114 / 283
第3章【一途に想うからこそ】
18罪 ハジメテ⑨
しおりを挟む
「でもっ!」
「そんなに気にし過ぎないで? 私が静を助けたくてしたことなんだから。それに、静だって皆を呼んできてくれて、私を助けてくれたじゃん」
「だけど……」
「静のおかげで、私は助けられたんだよ?」
「……っ」
そんなふうに優しく言っても、静はおそらくしばらくは自分を責め続けるんじゃないかなと思った。自分のせいだと思っている人間にどれだけ“そんな事はない”と言っても、ぬぐいきれるものじゃない。
「静、ありがとう」
「……雪、ちゃっ」
声を詰まらせたように静は言葉を止め、私の肩に顔をうずめるとすりすりと顔を擦り付けてきた。
そんな静の背中を、私は無言でポンポンと叩くように撫でて、彼女が落ち着くのを待つのだった。
当初、人が目の前で死んで感じていた吐き気は、いつの間にか消え去っていた。
* * *
あれから、落ち着いた静は恥ずかしそうに視線を逸らして私から身を離した。
そして、今はゆっくりと体を休めようという事となり、バタバタと自分たちのテントを張った場所へ戻り、それぞれのテントへと入った。
ずっしりと体の重さを感じ、どれだけ体が疲れているかが分かった。横になれば体が沈んでいくような感覚に陥り、そのまま意識は闇の中へと落ちていった。
* * *
「……雪ちゃん、大丈夫かな」
ヴェルは自身のテントに広げた寝袋に横になりながら物思いにふけった。あんな怖い思いをさせたのだから、心配にならないわけがないのだ。
ヴェルは頭の下で腕を組みながらテントの天井を見つめた。
(怖かった……よな。でも、静ちゃんが呼びに来てくれたおかげで雪ちゃんを助けに行けたのは良かった)
恐怖で腰が抜けて、その場から逃げ出すことが出来なくても可笑しくはなかったのだ。ヴェルは少しだけ静を見直していた。
なんだかんだ言って、静もやっぱり雪を大切にしていたんだという事がよくわかり、ヴェルはホッと胸を撫で下ろしていた。
確かに彼女は言葉では雪を大切に思っていると何度も言っていたが、その行動を鑑みるととてもそうは思えなかった。だからこそ、今回の静の行動は本当に雪を大切に思っていたんだという確認が行えたようなものだ。
「……ヴェルくん? 少し……いいかしら」
「……静ちゃん?」
テントの外からかかった声に、ヴェルは少し戸惑いながらも言葉を返した。自分が雪を心配しているように、静も雪が心配で、だけど雪の元に行くことは出来ず自分の元に来たのかもしれないとヴェルは少し考えた。
「……入っても、いい?」
「あ、うん……いい、よ」
(本当は、あんまり入ってきてほしくはないけど……)
本心は隠した状態で、ヴェルは静を招き入れた。テントの中に姿を現した静は、疲れ切ったような表情を浮かべていた。そして、心配そうに両手をぎゅっと胸の前で握りしめて、眉をハの字に下げていた。
「そんなに気にし過ぎないで? 私が静を助けたくてしたことなんだから。それに、静だって皆を呼んできてくれて、私を助けてくれたじゃん」
「だけど……」
「静のおかげで、私は助けられたんだよ?」
「……っ」
そんなふうに優しく言っても、静はおそらくしばらくは自分を責め続けるんじゃないかなと思った。自分のせいだと思っている人間にどれだけ“そんな事はない”と言っても、ぬぐいきれるものじゃない。
「静、ありがとう」
「……雪、ちゃっ」
声を詰まらせたように静は言葉を止め、私の肩に顔をうずめるとすりすりと顔を擦り付けてきた。
そんな静の背中を、私は無言でポンポンと叩くように撫でて、彼女が落ち着くのを待つのだった。
当初、人が目の前で死んで感じていた吐き気は、いつの間にか消え去っていた。
* * *
あれから、落ち着いた静は恥ずかしそうに視線を逸らして私から身を離した。
そして、今はゆっくりと体を休めようという事となり、バタバタと自分たちのテントを張った場所へ戻り、それぞれのテントへと入った。
ずっしりと体の重さを感じ、どれだけ体が疲れているかが分かった。横になれば体が沈んでいくような感覚に陥り、そのまま意識は闇の中へと落ちていった。
* * *
「……雪ちゃん、大丈夫かな」
ヴェルは自身のテントに広げた寝袋に横になりながら物思いにふけった。あんな怖い思いをさせたのだから、心配にならないわけがないのだ。
ヴェルは頭の下で腕を組みながらテントの天井を見つめた。
(怖かった……よな。でも、静ちゃんが呼びに来てくれたおかげで雪ちゃんを助けに行けたのは良かった)
恐怖で腰が抜けて、その場から逃げ出すことが出来なくても可笑しくはなかったのだ。ヴェルは少しだけ静を見直していた。
なんだかんだ言って、静もやっぱり雪を大切にしていたんだという事がよくわかり、ヴェルはホッと胸を撫で下ろしていた。
確かに彼女は言葉では雪を大切に思っていると何度も言っていたが、その行動を鑑みるととてもそうは思えなかった。だからこそ、今回の静の行動は本当に雪を大切に思っていたんだという確認が行えたようなものだ。
「……ヴェルくん? 少し……いいかしら」
「……静ちゃん?」
テントの外からかかった声に、ヴェルは少し戸惑いながらも言葉を返した。自分が雪を心配しているように、静も雪が心配で、だけど雪の元に行くことは出来ず自分の元に来たのかもしれないとヴェルは少し考えた。
「……入っても、いい?」
「あ、うん……いい、よ」
(本当は、あんまり入ってきてほしくはないけど……)
本心は隠した状態で、ヴェルは静を招き入れた。テントの中に姿を現した静は、疲れ切ったような表情を浮かべていた。そして、心配そうに両手をぎゅっと胸の前で握りしめて、眉をハの字に下げていた。
0
お気に入りに追加
31
あなたにおすすめの小説
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
【R18】黒髪メガネのサラリーマンに監禁された話。
猫足02
恋愛
ある日、大学の帰り道に誘拐された美琴は、そのまま犯人のマンションに監禁されてしまう。
『ずっと君を見てたんだ。君だけを愛してる』
一度コンビニで見かけただけの、端正な顔立ちの男。一見犯罪とは無縁そうな彼は、狂っていた。
先生!放課後の隣の教室から女子の喘ぎ声が聴こえました…
ヘロディア
恋愛
居残りを余儀なくされた高校生の主人公。
しかし、隣の部屋からかすかに女子の喘ぎ声が聴こえてくるのであった。
気になって覗いてみた主人公は、衝撃的な光景を目の当たりにする…
隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました
ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら……
という、とんでもないお話を書きました。
ぜひ読んでください。
お嬢様、お仕置の時間です。
moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。
両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。
私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。
私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。
両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。
新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。
私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。
海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。
しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。
海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。
しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。
【R18】幼馴染の男3人にノリで乳首当てゲームされて思わず感じてしまい、次々と告白されて予想外の展開に…【短縮版】
うすい
恋愛
【ストーリー】
幼馴染の男3人と久しぶりに飲みに集まったななか。自分だけ異性であることを意識しないくらい仲がよく、久しぶりに4人で集まれたことを嬉しく思っていた。
そんな中、幼馴染のうちの1人が乳首当てゲームにハマっていると言い出し、ななか以外の3人が実際にゲームをして盛り上がる。
3人のやり取りを微笑ましく眺めるななかだったが、自分も参加させられ、思わず感じてしまい―――。
さらにその後、幼馴染たちから次々と衝撃の事実を伝えられ、事態は思わぬ方向に発展していく。
【登場人物】
・ななか
広告マーケターとして働く新社会人。純粋で素直だが流されやすい。大学時代に一度だけ彼氏がいたが、身体の相性が微妙で別れた。
・かつや
不動産の営業マンとして働く新社会人。社交的な性格で男女問わず友達が多い。ななかと同じ大学出身。
・よしひこ
飲食店経営者。クールで口数が少ない。頭も顔も要領もいいため学生時代はモテた。短期留学経験者。
・しんじ
工場勤務の社会人。控えめな性格だがしっかり者。みんなよりも社会人歴が長い。最近同棲中の彼女と別れた。
【注意】
※一度全作品を削除されてしまったため、本番シーンはカットしての投稿となります。
そのため読みにくい点や把握しにくい点が多いかと思いますがご了承ください。
フルバージョンはpixivやFantiaで配信させていただいております。
※男数人で女を取り合うなど、くっさい乙女ゲーム感満載です。
※フィクションとしてお楽しみいただきますようお願い申し上げます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる