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第2章【交わる二人の歯車】

14罪 在りし日の過去を垣間見よ・1⑪

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「……ぅ」
「……ん」

 私と静はほぼ同時に小さな声を上げ意識を取り戻したようだった。泉の中に半身を浸からせるように、座り込んだ状態で。
 視線を上げれば、そこには立ったまま呆然とする真兄の姿があった。

「……真兄が一番早かったんだね」
「あ、いや……」

 私の言葉に、真兄は歯切れの悪い声を漏らした。どうしたのだろうかと私と静は一度顔を見合わせると、ゆっくりと立ち上がりながら真兄を見た。私たちのように泉の中に座り込んでいたわけじゃなかった真兄は、びしょびしょになっている私たちとは違ってズボンしか濡らしていない状態だ。

「真兄さん、どうしたの?」
「……いや、なんでもない」

 心配そうに、不思議そうに、静が真兄の顔を覗き込んだ。一瞬息を呑んだように見えたけれど、すぐに真兄はいつものように安心させるような笑みを浮かべると、かぶりを振った。

「三人とも、無事に記憶は取り戻せた?」
「うん」
「ええ」

 ヴェル君の問いかけに、私と静は泉の中から陸地にいるヴェル君に向けて大きく返事を返して頷いた。真兄は無言のまま、けれどヴェル君の言葉を肯定するようにゆっくりと大きく頷きかえしていた。
 どうしたんだろう? そんな風に心配になるけれど、きっと静にも答えなかった真兄は私には絶対答えてくれないだろうと思った。話してくれる気になるのを待つしかないか、と思いながら私たちはヴェル君のいる陸の方へ向かって歩み始めた。

「どうだった?」
「んー、思い出せたとはいえ、ごく一部だからなんとも……」

 聞かれてもどう答えればいいのか悩むような内容だった。私はただ泣いていたとしか言えない。それ以外に言えることといえば、ただただ悲しみと悔しさと困惑、寂しさ……そんな負の感情ばかりだったということだけだろう。

「私も同じようなものね」
「静も?」
「ええ。ただ……なんとなくだけど、体をまとう何かを感じるわ」
「あ、それ、私も! なんだろ……ぼわーっと温かいというか、体がみなぎってくるというか……」

 この感覚は、おそらく言葉で説明することは出来ないだろう。なった当事者じゃないと分からない感覚に、私と静は話しながら頷きあっていた。
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