異世界召喚されたら好きな人を親友に寝盗られた~七つの大罪(グリモワール)の一人だった私は、記憶を取り戻しながら好きな人も取り戻す!~

卯月えり

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第3章【一途に想うからこそ】

19罪 引っかかる思いと信じたい気持ち②

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(血じゃ…………な、い……)

 無色透明なソレは汗だと認識できた私はホッと胸を撫で下ろし、その安堵感でぶわっと瞳から涙が滲み出た。
 今のが夢だった、と今ここで初めて気づくことが出来た。気持ち悪くて、怖くて、トラウマになってしまいそうな悪夢。
 昨日あった出来事は夢じゃないのは分かっているが、あの夢の内容が夢であったのは心底良かったと思った。あんな風に死んだ人達に責められ続けるなんて、普通はありえないが。

(……あ、そっか。防音魔法のおかげで、みんなに気付かれてないんだ……)

 先ほど大きな悲鳴を上げてしまったという事を思い出して慌ててテントの出入り口を見たが、誰かが私の悲鳴を聞いて駆けつけてきたという事実はなく、そこでようやく防音魔法の存在を思い出した。
 外と中からの音を遮ってくれる魔法は、こういう悪夢で上げてしまった悲鳴すらもかき消してくれる。みんなに変な心配をかけたくなかった私は、少しだけ寂しさを感じながらもホッとしていた。

(みんな、起きてるかな?)

 もそもそと立ち上がり、いつも着ている制服に袖を通してパンパンとスカートの埃をはたき落とす。そんな事をしなくても生活魔法のおかげで綺麗なのは理解しているけれど、なんとなくしたくなってしまうのはテントの中で籠などにも入れずに制服を直置きしているせいだろう。
 手櫛で髪を整えてから大きく深呼吸を数回繰り返し、早まっていた心臓の鼓動を落ち着かせると私はテントの出入り口に手をかけた。くぐるようにしてテントから出ると、外にはもう三人の姿があった。火を囲むようにして座り込む後ろ姿を確認してから私は彼らに近寄って行った。

「おはよう、みんな」
「おはよう、雪ちゃん」
「おはよう、雪」
「雪ちゃん、おはよう。その……大丈夫かしら?」

 私の声が会話中のみんなの耳に届いたのか全員パッと私の方を振り返ると、いつもと変わらない笑顔を浮かべて挨拶を返してくれた。
 心配そうに私を上目づかいで見つめる静を私は見下ろした状態で見つめ返し、にっこりと微笑むだけだった。大丈夫かと聞かれたら、あんな夢を見てしまったのだからきっと大丈夫ではないのだろう。けれど、はっきりと静に“駄目です”なんて答えるわけにもいかず、まるではぐらかすように笑うしかなかった。

「子ノ国までは、やっぱりまだかかりそう?」
「あ、そう……だね。順調に進めてるし、今の感じなら明後日には子ノ国に入れるんじゃないかな?」
「そうなんだ! よかった、もうすぐだね!」

 七日ほどで子ノ国に着くだろうとヴェル君が以前言っていたように、確かにそれくらいの日数で辿り着くようだった。ちょっとしたアクシデントはあったものの、順調に旅路は進めていたようで胸を撫で下ろした。
 明後日か明々後日しあさってには石碑を見つけて前世の記憶を見ることが出来るのだろう。いったいどんな過去が待ち受けているのかは分からない。前回がよくわからない中途半端な感じだったからこそ、予測がつかないのだ。

(早く力を手に入れたい……自分の身は自分で守れるくらいにはならないと……)

 また皆に迷惑をかけてしまうかもしれない事が、私は何より怖かった。
 それならば、前世を思い出して七つの大罪グリモワールとしての力を取り戻して戦えるようになりたいと思った。自分の身は自分で守れるように、あわよくば誰かのことも守れるくらいには強くなりたいと、そう思った。もちろん、心も強くなりたいとは思うけれども。
 私はそんな事を考えながら、静の隣に腰かけた。ヴェル君が作ってくれていたのかスープがたき火の近くで温められていて、ヴェル君がそれを少し深めの木の器によそって手渡してくれた。
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