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第2章【交わる二人の歯車】
14罪 在りし日の過去を垣間見よ・1⑭
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「雪様! おかえりなさいませ‼」
城門前。ずっと待っていたと思われる白い姿――白卯が私めがけて駆けてきた。ぱぁぁぁぁっという擬音が似合いそうなくらい、満面の笑みを浮かべて。
「は、白卯?」
「ご無事でなによりです!」
白卯の勢いに押され、私は彼にぎゅっと抱きしめられた状態で帰還を歓迎された。
「うん、無事だから離して?」
「あ……申し訳ありません」
これまた“しゅん……”という擬音が似合いそうな感じにしょぼくれる白卯。私はその様子に苦笑を浮かべるしかなかった。
「みなさま、無事に記憶を取り戻せたのですね?」
「ありがとうね、白卯」
「……え?」
白卯の問いかけに全員が頷きかえした後、私は白卯に感謝の言葉を述べた。まさか感謝されるとは思っていなかった白卯は間の抜けた声を上げ、キョトンとした感じで私を見つめてきた。
ありがとうというのは、石碑への道順を教えてくれたこともそうだし、石碑へと向かいたいと言ったときに拒否せず受け入れてくれたこともそうだし、今しがた見てきた前世のことも、すべて含めてだ。何度言っても感謝しきれないくらい、ありがとうと言いたい気持ちになった。
「ありがとう、白卯」
「あの、雪……様?」
戸惑う白卯を見て、私はぷっと笑いをこらえることができなかった。
そうだよね、意味も分からずありがとうって言われ続けてたら困惑するよね。そんな風に分かっていながらも、やっぱりお礼を言わずにはいられなかった。
「本当にありがとう」
「あの……そんなにお礼を言われるようなことはっ」
「ううん。いっぱいいっぱいお礼を言いたいくらいだよ」
私は目を伏せながら、小さく頭を振った。白卯には分からないかもしれないが、私にはお礼を言う理由がある。
「もしかして雪様……何か前世の記憶で……」
「なーいしょ」
ハッと気づいた白卯の言葉を、私は遮ってニッと笑った。両手を後ろで組み、軽く前かがみになりながら白卯を見つめる。思い出した過去は、私だけのもの。その記憶の中で感じた感情も、私だけ――ゑレ妃だけのものだ。
「ゆ、雪様あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
そんな……とショックを受ける白卯に、私はより意地悪な笑みを浮かべた。決して話すことは出来ないけれど、白卯に対して感じたゑレ妃の感情は私がしっかりと覚えていてあげようと思った。
心細くて、悲しくて、辛かったあの時、唯一支えてくれた彼の存在がゑレ妃の中で凄く頼もしくて、大きな存在となっていたこと。彼を大切に思った事を、しっかりと胸に焼き付けておこうと思った。これは記憶を取り戻した私だけの特権だ。私だけが許された、伝えられなかった思い。
「白卯」
「はい?」
「白卯が居てくれて良かったよ」
「ゆ、雪様ぁぁぁぁぁぁぁぁ」
その後、白卯にもう一度力強く抱きしめられたのは、言うまでもない事だろう。
城門前。ずっと待っていたと思われる白い姿――白卯が私めがけて駆けてきた。ぱぁぁぁぁっという擬音が似合いそうなくらい、満面の笑みを浮かべて。
「は、白卯?」
「ご無事でなによりです!」
白卯の勢いに押され、私は彼にぎゅっと抱きしめられた状態で帰還を歓迎された。
「うん、無事だから離して?」
「あ……申し訳ありません」
これまた“しゅん……”という擬音が似合いそうな感じにしょぼくれる白卯。私はその様子に苦笑を浮かべるしかなかった。
「みなさま、無事に記憶を取り戻せたのですね?」
「ありがとうね、白卯」
「……え?」
白卯の問いかけに全員が頷きかえした後、私は白卯に感謝の言葉を述べた。まさか感謝されるとは思っていなかった白卯は間の抜けた声を上げ、キョトンとした感じで私を見つめてきた。
ありがとうというのは、石碑への道順を教えてくれたこともそうだし、石碑へと向かいたいと言ったときに拒否せず受け入れてくれたこともそうだし、今しがた見てきた前世のことも、すべて含めてだ。何度言っても感謝しきれないくらい、ありがとうと言いたい気持ちになった。
「ありがとう、白卯」
「あの、雪……様?」
戸惑う白卯を見て、私はぷっと笑いをこらえることができなかった。
そうだよね、意味も分からずありがとうって言われ続けてたら困惑するよね。そんな風に分かっていながらも、やっぱりお礼を言わずにはいられなかった。
「本当にありがとう」
「あの……そんなにお礼を言われるようなことはっ」
「ううん。いっぱいいっぱいお礼を言いたいくらいだよ」
私は目を伏せながら、小さく頭を振った。白卯には分からないかもしれないが、私にはお礼を言う理由がある。
「もしかして雪様……何か前世の記憶で……」
「なーいしょ」
ハッと気づいた白卯の言葉を、私は遮ってニッと笑った。両手を後ろで組み、軽く前かがみになりながら白卯を見つめる。思い出した過去は、私だけのもの。その記憶の中で感じた感情も、私だけ――ゑレ妃だけのものだ。
「ゆ、雪様あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
そんな……とショックを受ける白卯に、私はより意地悪な笑みを浮かべた。決して話すことは出来ないけれど、白卯に対して感じたゑレ妃の感情は私がしっかりと覚えていてあげようと思った。
心細くて、悲しくて、辛かったあの時、唯一支えてくれた彼の存在がゑレ妃の中で凄く頼もしくて、大きな存在となっていたこと。彼を大切に思った事を、しっかりと胸に焼き付けておこうと思った。これは記憶を取り戻した私だけの特権だ。私だけが許された、伝えられなかった思い。
「白卯」
「はい?」
「白卯が居てくれて良かったよ」
「ゆ、雪様ぁぁぁぁぁぁぁぁ」
その後、白卯にもう一度力強く抱きしめられたのは、言うまでもない事だろう。
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