121 / 283
第3章【一途に想うからこそ】
19罪 引っかかる思いと信じたい気持ち②
しおりを挟む
(血じゃ…………な、い……)
無色透明なソレは汗だと認識できた私はホッと胸を撫で下ろし、その安堵感でぶわっと瞳から涙が滲み出た。
今のが夢だった、と今ここで初めて気づくことが出来た。気持ち悪くて、怖くて、トラウマになってしまいそうな悪夢。
昨日あった出来事は夢じゃないのは分かっているが、あの夢の内容が夢であったのは心底良かったと思った。あんな風に死んだ人達に責められ続けるなんて、普通はありえないが。
(……あ、そっか。防音魔法のおかげで、みんなに気付かれてないんだ……)
先ほど大きな悲鳴を上げてしまったという事を思い出して慌ててテントの出入り口を見たが、誰かが私の悲鳴を聞いて駆けつけてきたという事実はなく、そこでようやく防音魔法の存在を思い出した。
外と中からの音を遮ってくれる魔法は、こういう悪夢で上げてしまった悲鳴すらもかき消してくれる。みんなに変な心配をかけたくなかった私は、少しだけ寂しさを感じながらもホッとしていた。
(みんな、起きてるかな?)
もそもそと立ち上がり、いつも着ている制服に袖を通してパンパンとスカートの埃をはたき落とす。そんな事をしなくても生活魔法のおかげで綺麗なのは理解しているけれど、なんとなくしたくなってしまうのはテントの中で籠などにも入れずに制服を直置きしているせいだろう。
手櫛で髪を整えてから大きく深呼吸を数回繰り返し、早まっていた心臓の鼓動を落ち着かせると私はテントの出入り口に手をかけた。くぐるようにしてテントから出ると、外にはもう三人の姿があった。火を囲むようにして座り込む後ろ姿を確認してから私は彼らに近寄って行った。
「おはよう、みんな」
「おはよう、雪ちゃん」
「おはよう、雪」
「雪ちゃん、おはよう。その……大丈夫かしら?」
私の声が会話中のみんなの耳に届いたのか全員パッと私の方を振り返ると、いつもと変わらない笑顔を浮かべて挨拶を返してくれた。
心配そうに私を上目づかいで見つめる静を私は見下ろした状態で見つめ返し、にっこりと微笑むだけだった。大丈夫かと聞かれたら、あんな夢を見てしまったのだからきっと大丈夫ではないのだろう。けれど、はっきりと静に“駄目です”なんて答えるわけにもいかず、まるではぐらかすように笑うしかなかった。
「子ノ国までは、やっぱりまだかかりそう?」
「あ、そう……だね。順調に進めてるし、今の感じなら明後日には子ノ国に入れるんじゃないかな?」
「そうなんだ! よかった、もうすぐだね!」
七日ほどで子ノ国に着くだろうとヴェル君が以前言っていたように、確かにそれくらいの日数で辿り着くようだった。ちょっとしたアクシデントはあったものの、順調に旅路は進めていたようで胸を撫で下ろした。
明後日か明々後日には石碑を見つけて前世の記憶を見ることが出来るのだろう。いったいどんな過去が待ち受けているのかは分からない。前回がよくわからない中途半端な感じだったからこそ、予測がつかないのだ。
(早く力を手に入れたい……自分の身は自分で守れるくらいにはならないと……)
また皆に迷惑をかけてしまうかもしれない事が、私は何より怖かった。
それならば、前世を思い出して七つの大罪としての力を取り戻して戦えるようになりたいと思った。自分の身は自分で守れるように、あわよくば誰かのことも守れるくらいには強くなりたいと、そう思った。もちろん、心も強くなりたいとは思うけれども。
私はそんな事を考えながら、静の隣に腰かけた。ヴェル君が作ってくれていたのかスープがたき火の近くで温められていて、ヴェル君がそれを少し深めの木の器によそって手渡してくれた。
無色透明なソレは汗だと認識できた私はホッと胸を撫で下ろし、その安堵感でぶわっと瞳から涙が滲み出た。
今のが夢だった、と今ここで初めて気づくことが出来た。気持ち悪くて、怖くて、トラウマになってしまいそうな悪夢。
昨日あった出来事は夢じゃないのは分かっているが、あの夢の内容が夢であったのは心底良かったと思った。あんな風に死んだ人達に責められ続けるなんて、普通はありえないが。
(……あ、そっか。防音魔法のおかげで、みんなに気付かれてないんだ……)
先ほど大きな悲鳴を上げてしまったという事を思い出して慌ててテントの出入り口を見たが、誰かが私の悲鳴を聞いて駆けつけてきたという事実はなく、そこでようやく防音魔法の存在を思い出した。
外と中からの音を遮ってくれる魔法は、こういう悪夢で上げてしまった悲鳴すらもかき消してくれる。みんなに変な心配をかけたくなかった私は、少しだけ寂しさを感じながらもホッとしていた。
(みんな、起きてるかな?)
もそもそと立ち上がり、いつも着ている制服に袖を通してパンパンとスカートの埃をはたき落とす。そんな事をしなくても生活魔法のおかげで綺麗なのは理解しているけれど、なんとなくしたくなってしまうのはテントの中で籠などにも入れずに制服を直置きしているせいだろう。
手櫛で髪を整えてから大きく深呼吸を数回繰り返し、早まっていた心臓の鼓動を落ち着かせると私はテントの出入り口に手をかけた。くぐるようにしてテントから出ると、外にはもう三人の姿があった。火を囲むようにして座り込む後ろ姿を確認してから私は彼らに近寄って行った。
「おはよう、みんな」
「おはよう、雪ちゃん」
「おはよう、雪」
「雪ちゃん、おはよう。その……大丈夫かしら?」
私の声が会話中のみんなの耳に届いたのか全員パッと私の方を振り返ると、いつもと変わらない笑顔を浮かべて挨拶を返してくれた。
心配そうに私を上目づかいで見つめる静を私は見下ろした状態で見つめ返し、にっこりと微笑むだけだった。大丈夫かと聞かれたら、あんな夢を見てしまったのだからきっと大丈夫ではないのだろう。けれど、はっきりと静に“駄目です”なんて答えるわけにもいかず、まるではぐらかすように笑うしかなかった。
「子ノ国までは、やっぱりまだかかりそう?」
「あ、そう……だね。順調に進めてるし、今の感じなら明後日には子ノ国に入れるんじゃないかな?」
「そうなんだ! よかった、もうすぐだね!」
七日ほどで子ノ国に着くだろうとヴェル君が以前言っていたように、確かにそれくらいの日数で辿り着くようだった。ちょっとしたアクシデントはあったものの、順調に旅路は進めていたようで胸を撫で下ろした。
明後日か明々後日には石碑を見つけて前世の記憶を見ることが出来るのだろう。いったいどんな過去が待ち受けているのかは分からない。前回がよくわからない中途半端な感じだったからこそ、予測がつかないのだ。
(早く力を手に入れたい……自分の身は自分で守れるくらいにはならないと……)
また皆に迷惑をかけてしまうかもしれない事が、私は何より怖かった。
それならば、前世を思い出して七つの大罪としての力を取り戻して戦えるようになりたいと思った。自分の身は自分で守れるように、あわよくば誰かのことも守れるくらいには強くなりたいと、そう思った。もちろん、心も強くなりたいとは思うけれども。
私はそんな事を考えながら、静の隣に腰かけた。ヴェル君が作ってくれていたのかスープがたき火の近くで温められていて、ヴェル君がそれを少し深めの木の器によそって手渡してくれた。
0
お気に入りに追加
32
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
手が届かないはずの高嶺の花が幼馴染の俺にだけベタベタしてきて、あと少しで我慢も限界かもしれない
みずがめ
恋愛
宮坂葵は可愛くて気立てが良くて社長令嬢で……あと俺の幼馴染だ。
葵は学内でも屈指の人気を誇る女子。けれど彼女に告白をする男子は数える程度しかいなかった。
なぜか? 彼女が高嶺の花すぎたからである。
その美貌と肩書に誰もが気後れしてしまう。葵に告白する数少ない勇者も、ことごとく散っていった。
そんな誰もが憧れる美少女は、今日も俺と二人きりで無防備な姿をさらしていた。
幼馴染だからって、とっくに体つきは大人へと成長しているのだ。彼女がいつまでも子供気分で困っているのは俺ばかりだった。いつかはわからせなければならないだろう。
……本当にわからせられるのは俺の方だということを、この時点ではまだわかっちゃいなかったのだ。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
淡泊早漏王子と嫁き遅れ姫
梅乃なごみ
恋愛
小国の姫・リリィは婚約者の王子が超淡泊で早漏であることに悩んでいた。
それは好きでもない自分を義務感から抱いているからだと気付いたリリィは『超強力な精力剤』を王子に飲ませることに。
飲ませることには成功したものの、思っていたより効果がでてしまって……!?
※この作品は『すなもり共通プロット企画』参加作品であり、提供されたプロットで創作した作品です。
★他サイトからの転載てす★
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました
市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。
私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?!
しかも婚約者達との関係も最悪で……
まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる