上 下
126 / 283
第3章【一途に想うからこそ】

19罪 引っかかる思いと信じたい気持ち⑦

しおりを挟む
(そんな思いを、真兄に聞かせるわけにはいかないよ……)

 私の心の闇の部分だ。これを私は人に見せようと思ったことはない。全部、全部、心の中に押しとどめて、隠して、蓋をして、闇に葬り去ろうとしていた部分だ。

「分かった。無理には聞かない。だが……」

 私から視線をそらして、真兄は先を歩くヴェル君と静のあとをゆっくりとした足取りで追うように歩きながら。

「大丈夫じゃないなら大丈夫じゃないって言っていいんだ。無理しなくていいんだ」
「……うん、ありがとう」

 小さく真兄にお礼を口にすると、私は彼の隣に並んで同じペースで歩みをすすめた。ヴェル君と静のあとを追いながらも決して距離を縮めることなく、一定の距離を開けていた。
 無言でただひたすら子ノ国を目指しながら歩いていると、先ほど浮かんだ私の闇の部分を思い出してしまう。
 当時は何とも思っていなかった……むしろ、静が私のためを思ってやってくれていたと思っていた事が、いま思うとなんだかおかしいような気がした。

* * *

「雪ちゃん、どうしたの?」
「うん……実はね、好きな人が出来たの」
「え、そうなの!? おめでとう、雪ちゃん!」
「もう、静は気が早いよ! 付き合ってるわけじゃないんだから……」

 そんなやり取りを過去していたことを、思い出していた。
 雪は頬を赤く染め上げ、照れながらも親友で幼馴染の静にカミングアウトした。

「今度ね、遊びに行こうって誘われたんだ」
「そうなの? えぇー、凄くいいじゃない」

 嬉しそうに笑う雪の言葉に、静は羨ましそうに声を上げた。別に、静自身は男にモテるから雪を羨ましがらなくとも男は星の数だけ居る。

「どんな人なの?」

 写真はないの? と私の顔をジッと見つめてくる静に、雪はおずおずと携帯を取り出した。
 写真フォルダをあさり彼の写真を見つけると、画面いっぱいに表示させて恥ずかしそうにそれを静に見せた。
 黒髪の毛先を少しワックスで遊ばせていて、健康的に焼けた肌、キリっとした黒い瞳、そして人懐っこそうに浮かべる笑顔。そんな男性だった。

「人懐っこそうね」
「うん、結構気さくで、優しいんだ」

 携帯の画面をまじまじと見つめながら静は雪の言葉に「ふーん」と短く返す。けれど、視線は携帯の画面から一切外さず、右手の人差し指を唇の下に添えると。

「私も会ってみたいわ」
「え?」
「だって、雪ちゃんったら天然で、変な男に引っかかりそうで心配なんだもの。大丈夫な人か、私が見極めてあげないと」
「静、心配しすぎだよ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

【R18】黒髪メガネのサラリーマンに監禁された話。

猫足02
恋愛
ある日、大学の帰り道に誘拐された美琴は、そのまま犯人のマンションに監禁されてしまう。 『ずっと君を見てたんだ。君だけを愛してる』 一度コンビニで見かけただけの、端正な顔立ちの男。一見犯罪とは無縁そうな彼は、狂っていた。

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

先生!放課後の隣の教室から女子の喘ぎ声が聴こえました…

ヘロディア
恋愛
居残りを余儀なくされた高校生の主人公。 しかし、隣の部屋からかすかに女子の喘ぎ声が聴こえてくるのであった。 気になって覗いてみた主人公は、衝撃的な光景を目の当たりにする…

これ以上ヤったら●っちゃう!

ヘロディア
恋愛
彼氏が変態である主人公。 いつも自分の部屋に呼んで戯れていたが、とうとう彼の部屋に呼ばれてしまい…

隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました

ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら…… という、とんでもないお話を書きました。 ぜひ読んでください。

お嬢様、お仕置の時間です。

moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。 両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。 私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。 私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。 両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。 新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。 私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。 海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。 しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。 海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。 しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。

知らない間に致されてたお話

下菊みこと
恋愛
好きな人に無理矢理されてたお話。睡姦。 安定のヤンデレ、無理矢理。 書きたいところだけ書いたSS。 ムーンライトノベルズ様でも投稿しています。

処理中です...