148 / 283
第3章【一途に想うからこそ】
21罪 人質①
しおりを挟む
石碑の奥の、森の中に見える光りはいったいなんなんだろうか。私はジッと目を凝らしながら見つめたんだけど、暗くてよく見えない。だけど、今しがた感じた揺れが関係していることは流石の私でも理解できた。
ちらりとヴェル君達の方へと視線を向ければ、彼らも揺れと森の中に見える光りを警戒しているようだった。私だけじゃなくて少しだけ安心した。
「今の……何?」
「わからない、が……警戒するに越したことはないだろう」
「そうね、ここは何が起こるかわからないもの」
「みんな、一カ所に集まろう」
ざわざわする感覚を肌で感じ取りながら、私達はヴェル君の支持どおりに一カ所に集まった。背中を合わせるようにして、四方を見れるような状況だ。
卯ノ国の時と違って、ここは私達を擁護してくれる存在はいない。つまるところ、何が起こってもおかしくないんだ。
子ノ国の人達が気付いて私達を襲いに来ても、子ノ国の妖が現れても、おかしくはない。
「子ノ国の石碑で何をしてるのかね?」
お腹に響くような低い声が聞こえ、私達は慌てて視線をそちらに向けた。
壊れた石碑の向こうから現れたのは、燕尾服を着た気だるげな男性だった。
鼠色の髪が彼の顔の片側を隠すように伸びていて、より一層妖しさを感じさせた。だけど、そんな見た目と裏腹に引き裂かれるようなプレッシャーを感じさせる圧力に、私もみんなも動けなくなっていた。
「あーあ。こんなにしちまって……駄目じゃないか…………なあ?」
ぺろりと舌なめずりをすれば、その唇から赤い舌が覗く。
気だるげなのに、そんな彼から感じるものは“恐怖”だ。怖くて、早くここから立ち去りたい気持ちでいっぱいだった。
「貴方、は……いったい誰?」
「おやおや、人に名前を尋ねる時は自分から名乗るのがセオリーだって、習わなかったのか?」
強烈なプレッシャーを感じて、腰を抜かしてしまいそうになる。その場にストンと座り込んでしまいそうになるのを、私は必死に耐えた。
じっとりとした嫌な汗を額と背中に感じながら、相手の出方を待った。下手に動いて不利になるようなことになりたくない。
「私、は……雪……」
ハッ、ハッ、と息が上がる感覚に襲われた。恐怖のせいで呼吸がままならなくなっているのかもしれない。
「我はネヘミヤだ」
そう言いながら両手を順番にスッと持ち上げると、ネヘミヤの両脇にずらっと鼠が姿を現した。
一匹や二匹なんて可愛い数じゃない。ずらっと……密集するように並んでいる鼠は、本当に相当な数がいるようだった。数えるのも面倒くさくなるくらいの数。
「それで、雪とやら」
低かった彼の声が、また低くなった。ビクリと肩を揺らして、私はネヘミヤを真っすぐ見つめた。けれど、たぶん私の視線は動揺して泳いでいたと思う。それくらい、恐怖感がハンパなかった。
白卯の優しさが、どれだけ私達の緊張をほぐしてくれていたのか、ひしひしと感じる。
ちらりとヴェル君達の方へと視線を向ければ、彼らも揺れと森の中に見える光りを警戒しているようだった。私だけじゃなくて少しだけ安心した。
「今の……何?」
「わからない、が……警戒するに越したことはないだろう」
「そうね、ここは何が起こるかわからないもの」
「みんな、一カ所に集まろう」
ざわざわする感覚を肌で感じ取りながら、私達はヴェル君の支持どおりに一カ所に集まった。背中を合わせるようにして、四方を見れるような状況だ。
卯ノ国の時と違って、ここは私達を擁護してくれる存在はいない。つまるところ、何が起こってもおかしくないんだ。
子ノ国の人達が気付いて私達を襲いに来ても、子ノ国の妖が現れても、おかしくはない。
「子ノ国の石碑で何をしてるのかね?」
お腹に響くような低い声が聞こえ、私達は慌てて視線をそちらに向けた。
壊れた石碑の向こうから現れたのは、燕尾服を着た気だるげな男性だった。
鼠色の髪が彼の顔の片側を隠すように伸びていて、より一層妖しさを感じさせた。だけど、そんな見た目と裏腹に引き裂かれるようなプレッシャーを感じさせる圧力に、私もみんなも動けなくなっていた。
「あーあ。こんなにしちまって……駄目じゃないか…………なあ?」
ぺろりと舌なめずりをすれば、その唇から赤い舌が覗く。
気だるげなのに、そんな彼から感じるものは“恐怖”だ。怖くて、早くここから立ち去りたい気持ちでいっぱいだった。
「貴方、は……いったい誰?」
「おやおや、人に名前を尋ねる時は自分から名乗るのがセオリーだって、習わなかったのか?」
強烈なプレッシャーを感じて、腰を抜かしてしまいそうになる。その場にストンと座り込んでしまいそうになるのを、私は必死に耐えた。
じっとりとした嫌な汗を額と背中に感じながら、相手の出方を待った。下手に動いて不利になるようなことになりたくない。
「私、は……雪……」
ハッ、ハッ、と息が上がる感覚に襲われた。恐怖のせいで呼吸がままならなくなっているのかもしれない。
「我はネヘミヤだ」
そう言いながら両手を順番にスッと持ち上げると、ネヘミヤの両脇にずらっと鼠が姿を現した。
一匹や二匹なんて可愛い数じゃない。ずらっと……密集するように並んでいる鼠は、本当に相当な数がいるようだった。数えるのも面倒くさくなるくらいの数。
「それで、雪とやら」
低かった彼の声が、また低くなった。ビクリと肩を揺らして、私はネヘミヤを真っすぐ見つめた。けれど、たぶん私の視線は動揺して泳いでいたと思う。それくらい、恐怖感がハンパなかった。
白卯の優しさが、どれだけ私達の緊張をほぐしてくれていたのか、ひしひしと感じる。
0
お気に入りに追加
33
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
クラスの双子と家族になりました。~俺のタメにハーレム作るとか言ってるんだがどうすればいい?~
いーじーしっくす
恋愛
ハーレムなんて物語の中の事。自分なんかには関係ないと思っていた──。
橋本悠聖は普通のちょっとポジティブな陰キャ。彼女は欲しいけど自ら動くことはなかった。だがある日、一人の美少女からの告白で今まで自分が想定した人生とは大きくかわっていく事になった。 悠聖に告白してきた美少女である【中村雪花】。彼女がした告白は嘘のもので、父親の再婚を止めるために付き合っているフリをしているだけの約束…の、はずだった。だが、だんだん彼に心惹かれて付き合ってるフリだけじゃ我慢できなくなっていく。
互いに近づく二人の心の距離。更には過去に接点のあった雪花の双子の姉である【中村紗雪】の急接近。冷たかったハズの実の妹の【奈々】の危険な誘惑。幼い頃に結婚の約束をした従姉妹でもある【睦月】も強引に迫り、デパートで助けた銀髪の少女【エレナ】までもが好意を示し始める。
そんな彼女達の歪んだ共通点はただ1つ。
手段を問わず彼を幸せにすること。
その為だけに彼女達は周りの事など気にせずに自分の全てをかけてぶつかっていく!
選べなければ全員受け入れちゃえばいいじゃない!
真のハーレムストーリー開幕!
この作品はカクヨム等でも公開しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる