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第3章【一途に想うからこそ】
20罪 在りし日の過去を垣間見よ・2⑩
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「おかあさまは、わたしのおかあさまなんだから、わたしのことを“さま”ってよばなくてもいいのー!」
「ハルナ様はハルナ様です! 確かに私は母親ですが、貴方は神国王の娘なのですよ?」
いわゆる、妾の子……というものだ。
ハルナは神国王が、今ハルナを追いかけているメイドに産ませた庶子だ。
ハルナは母親に“ハルナ様”と呼ばれるのが嫌で、“ハルナ”と呼び捨てにされたくて母親から逃げ回っていた。けれど、母親の身分や立場を考えると母親だとしても神国王の庶子であるハルナを呼び捨てで呼べないのだ。
この頃の神国王はとても怖い人物だった。気に入らないことがあると平気で首をはねる。自分の不利になるような出来事は許せない、そんな人物だった。
「やーだー! おかあさまにはハルナって、よんでほしーの!」
「ハルナ様、お母様に無理を言っては駄目ですよ」
駄々をこねるハルナを後ろから近寄った別のメイドがひょいっと抱き上げた。
そして、あやすように優しくそう声をかけてにっこりと微笑んだ。
「なんでむり、なのー?」
「あまりお母様の言うことを聞かないと、ハルナ様のお母様がお父様から怒られて、痛い痛いされてしまいますよ?」
「それは……いや、なの……」
庶子であるハルナだが、正妃である王妃一派以外からは特段疎まれることもなく、愛されていた。
王妃は現在お腹に神国王の子を身ごもっており、余計に先に生まれているハルナを疎んでいた。だからこそ、このように愛してくれる別派のメイドたちの存在はハルナにとってはよい存在となっていた。
そして、メイドの発言から分かるように、神国王もハルナよりも王妃の身ごもっている子供の方を大切に思っているようで、ハルナは日々窮屈な生活を強いられていた。
「でしたら、お母様の言うことを聞きましょうね?」
「はぁい……」
「ありがとう、リフィル」
「いいのよ、ハドリー」
ハルナを抱き上げていたメイド――リフィルにお礼を告げれば、にっこりと笑顔を返されるハルナの母――ハドリー。
リフィルは抱いていたハルナをハドリーに渡すと、両手を腰に押し当てて大きく息を吐いた。
「ハドリーも大変ね」
「ええ、そうね……だけど、幸せよ、とても」
リフィルを見つめて言葉を肯定したが、すぐにハルナに視線を向けると愛おしそうに瞳を細めて噛みしめる様に呟いた。
確かに、神国王の子を産んだことで一部のメイドからは嫌味を言われたりして辛い時も大変な時もある。
けれど、ハドリーがそれを耐えてここに居続けられる理由は、最愛の愛娘であるハルナのおかげだ。彼女がいるからこそ、ハドリーはこの生活を続けて居られるのだ。
「おかあさま! ハルナもしあわせ!」
「……そう、それは……ふふふ、良かったわ」
ハルナは右手をびしっと真っすぐ伸ばして元気よく告げた。
「ハルナ様はハルナ様です! 確かに私は母親ですが、貴方は神国王の娘なのですよ?」
いわゆる、妾の子……というものだ。
ハルナは神国王が、今ハルナを追いかけているメイドに産ませた庶子だ。
ハルナは母親に“ハルナ様”と呼ばれるのが嫌で、“ハルナ”と呼び捨てにされたくて母親から逃げ回っていた。けれど、母親の身分や立場を考えると母親だとしても神国王の庶子であるハルナを呼び捨てで呼べないのだ。
この頃の神国王はとても怖い人物だった。気に入らないことがあると平気で首をはねる。自分の不利になるような出来事は許せない、そんな人物だった。
「やーだー! おかあさまにはハルナって、よんでほしーの!」
「ハルナ様、お母様に無理を言っては駄目ですよ」
駄々をこねるハルナを後ろから近寄った別のメイドがひょいっと抱き上げた。
そして、あやすように優しくそう声をかけてにっこりと微笑んだ。
「なんでむり、なのー?」
「あまりお母様の言うことを聞かないと、ハルナ様のお母様がお父様から怒られて、痛い痛いされてしまいますよ?」
「それは……いや、なの……」
庶子であるハルナだが、正妃である王妃一派以外からは特段疎まれることもなく、愛されていた。
王妃は現在お腹に神国王の子を身ごもっており、余計に先に生まれているハルナを疎んでいた。だからこそ、このように愛してくれる別派のメイドたちの存在はハルナにとってはよい存在となっていた。
そして、メイドの発言から分かるように、神国王もハルナよりも王妃の身ごもっている子供の方を大切に思っているようで、ハルナは日々窮屈な生活を強いられていた。
「でしたら、お母様の言うことを聞きましょうね?」
「はぁい……」
「ありがとう、リフィル」
「いいのよ、ハドリー」
ハルナを抱き上げていたメイド――リフィルにお礼を告げれば、にっこりと笑顔を返されるハルナの母――ハドリー。
リフィルは抱いていたハルナをハドリーに渡すと、両手を腰に押し当てて大きく息を吐いた。
「ハドリーも大変ね」
「ええ、そうね……だけど、幸せよ、とても」
リフィルを見つめて言葉を肯定したが、すぐにハルナに視線を向けると愛おしそうに瞳を細めて噛みしめる様に呟いた。
確かに、神国王の子を産んだことで一部のメイドからは嫌味を言われたりして辛い時も大変な時もある。
けれど、ハドリーがそれを耐えてここに居続けられる理由は、最愛の愛娘であるハルナのおかげだ。彼女がいるからこそ、ハドリーはこの生活を続けて居られるのだ。
「おかあさま! ハルナもしあわせ!」
「……そう、それは……ふふふ、良かったわ」
ハルナは右手をびしっと真っすぐ伸ばして元気よく告げた。
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