上 下
125 / 283
第3章【一途に想うからこそ】

19罪 引っかかる思いと信じたい気持ち⑥

しおりを挟む
 その表情に、その行動に、私は目頭が熱くなる感覚を受けてじわりと鼻が熱くなった。

「それは雪のいいところで、同時に危ういところでもある」
「……真兄?」
「他人を思うあまり、自分をないがしろにするな」

 どくん、と心臓が高鳴った気がした。私自身、自分をないがしろにしていた気は全くなかった。でも、第三者から見ればそう見えるのかもしれないという事実を今知った。

「祝福出来ること、他人を思いやれることはいいことだが、だからってそれは雪自身が“大丈夫なこと”とは違うぞ」
「――――思いやることと私が大丈夫なことは、別……?」

 私の行動基準は“他人”だった。誰かが喜んでくれるから、誰かが辛そうだから……だから行動してきた。喜んでくれることを、感謝されることを、人のために行ってきた。自分のことなんて二の次だった。私の気持ちなんて無視してきた。
 だって、私の存在意義は“他人のため”だから。
 私の言葉で喜んでくれるのが嬉しかった。他人のことを思って起こした行動で喜んでくれるのが、感謝されるのが嬉しかった。
 どんなに辛くても、どんなに悲しくても、私がどんな気持ちを抱えていたとしても、それを我慢して蓋をしてなかったことにしてしまえば、私は他人のことを思いやれる“優しい人間”に、そして“人に好かれる人間”になる事が出来る。
 ハブられるのはもう嫌だったから、嫌われたくなかったから、好かれたかったから、だからそうした。そうするしかなかった。

「他人からどう思われるかは……どう思われたいか、どう見られたいかは置いといて、雪の本心はどうなんだ?」

 そう問われてしまえば、私は口ごもってしまう。
 優しい人間、人に好かれるいい人間になりたいという思いを置いておいて、私の気持ちはどうなのか? 本心はどこにあるのか?

(そんなの……)

 こんな思いを言ってしまって嫌われないか、ハブられないか、離れられてしまわないか、それが不安で怖くて、私は声が喉に張り付いてしまったみたいに何も言葉を発せられなかった。
 目の前で私の本音を引き出そうとしてくれている真兄は、静の事を好いている人だ。そんな彼に、私の本心を告げてしまっていいのか疑問でもあった。
 少なからず私の本音は静の事を悪く言うものでもある。そんな本音を真兄に話していいものだろうか。

「…………俺には言えない、か?」
「……ごめん、なさい。私……」

 好きだと知っていたのにどうして奪うようなことをしたの?
 どうして協力するなんて言ったの?
 好きになったなら正直に言ってほしかった。
 隠れて付き合うようなことをしないでほしかった。
 協力するなんて嘘をどうして吐いたの?
 あの時、ヴェル君の口から事実を聞きたくなかったのに……そう言ったのに、どうして無理矢理聞かせようとしたの?
 真兄の事が好きだったんじゃないの?
 なんでヴェル君なの?
 わざとなの?
 私からすべてを奪うの?
 なんでいつも――――……私が誰かを好きになると、邪魔をするの?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

【R18】黒髪メガネのサラリーマンに監禁された話。

猫足02
恋愛
ある日、大学の帰り道に誘拐された美琴は、そのまま犯人のマンションに監禁されてしまう。 『ずっと君を見てたんだ。君だけを愛してる』 一度コンビニで見かけただけの、端正な顔立ちの男。一見犯罪とは無縁そうな彼は、狂っていた。

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

先生!放課後の隣の教室から女子の喘ぎ声が聴こえました…

ヘロディア
恋愛
居残りを余儀なくされた高校生の主人公。 しかし、隣の部屋からかすかに女子の喘ぎ声が聴こえてくるのであった。 気になって覗いてみた主人公は、衝撃的な光景を目の当たりにする…

隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました

ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら…… という、とんでもないお話を書きました。 ぜひ読んでください。

これ以上ヤったら●っちゃう!

ヘロディア
恋愛
彼氏が変態である主人公。 いつも自分の部屋に呼んで戯れていたが、とうとう彼の部屋に呼ばれてしまい…

お嬢様、お仕置の時間です。

moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。 両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。 私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。 私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。 両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。 新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。 私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。 海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。 しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。 海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。 しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。

【R18】幼馴染の男3人にノリで乳首当てゲームされて思わず感じてしまい、次々と告白されて予想外の展開に…【短縮版】

うすい
恋愛
【ストーリー】 幼馴染の男3人と久しぶりに飲みに集まったななか。自分だけ異性であることを意識しないくらい仲がよく、久しぶりに4人で集まれたことを嬉しく思っていた。 そんな中、幼馴染のうちの1人が乳首当てゲームにハマっていると言い出し、ななか以外の3人が実際にゲームをして盛り上がる。 3人のやり取りを微笑ましく眺めるななかだったが、自分も参加させられ、思わず感じてしまい―――。 さらにその後、幼馴染たちから次々と衝撃の事実を伝えられ、事態は思わぬ方向に発展していく。 【登場人物】 ・ななか 広告マーケターとして働く新社会人。純粋で素直だが流されやすい。大学時代に一度だけ彼氏がいたが、身体の相性が微妙で別れた。 ・かつや 不動産の営業マンとして働く新社会人。社交的な性格で男女問わず友達が多い。ななかと同じ大学出身。 ・よしひこ 飲食店経営者。クールで口数が少ない。頭も顔も要領もいいため学生時代はモテた。短期留学経験者。 ・しんじ 工場勤務の社会人。控えめな性格だがしっかり者。みんなよりも社会人歴が長い。最近同棲中の彼女と別れた。 【注意】 ※一度全作品を削除されてしまったため、本番シーンはカットしての投稿となります。 そのため読みにくい点や把握しにくい点が多いかと思いますがご了承ください。 フルバージョンはpixivやFantiaで配信させていただいております。 ※男数人で女を取り合うなど、くっさい乙女ゲーム感満載です。 ※フィクションとしてお楽しみいただきますようお願い申し上げます。

処理中です...