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第3章【一途に想うからこそ】
19罪 引っかかる思いと信じたい気持ち⑤
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それは私の素直な感想だった。
私も真兄も、好きな相手に振り向いてもらえず、だけど好きでいることをやめることも嫌いになることも出来ずにいる。好きでい続けることは、思った以上に心がすり減ってしまいそうなくらい辛い。
思い続けながらも、好きな相手が別の人と一緒にいるのを何も言わずに見つめ続けられる真兄は、本当に強いと思う。
私はすぐに悲しくなっちゃうし、辛くて弱音を吐きたくなってしまう。未練たらしくすがってしまいたくなる。それを、私は隠すことが出来ない。
「雪こそ、我慢し過ぎるなよ?」
「大丈夫、だよ?」
「大丈夫じゃなさそうだから言ってるんだ」
静はもちろんだけど、真兄にまでバレバレなのが少しだけショックだった。せめて真兄にだけはバレたくなかった。
私が周りに見せたいのは、ヴェル君と静を祝福している姿、そして静を思っている真兄を心配している姿だ。
私がヴェル君を好いていて、静に密かに嫉妬しているところや辛い思いや苦しい気持ちを心に隠し持っていることは誰にも知られたくない事だった。
「大丈夫じゃなさそうでも、大丈夫にするしかないよ……」
ぽつりと、私の本音が口をついて出た。私の気持ちを理解してくれて、分かってくれている真兄だったからこそ本音がポロリしたのかもしれない。
この時、私は静とヴェル君が付き合っているという事実を真兄が知らないという事をすっかり忘れていた。念頭から抜け落ちていたのだ。
「好きな人が別の人を好いて付き合っているのを見て、大丈夫でいられるわけないよ。だけど、好きだからこそ……祝福したいじゃん。好きな人の幸せを喜べない嫌な女にはなりたくないもん…………」
好きな人の一番になりたかったという気持ちを持っていたとしても、妬み、嫉み、喜んであげられないような人間にはなりたくないというのが本音だ。だからこそ、大丈夫じゃなくても大丈夫を装いたい。
大丈夫だと装うことで自分の気持ちにも嘘をついて、それを本当にして、そしたらもしかしたら本当に大丈夫になるかもしれないじゃん。そうなったとしたら、みんなで万々歳だ。
「ヴェルと……静が付き合っているのを祝福してあげたいと思えることは、雪のいいところだ」
「――――ぁ」
そこで、ようやく私は真兄が静とヴェル君が付き合っているという事を知らなかったという事を思い出した。
私の余計な本音のせいで、真兄にいらぬ真実を告げてしまったという事に気付いた瞬間、間の抜けたような声が漏れた。
やってしまった……と後悔しても遅いのは分かってはいるものの、取り繕うような言葉は何も出てこない。
「大丈夫だ、雪」
「……え?」
「…………知らないと思って、ずっと隠してくれていたんだろう?」
「……真、兄?」
「静とヴェルが付き合っているという事は、知っていた」
言葉が何も出てこなかった。隠しておきたかった事実を、真兄はすでに知っていた? その事実に私の思考は停止した。
何か言いたいのに、頭が働いてくれなくて口が縫い付けられたように動かない。
「俺のことを思って黙ってくれようとしていたんだな」
そう言って真兄は私の頭を優しく撫でると、今度は優しく瞳を細めて真正面から見つめてきた。
私も真兄も、好きな相手に振り向いてもらえず、だけど好きでいることをやめることも嫌いになることも出来ずにいる。好きでい続けることは、思った以上に心がすり減ってしまいそうなくらい辛い。
思い続けながらも、好きな相手が別の人と一緒にいるのを何も言わずに見つめ続けられる真兄は、本当に強いと思う。
私はすぐに悲しくなっちゃうし、辛くて弱音を吐きたくなってしまう。未練たらしくすがってしまいたくなる。それを、私は隠すことが出来ない。
「雪こそ、我慢し過ぎるなよ?」
「大丈夫、だよ?」
「大丈夫じゃなさそうだから言ってるんだ」
静はもちろんだけど、真兄にまでバレバレなのが少しだけショックだった。せめて真兄にだけはバレたくなかった。
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私がヴェル君を好いていて、静に密かに嫉妬しているところや辛い思いや苦しい気持ちを心に隠し持っていることは誰にも知られたくない事だった。
「大丈夫じゃなさそうでも、大丈夫にするしかないよ……」
ぽつりと、私の本音が口をついて出た。私の気持ちを理解してくれて、分かってくれている真兄だったからこそ本音がポロリしたのかもしれない。
この時、私は静とヴェル君が付き合っているという事実を真兄が知らないという事をすっかり忘れていた。念頭から抜け落ちていたのだ。
「好きな人が別の人を好いて付き合っているのを見て、大丈夫でいられるわけないよ。だけど、好きだからこそ……祝福したいじゃん。好きな人の幸せを喜べない嫌な女にはなりたくないもん…………」
好きな人の一番になりたかったという気持ちを持っていたとしても、妬み、嫉み、喜んであげられないような人間にはなりたくないというのが本音だ。だからこそ、大丈夫じゃなくても大丈夫を装いたい。
大丈夫だと装うことで自分の気持ちにも嘘をついて、それを本当にして、そしたらもしかしたら本当に大丈夫になるかもしれないじゃん。そうなったとしたら、みんなで万々歳だ。
「ヴェルと……静が付き合っているのを祝福してあげたいと思えることは、雪のいいところだ」
「――――ぁ」
そこで、ようやく私は真兄が静とヴェル君が付き合っているという事を知らなかったという事を思い出した。
私の余計な本音のせいで、真兄にいらぬ真実を告げてしまったという事に気付いた瞬間、間の抜けたような声が漏れた。
やってしまった……と後悔しても遅いのは分かってはいるものの、取り繕うような言葉は何も出てこない。
「大丈夫だ、雪」
「……え?」
「…………知らないと思って、ずっと隠してくれていたんだろう?」
「……真、兄?」
「静とヴェルが付き合っているという事は、知っていた」
言葉が何も出てこなかった。隠しておきたかった事実を、真兄はすでに知っていた? その事実に私の思考は停止した。
何か言いたいのに、頭が働いてくれなくて口が縫い付けられたように動かない。
「俺のことを思って黙ってくれようとしていたんだな」
そう言って真兄は私の頭を優しく撫でると、今度は優しく瞳を細めて真正面から見つめてきた。
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