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第2章【交わる二人の歯車】
14罪 在りし日の過去を垣間見よ・1⑬
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「――――」
私の耳にはヴェル君が何を呟いていたのか聞き取れなかった。というよりは、私には理解できない言語だったんだと思う。つまり、詠唱……魔法を使ったという事かな? と理解できた。
「……ふえっ⁉」
ふわっと、温かい空気が体を包み込み、体の芯から温まっていく不思議な感覚を覚えた。驚きのあまり、変な声が上がってしまった。恥ずかしい。
体を綺麗にしてくれる魔法と違って、今使ってくれた魔法はしばらく体を温かい空気がまとわりついてくる感じだった。温かさが続くと冷え切った体は少しずつ温まり震えがピタッと止まった。
正直凄い魔法だと思う。
「生活魔法の一つだよ。俺にはこれくらいしか出来ないから」
申し訳なさそうにクシャっと笑うヴェル君に、私は大きく首を振った。
「そんなことない! 凄い助かったよ、ヴェル君‼」
大きな声でヴェル君の言葉を否定した。だって、そんな卑下する事ないと思ったから。確かにちょっとした魔法で、目に留まるような派手さはないかもしれない。だけど、その魔法に助けられたことは確かなんだ。
「そ、そうかな?」
「うん! ありがとうね!」
私のちょっとしたお礼の言葉に、嬉しそうに笑ってくれるヴェル君。そんな風に私の一言で笑顔になってくれるのが嬉しかった。
「この後はどうしたらいいのかしら?」
ピシ……
「……ん?」
静の問いかけの言葉の直後、聞こえた音に静は眉を潜めてあたりを見渡した。けれど、音の原因となりそうなものは皆目見当もつかなくて。
ピシピシピシ……と続く何かに亀裂が入る音に、今度は私も真兄もヴェル君も一緒になってあたりを見渡した。すると、一つ、異常が起きていることに気付いた。
「……ねえ、石碑が」
私がそう言って指さした瞬間だった。ビシッと大きな音が聞こえた瞬間、バキバキバキっと私たちの目の前で石碑が真っ二つに割れた。さっきまで泉の中央で静かに佇んでいた石碑が、綺麗に二つに切り裂かれ、そこに存在していた。
「役目が終わったって事だろ」
「……そっか」
真兄の言葉がしっくりきた。私たちの過去と魔力を封じていた石碑。それを私たちに返したのだからお役目ごめんというわけだ。
一体どれくらいの時代、石碑は私たちの記憶と魔力を守り続けてくれていたのかは分からない。だけど、その長年の役目を終え、眠りについたという事を考えると。
「……」
私は無言のまま、静かに両手を合わせて黙とうした。お疲れ様でしたと、ご苦労様でしたと、ありがとうと、そんないろんな気持ちを込めて。
「それじゃ、城に戻ろうか」
ヴェル君の提案に、私もみんなも異論はなくて、同時に頷いた。行きと同じように、私はヴェル君に、静は真兄に手を貸してもらいながら雪山を下山するのだった。
私の耳にはヴェル君が何を呟いていたのか聞き取れなかった。というよりは、私には理解できない言語だったんだと思う。つまり、詠唱……魔法を使ったという事かな? と理解できた。
「……ふえっ⁉」
ふわっと、温かい空気が体を包み込み、体の芯から温まっていく不思議な感覚を覚えた。驚きのあまり、変な声が上がってしまった。恥ずかしい。
体を綺麗にしてくれる魔法と違って、今使ってくれた魔法はしばらく体を温かい空気がまとわりついてくる感じだった。温かさが続くと冷え切った体は少しずつ温まり震えがピタッと止まった。
正直凄い魔法だと思う。
「生活魔法の一つだよ。俺にはこれくらいしか出来ないから」
申し訳なさそうにクシャっと笑うヴェル君に、私は大きく首を振った。
「そんなことない! 凄い助かったよ、ヴェル君‼」
大きな声でヴェル君の言葉を否定した。だって、そんな卑下する事ないと思ったから。確かにちょっとした魔法で、目に留まるような派手さはないかもしれない。だけど、その魔法に助けられたことは確かなんだ。
「そ、そうかな?」
「うん! ありがとうね!」
私のちょっとしたお礼の言葉に、嬉しそうに笑ってくれるヴェル君。そんな風に私の一言で笑顔になってくれるのが嬉しかった。
「この後はどうしたらいいのかしら?」
ピシ……
「……ん?」
静の問いかけの言葉の直後、聞こえた音に静は眉を潜めてあたりを見渡した。けれど、音の原因となりそうなものは皆目見当もつかなくて。
ピシピシピシ……と続く何かに亀裂が入る音に、今度は私も真兄もヴェル君も一緒になってあたりを見渡した。すると、一つ、異常が起きていることに気付いた。
「……ねえ、石碑が」
私がそう言って指さした瞬間だった。ビシッと大きな音が聞こえた瞬間、バキバキバキっと私たちの目の前で石碑が真っ二つに割れた。さっきまで泉の中央で静かに佇んでいた石碑が、綺麗に二つに切り裂かれ、そこに存在していた。
「役目が終わったって事だろ」
「……そっか」
真兄の言葉がしっくりきた。私たちの過去と魔力を封じていた石碑。それを私たちに返したのだからお役目ごめんというわけだ。
一体どれくらいの時代、石碑は私たちの記憶と魔力を守り続けてくれていたのかは分からない。だけど、その長年の役目を終え、眠りについたという事を考えると。
「……」
私は無言のまま、静かに両手を合わせて黙とうした。お疲れ様でしたと、ご苦労様でしたと、ありがとうと、そんないろんな気持ちを込めて。
「それじゃ、城に戻ろうか」
ヴェル君の提案に、私もみんなも異論はなくて、同時に頷いた。行きと同じように、私はヴェル君に、静は真兄に手を貸してもらいながら雪山を下山するのだった。
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