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第3章【一途に想うからこそ】

18罪 ハジメテ⑪

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「……ねぇ、ヴェルくん」
「ん? なに?」
「――――雪ちゃんがこうなったからって、私じゃなくて雪ちゃんの方に行ったりしないわよね?」

 静の発言に、ヴェルは一瞬思考が停止したように口を開けたまま固まっていた。
 それは、静の発言が信じられなかったからだ。なぜ、今そんな事を気にするのかヴェルには理解に苦しんだ。
 今一番辛いのは犯された雪本人のはずなのに。

「……は? 静ちゃん、なに……言ってんの?」
「なに言ってんの、じゃないわ。心配なのよ、ヴェルくんが雪ちゃんの方にいってしまうんじゃないかって」
「……言わなくても分かってるだろ?」
「なにを?」
「なにをって……」

 まるで言葉にしてほしいと言わんばかりに、核心に自ら触れようとしない静にヴェルは肩をすくめてため息を吐いた。
 本当だったらヴェルは雪のもとに駆けていきたかった。一番大切に思っていて、一番慈しみ愛したいのは他ならぬ雪だ。けれど、それを静は許してくれない。雪のもとへ向かえば、きっと静は雪を“本当の意味”で裏切るはずだ。

「俺が本当に好きなのは雪ちゃんだ」
「そうね」
「俺が大切にしたいのも雪ちゃんだ」
「知ってるわ」
「……傷ついてる雪ちゃんのもとに行きたいと言ったら?」
「…………」

 まっすぐにヴェルを見つめる静は一切なにも返事を返さなかったけれど、向ける視線は鋭く細められ、まるでそんな事は許さないと言わんばかりだった。
 雪のもとへ駆けつけ、雪を慰めて本当の気持ちを伝えたいと思っているヴェルの気持ちを、言葉なく視線だけでとどめさせる静。ヴェルは少しの間、真正面から静の視線を受け止めるがすぐにため息を吐いて視線を逸らした。

「分かってる。どうせ、雪ちゃんを選んだら裏切るって言うんでしょ?」
「あら、分かってるのなら何故わざわざあんなことを言ったのかしら? 私を傷つけたいのかしら?」

 にっこりと微笑んではいるものの、静の目はまったくもって笑っていなかった。
 “笑顔”というものを顔に張り付けているだけの表情に、ヴェルはぞくりとした物を感じた。ある種の狂気とも言えるのではないだろうか。

(結局、静ちゃんは雪ちゃんを心配しているようでしていない……のか?)

 そんな静の反応を見て、ヴェルはふとそんな事を考えてしまった。
 言葉では雪の事を心配している風を装っているが、結局のところ静が一番心配しているのは雪を裏切り自分のもとに縛り付けているヴェルが離れていかないかという事だ。
 雪が静を大切に思っているのとは裏腹に、静はそこまで雪の事を大切に思っていないんじゃないかとも思えて、ヴェルは雪のために静を引き留め続けるために静の言う事を聞き続けている現状に少しばかり疑問を抱いた。
 雪の事を思えば、一時は悲しみを背負い辛く苦しい瞬間があったとしても、静と引き離した方がいいのではないかと思える。最終的には静と引き離した方が雪のためになるのではないかと。
 そう思っても行動にうつせないのは、結局のところ悲しむ雪の姿を見たくないというヴェルのわがままな気持ちがあるからだろう。
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