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第2章【交わる二人の歯車】
14罪 在りし日の過去を垣間見よ・1⑥
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「……雪ちゃん、静ちゃん、大丈夫?」
あれからすぐに私たちは雪山を登った。のんびりしていたら決意が鈍ってしまう気がしたからだ。勢いに乗って、このまま突き進むのがいいんじゃないかと思った。だからこそ、さくさくと進む状況に疲れが溜まっていないかどうかを、ヴェル君は心配そうに問いかけてくれた。
「うん。私は大丈夫だよ。静は?」
「私は……少し、辛い……かしら」
辛かったとしても、急ぐことを選んだのは私自身だ。だから、大丈夫だと虚勢を張った。けれど、静は素直に辛い事を告げていて。
ああ、こういう所が守りたいと思わせるポイントなのかな? と不意に思った。静がモテるのはこういう点なのかなと。
「真兄、肩、貸してあげたら?」
あ、と思い出し、私は真兄に話を振った。静を思っている彼が静を助ければ、いい感じに接触する機会を得られる。
「ヴェルくん、またお願いしてもいいかしら?」
けれど、真兄から答えを貰うよりも前に、静がヴェルくんを頼った。その様子に少しだけチクリとしたものを感じた。
なんで真兄じゃなくてヴェル君なの? なんて疑問が脳裏を横切るが、昨日と同じことだろう。雪山も慣れていない真兄よりも、この世界に慣れていて足腰鍛えられているヴェル君を頼る方が明らかに安全で安心だ。そうやって頭の中で答えが出ていても、やっぱり面白くないのは面白くない。
「……ヴェ、ヴェル君」
昨日と違う点といえば、きっと私がこうやってヴェル君に声をかけたことだろう。彼の服をきゅっと指先だけで掴み、じっと彼を見つめる。
「ゆ、雪ちゃん……?」
「静は真兄に頼めばいいと思う、し……もしあれなら、私に手を、貸してほしいな……」
ダメかな? と軽く首を傾げて私はヴェル君に問いかけた。珍しい私の行動に、ヴェル君は驚いた様な表情を浮かべ――静のほうに視線を向けた。
そこには、にっこりと笑顔を浮かべて私とヴェル君を見つめる静の姿があった。
「別にいいわよ。私には真兄さんもいるし、ヴェルくんは雪ちゃんを助けてあげたらいいんじゃないかしら?」
そう答える静に、私はホッと胸を撫で下ろしたかった。けれど、なんだろう。変にゾクッとする寒気を背筋に感じた気がした。静は笑っているはずなのに笑っていないように見えるような、怒っている様に見えるような。
そんなこと、あるはずないのに。
あれからすぐに私たちは雪山を登った。のんびりしていたら決意が鈍ってしまう気がしたからだ。勢いに乗って、このまま突き進むのがいいんじゃないかと思った。だからこそ、さくさくと進む状況に疲れが溜まっていないかどうかを、ヴェル君は心配そうに問いかけてくれた。
「うん。私は大丈夫だよ。静は?」
「私は……少し、辛い……かしら」
辛かったとしても、急ぐことを選んだのは私自身だ。だから、大丈夫だと虚勢を張った。けれど、静は素直に辛い事を告げていて。
ああ、こういう所が守りたいと思わせるポイントなのかな? と不意に思った。静がモテるのはこういう点なのかなと。
「真兄、肩、貸してあげたら?」
あ、と思い出し、私は真兄に話を振った。静を思っている彼が静を助ければ、いい感じに接触する機会を得られる。
「ヴェルくん、またお願いしてもいいかしら?」
けれど、真兄から答えを貰うよりも前に、静がヴェルくんを頼った。その様子に少しだけチクリとしたものを感じた。
なんで真兄じゃなくてヴェル君なの? なんて疑問が脳裏を横切るが、昨日と同じことだろう。雪山も慣れていない真兄よりも、この世界に慣れていて足腰鍛えられているヴェル君を頼る方が明らかに安全で安心だ。そうやって頭の中で答えが出ていても、やっぱり面白くないのは面白くない。
「……ヴェ、ヴェル君」
昨日と違う点といえば、きっと私がこうやってヴェル君に声をかけたことだろう。彼の服をきゅっと指先だけで掴み、じっと彼を見つめる。
「ゆ、雪ちゃん……?」
「静は真兄に頼めばいいと思う、し……もしあれなら、私に手を、貸してほしいな……」
ダメかな? と軽く首を傾げて私はヴェル君に問いかけた。珍しい私の行動に、ヴェル君は驚いた様な表情を浮かべ――静のほうに視線を向けた。
そこには、にっこりと笑顔を浮かべて私とヴェル君を見つめる静の姿があった。
「別にいいわよ。私には真兄さんもいるし、ヴェルくんは雪ちゃんを助けてあげたらいいんじゃないかしら?」
そう答える静に、私はホッと胸を撫で下ろしたかった。けれど、なんだろう。変にゾクッとする寒気を背筋に感じた気がした。静は笑っているはずなのに笑っていないように見えるような、怒っている様に見えるような。
そんなこと、あるはずないのに。
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