異世界召喚されたら好きな人を親友に寝盗られた~七つの大罪(グリモワール)の一人だった私は、記憶を取り戻しながら好きな人も取り戻す!~

卯月えり

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第3章【一途に想うからこそ】

21罪 人質①

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 石碑の奥の、森の中に見える光りはいったいなんなんだろうか。私はジッと目を凝らしながら見つめたんだけど、暗くてよく見えない。だけど、今しがた感じた揺れが関係していることは流石の私でも理解できた。
 ちらりとヴェル君達の方へと視線を向ければ、彼らも揺れと森の中に見える光りを警戒しているようだった。私だけじゃなくて少しだけ安心した。

「今の……何?」
「わからない、が……警戒するに越したことはないだろう」
「そうね、ここは何が起こるかわからないもの」
「みんな、一カ所に集まろう」

 ざわざわする感覚を肌で感じ取りながら、私達はヴェル君の支持どおりに一カ所に集まった。背中を合わせるようにして、四方を見れるような状況だ。
 卯ノ国うのくにの時と違って、ここは私達を擁護してくれる存在はいない。つまるところ、何が起こってもおかしくないんだ。
 子ノ国ねのくにの人達が気付いて私達を襲いに来ても、子ノ国の妖が現れても、おかしくはない。

子ノ国ねのくにの石碑で何をしてるのかね?」

 お腹に響くような低い声が聞こえ、私達は慌てて視線をそちらに向けた。
 壊れた石碑の向こうから現れたのは、燕尾服を着た気だるげな男性だった。
 鼠色の髪が彼の顔の片側を隠すように伸びていて、より一層妖しさを感じさせた。だけど、そんな見た目と裏腹に引き裂かれるようなプレッシャーを感じさせる圧力に、私もみんなも動けなくなっていた。

「あーあ。こんなにしちまって……駄目じゃないか…………なあ?」

 ぺろりと舌なめずりをすれば、その唇から赤い舌が覗く。
 気だるげなのに、そんな彼から感じるものは“恐怖”だ。怖くて、早くここから立ち去りたい気持ちでいっぱいだった。

「貴方、は……いったい誰?」
「おやおや、人に名前を尋ねる時は自分から名乗るのがセオリーだって、習わなかったのか?」

 強烈なプレッシャーを感じて、腰を抜かしてしまいそうになる。その場にストンと座り込んでしまいそうになるのを、私は必死に耐えた。
 じっとりとした嫌な汗を額と背中に感じながら、相手の出方を待った。下手に動いて不利になるようなことになりたくない。

「私、は……雪……」

 ハッ、ハッ、と息が上がる感覚に襲われた。恐怖のせいで呼吸がままならなくなっているのかもしれない。

「我はネヘミヤだ」

 そう言いながら両手を順番にスッと持ち上げると、ネヘミヤの両脇にずらっと鼠が姿を現した。
 一匹や二匹なんて可愛い数じゃない。ずらっと……密集するように並んでいる鼠は、本当に相当な数がいるようだった。数えるのも面倒くさくなるくらいの数。

「それで、雪とやら」

 低かった彼の声が、また低くなった。ビクリと肩を揺らして、私はネヘミヤを真っすぐ見つめた。けれど、たぶん私の視線は動揺して泳いでいたと思う。それくらい、恐怖感がハンパなかった。
 白卯はくうの優しさが、どれだけ私達の緊張をほぐしてくれていたのか、ひしひしと感じる。
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