なくなってなければ……の話だけれど。

「さて……我が国で、しかも我ら窮鼠一族が守っていた石碑を壊されたとなれば――許すわけにはいかぬな」

 ネヘミヤの鼠色の瞳がキラリと光ったような気がした次の瞬間、彼女の両側にいた鼠が一斉に動き出した。
 一匹二匹だったらなんとも思わなかっただろう鼠達の動きだが、あの量の鼠が動くと正直……少し気持ち悪い。

「なっ!?」
「うわっ」
「きゃあっ!?」

 ヴェル君達の悲鳴が聞こえてそちらへ視線を向けると、三人の足元から鼠がよじ登っているのが見えた。
 そして、鼠同士を結ぶように繫がっている銀糸。それのせいで、三人は身動きが取れずにいた。

「みんな!!」
「雪ちゃん、逃げて! これは、まずいわ!」
「だけど……!」

 このまま何もせずにいるのはよくないということは、私でもわかった。だけど、ここでみんなを置いて逃げることはできないと思った。逃げたくないとも思った。
 友達を、仲間を犠牲に、身代わりにして逃げるなんて私にはできない。グッと拳を握りしめて、ネヘミヤを睨み付ける様に見つめた。

「おやおや、反抗的な目だな」
「私達は、私達のものを取り返しに来ただけだよ。壊されたうんぬん言われるいわれはないはずよ!」

 石碑自体は私達のものではないけれど、その中に眠らされていた記憶や力はもともとは私達のものだ。
 そして、その石碑を守り続けてきたひかる耀ひかりさんだって、ネヘミヤ達のものではない。もちろん、私達のものでもないけれど。

「屁理屈を言うでない」

 けたけたと笑うネヘミヤの表情は歪みきっていて、その表情を真っ直ぐ見つめていると気持ち悪ささえ感じる。
 私はみんなを人質に取られたようなもので、行動をおこしたくても隙を見いだせずにしり込みしてしまっていた。
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