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第2章【交わる二人の歯車】
14罪 在りし日の過去を垣間見よ・1⑨
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「いこう」
「ええ」
「ああ」
私は短く呟くと、返事を同時に返してくれた静と真兄と一緒に泉に向かって足を一歩踏み出した。たぶん、私と同じように静と真兄もどういう手順を取ればいいのか脳裏に過っているんだろうな。じゃなきゃ、きっとこんな風にスムーズに行動なんてできないと思う。
私は二人にどうやればいいかという事を告げることなく行動している。だけど、二人はそれに無言で合わせてくれる。それが証拠だった。
「……っ」
泉に近づいた私は二人より先に行動を示そうと靴を脱ぎ、靴下を脱いだ。素足でゆっくりと泉の中に歩みを進めていく。冷たい空気の中から、より一層冷たい水の中へと足を踏み入れた私の肌はピリッと痛みを感じた。
凍るほどに冷たい水に、悲鳴を上げそうになるのを必死に抑えた。けれど、それは私だけではなくて、私の後に続いて靴と靴下を脱いだ静と真兄も同じだったはずだ。二人とも表情に出さないのが得意なだけで、きっと内心寒い冷たいと叫んでいたに違いない……と思いたい。
――在りし日の過去を垣間見よ――
突如聞こえた声は、頭の中に鐘を鳴らすように響いた。こだまするように、頭の中をその言葉だけが埋め尽くしていく感覚に、めまいを感じた。
ぐらりと意識が反転するような、ぐるりと意識が回転するような、よくわからない気持ち悪い感覚に陥った。
* * *
「姫様っ‼」
「…………」
姫様と呼ばれた少女は、雪の姿にとてもそっくりだった。違いといえば、髪が長い事と年齢が幼い事だろうか。見た感じ十歳前後という感じだろう。少女は雪の前世であるゑレ妃。けれど、呼びかける青年――白卯の声に全く反応を見せなかった。
「ゑレ妃様っ!」
「……、…………」
もう一度声を上げれば、ようやくピクリと反応を示しゑレ妃は白卯の方を見た。けれど、その瞳には覇気はなく虚ろな目をしていた。
「ゐ吹様とゑン姫様は……ご両親は、姫様がそうなる事を望んではおられません!」
「……っ」
白卯の言葉に、ゑレ妃の表情に動きがあった。虚ろだった瞳は悲しみの色を携え、覇気のなかった表情は一気に泣きそうな表情へと変わっていった。大きな瞳から大粒の雫が零れ落ちる。
「――――っ‼」
大きな声を上げて泣きたかった。けれど、ゑレ妃の口から泣き声は上がることはなかった。ただ、ぼろぼろと涙をこぼし続け、声にならない声を口から吐き出すだけだった。かすれた息だけが声の代わりに出てくる。
「…………‼」
「姫様……っ」
声なく泣くゑレ妃を見つめ、白卯はぐっと拳を握りしめるとゆっくりと優しくゑレ妃を抱きしめた。優しいぬくもりに、包み込んでくれる温かさに、ゑレ妃の涙は余計に止まることなく流れ続けた。
「ええ」
「ああ」
私は短く呟くと、返事を同時に返してくれた静と真兄と一緒に泉に向かって足を一歩踏み出した。たぶん、私と同じように静と真兄もどういう手順を取ればいいのか脳裏に過っているんだろうな。じゃなきゃ、きっとこんな風にスムーズに行動なんてできないと思う。
私は二人にどうやればいいかという事を告げることなく行動している。だけど、二人はそれに無言で合わせてくれる。それが証拠だった。
「……っ」
泉に近づいた私は二人より先に行動を示そうと靴を脱ぎ、靴下を脱いだ。素足でゆっくりと泉の中に歩みを進めていく。冷たい空気の中から、より一層冷たい水の中へと足を踏み入れた私の肌はピリッと痛みを感じた。
凍るほどに冷たい水に、悲鳴を上げそうになるのを必死に抑えた。けれど、それは私だけではなくて、私の後に続いて靴と靴下を脱いだ静と真兄も同じだったはずだ。二人とも表情に出さないのが得意なだけで、きっと内心寒い冷たいと叫んでいたに違いない……と思いたい。
――在りし日の過去を垣間見よ――
突如聞こえた声は、頭の中に鐘を鳴らすように響いた。こだまするように、頭の中をその言葉だけが埋め尽くしていく感覚に、めまいを感じた。
ぐらりと意識が反転するような、ぐるりと意識が回転するような、よくわからない気持ち悪い感覚に陥った。
* * *
「姫様っ‼」
「…………」
姫様と呼ばれた少女は、雪の姿にとてもそっくりだった。違いといえば、髪が長い事と年齢が幼い事だろうか。見た感じ十歳前後という感じだろう。少女は雪の前世であるゑレ妃。けれど、呼びかける青年――白卯の声に全く反応を見せなかった。
「ゑレ妃様っ!」
「……、…………」
もう一度声を上げれば、ようやくピクリと反応を示しゑレ妃は白卯の方を見た。けれど、その瞳には覇気はなく虚ろな目をしていた。
「ゐ吹様とゑン姫様は……ご両親は、姫様がそうなる事を望んではおられません!」
「……っ」
白卯の言葉に、ゑレ妃の表情に動きがあった。虚ろだった瞳は悲しみの色を携え、覇気のなかった表情は一気に泣きそうな表情へと変わっていった。大きな瞳から大粒の雫が零れ落ちる。
「――――っ‼」
大きな声を上げて泣きたかった。けれど、ゑレ妃の口から泣き声は上がることはなかった。ただ、ぼろぼろと涙をこぼし続け、声にならない声を口から吐き出すだけだった。かすれた息だけが声の代わりに出てくる。
「…………‼」
「姫様……っ」
声なく泣くゑレ妃を見つめ、白卯はぐっと拳を握りしめるとゆっくりと優しくゑレ妃を抱きしめた。優しいぬくもりに、包み込んでくれる温かさに、ゑレ妃の涙は余計に止まることなく流れ続けた。
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