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第3章【一途に想うからこそ】
17罪 身代わり②
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「前世の記憶を取り戻したとき、微かに魔力は感じたの。だけど、それだけで……使えるかって言われたら使えないってハッキリ言える感じで」
「……それは確かに私も感じたわ」
静が自身の両手を見つめて小さく同意するように呟いてくれて、私だけじゃなく静も実感してくれていた事にほんの少しだけホッとした。
「もしかしたら、順番に記憶を取り戻さないと使えるようにならないんじゃないかなって……ふと、思ったの。もちろん、違うかもしれないけど……」
違う可能性もあるけれど、もしそうだとしたら、このまま適当に国を巡るのは得策ではないと思った。
関係がなければ、ある程度記憶を取り戻せば力を使えるようになるのかもしれないけど、もし順番に……という感じだった場合、適当に記憶を取り戻していたら使える力も使えない可能性がある。
「だから、子ノ国から寅ノ国まで急ぎ足でまわってみない? もし、子ノ国で記憶を取り戻して力が使えるようになるなら、敵から逃げ回りながらバラバラに各国の石碑をまわるようにしてもいいと思うし。力が使えるようにならないなら、寅ノ国まで石碑をまわってみてから考えてもいいと思うし」
どうかな? と私は自分の考えを言葉にして、みんなの反応を待った。
違う意見があるならそれはそれで全然かまわないし、今の考えよりいいものが出てくるなら、それに越したことはないと思う。
みんなと顔を見合わせ何やら思案顔をするヴェル君を見つめ、私はドキドキとした心持ちで沈黙を耐えた。この時間がとても怖い。
「うん、いいんじゃないかな」
「そうね。他に手立てがあるわけでもないもの」
「俺も雪の考えに賛成だ」
三人ともが賛成してくれたことに、私は大きく胸を撫で下ろしてホッとした表情を浮かべながら小さく「良かった……」と呟いた。
「じゃあ、行き先は子ノ国で決定だね」
「案内は宜しくね、ヴェル君」
「任せておいてよ」
ドン、と胸を叩くヴェル君はとても頼もしく見えて、私達は顔を見合わせて笑顔を零した。
(うん、大丈夫。ちゃんといつも通り出来てる)
卯ノ国を出発してからのみんなとのやり取りがぎこちなくなっていないことに、私はホッとした。まだヴェル君と静の事を見るのは辛いものがあるけれど、きっと時間がなんとかしてくれるはずだ。
子ノ国へ案内すべく先を歩きはじめているヴェル君と、彼の手に掴まりながら一緒に歩いている静の背中を見つめながら私は真兄と一緒に歩きはじめた。
(そういえば、真兄は知らないんだよね……?)
ふとそんな事を思い出して視線を真兄に向ければ、やっぱり何とも言えない物悲しそうな表情が垣間見えた。
予想通りの反応というかなんというか、静を大切に思っている真兄からしたらヴェル君のポジションは自分でありたかったのだろうなと思った。
もちろん、私だって静のポジションに居たかった。
「……それは確かに私も感じたわ」
静が自身の両手を見つめて小さく同意するように呟いてくれて、私だけじゃなく静も実感してくれていた事にほんの少しだけホッとした。
「もしかしたら、順番に記憶を取り戻さないと使えるようにならないんじゃないかなって……ふと、思ったの。もちろん、違うかもしれないけど……」
違う可能性もあるけれど、もしそうだとしたら、このまま適当に国を巡るのは得策ではないと思った。
関係がなければ、ある程度記憶を取り戻せば力を使えるようになるのかもしれないけど、もし順番に……という感じだった場合、適当に記憶を取り戻していたら使える力も使えない可能性がある。
「だから、子ノ国から寅ノ国まで急ぎ足でまわってみない? もし、子ノ国で記憶を取り戻して力が使えるようになるなら、敵から逃げ回りながらバラバラに各国の石碑をまわるようにしてもいいと思うし。力が使えるようにならないなら、寅ノ国まで石碑をまわってみてから考えてもいいと思うし」
どうかな? と私は自分の考えを言葉にして、みんなの反応を待った。
違う意見があるならそれはそれで全然かまわないし、今の考えよりいいものが出てくるなら、それに越したことはないと思う。
みんなと顔を見合わせ何やら思案顔をするヴェル君を見つめ、私はドキドキとした心持ちで沈黙を耐えた。この時間がとても怖い。
「うん、いいんじゃないかな」
「そうね。他に手立てがあるわけでもないもの」
「俺も雪の考えに賛成だ」
三人ともが賛成してくれたことに、私は大きく胸を撫で下ろしてホッとした表情を浮かべながら小さく「良かった……」と呟いた。
「じゃあ、行き先は子ノ国で決定だね」
「案内は宜しくね、ヴェル君」
「任せておいてよ」
ドン、と胸を叩くヴェル君はとても頼もしく見えて、私達は顔を見合わせて笑顔を零した。
(うん、大丈夫。ちゃんといつも通り出来てる)
卯ノ国を出発してからのみんなとのやり取りがぎこちなくなっていないことに、私はホッとした。まだヴェル君と静の事を見るのは辛いものがあるけれど、きっと時間がなんとかしてくれるはずだ。
子ノ国へ案内すべく先を歩きはじめているヴェル君と、彼の手に掴まりながら一緒に歩いている静の背中を見つめながら私は真兄と一緒に歩きはじめた。
(そういえば、真兄は知らないんだよね……?)
ふとそんな事を思い出して視線を真兄に向ければ、やっぱり何とも言えない物悲しそうな表情が垣間見えた。
予想通りの反応というかなんというか、静を大切に思っている真兄からしたらヴェル君のポジションは自分でありたかったのだろうなと思った。
もちろん、私だって静のポジションに居たかった。
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