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第2章【交わる二人の歯車】
12罪 一番じゃないと②
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「雪ちゃんと一緒に居ることが増えて、そこに真兄さんも合流して三人で居ることが増えていったの。そんな時にね、雪ちゃんが私にこう聞いたのよ」
“なんで私と仲良くしてくれるの?”って――静は遠くを見つめるように、当時を思い出しながら話しはじめた。ヴェルはその話を無言のまま静かに聞いていた。
* * *
「ねえ、静。なんで私と仲良くしてくれるの? 私、いじめられてたの知ってるよね?」
「うん、知ってるわよ。でも、いじめられてようがいじめられてまいが、私が仲良くしたい子は私が決めるもの」
おどおどしながら問いかける雪に、静は胸を張って堂々と答えた。友達は誰かに選んでもらうものじゃなくて自分で決めるものだよ、と笑う静に雪は驚いた表情を浮かべていた。
「だって……私と仲良くしていたら、静がいじめられちゃうかも……」
静は可愛いし優しいから妬まれちゃうよ、と心配げに呟く雪に今度は静が驚きの表情を浮かべる番だった。
「かわいい? やさしい?」
「うん。静は可愛いよ。誰よりもいっちばん可愛くて優しくて……私の自慢の友達」
“友達”と言っていいか悩みながら告げる雪の言葉に、静は驚きながらも嬉しさを覚えた。そして、静を見つめながらにっこりと微笑む雪を見て静は照れくさそうに笑った。
「そんな風に言われたの……初めて」
「うそっ」
「本当よ。お母さんも、お父さんも、可愛いなんて言ってくれたことないし……」
信じられない、と雪は口をあんぐりと開けたまま唖然とした。その様子がおかしくて、静はぷっと吹き出して笑った。けれど、雪はなんで笑われているのか分からなくて、おどおどとしながら「えっ? えっ?」と声を漏らしていた。
「ふふ……雪ちゃんだけよ、そんな風に言ってくれるの。凄く……嬉しいわ、ありがとう」
「みんな、静が可愛いのが悔しくて言えないだけだよっ」
胸の前で両手をぐっと握り、力強く説明する雪の姿に静は胸が暖かくなる感情を覚えた。幼いながらに、褒めてもらえることが嬉しくて、慕ってくれて、頼ってくれて、一番かわいいと言ってくれる雪の言葉が嬉しくて、静はそんな自分に自信を持つようになった。
* * *
「だから私は、ずっと雪ちゃんに一番かわいいと言ってもらえるように努力してきたの」
もちろんそれだけじゃないけどね、と笑う静。きっかけは些細なことだったのだ。褒められたことがなかった静が助けた雪に褒めちぎられ、慕って頼ってくれる雪に自信を持って胸を張っていられる自分でいたいと思ったことが最初だったと静はヴェルに話した。
「だから、私は一番じゃないといけないのよ」
一番じゃないと胸が張れないと、静は言った。
「だから、私は雪ちゃんが大好きよ。私を一番かわいいと言ってくれて、優しいと言ってくれて、私を慕って頼ってくれる……雪ちゃんがいるから、私は胸を張って自信を持てるの」
そう言うと、静はヴェルに手を伸ばした。静の話を聞いていたヴェルは何も言う事が出来なかった。
静と雪の関係は簡単なように見えて複雑だったのかもしれない。きっと、静のこの行動を非難して止めたら、彼女のアイデンティティが壊れてしまうだろうことをヴェルはすぐさま理解した。
「だから、ヴェルくんも私を一番に扱って。私を一番かわいいって……」
「し、ずかちゃ――――ッ」
伸ばした静の手はヴェルの手を掴み、そのまま思い切り自分の方に引き寄せた。バランスを崩したヴェルはそのまま静の上に覆いかぶさるように倒れこんだ。
月明かりに照らされた部屋。ほんのりと灯る部屋の明かりが双方の顔を照らした。
“なんで私と仲良くしてくれるの?”って――静は遠くを見つめるように、当時を思い出しながら話しはじめた。ヴェルはその話を無言のまま静かに聞いていた。
* * *
「ねえ、静。なんで私と仲良くしてくれるの? 私、いじめられてたの知ってるよね?」
「うん、知ってるわよ。でも、いじめられてようがいじめられてまいが、私が仲良くしたい子は私が決めるもの」
おどおどしながら問いかける雪に、静は胸を張って堂々と答えた。友達は誰かに選んでもらうものじゃなくて自分で決めるものだよ、と笑う静に雪は驚いた表情を浮かべていた。
「だって……私と仲良くしていたら、静がいじめられちゃうかも……」
静は可愛いし優しいから妬まれちゃうよ、と心配げに呟く雪に今度は静が驚きの表情を浮かべる番だった。
「かわいい? やさしい?」
「うん。静は可愛いよ。誰よりもいっちばん可愛くて優しくて……私の自慢の友達」
“友達”と言っていいか悩みながら告げる雪の言葉に、静は驚きながらも嬉しさを覚えた。そして、静を見つめながらにっこりと微笑む雪を見て静は照れくさそうに笑った。
「そんな風に言われたの……初めて」
「うそっ」
「本当よ。お母さんも、お父さんも、可愛いなんて言ってくれたことないし……」
信じられない、と雪は口をあんぐりと開けたまま唖然とした。その様子がおかしくて、静はぷっと吹き出して笑った。けれど、雪はなんで笑われているのか分からなくて、おどおどとしながら「えっ? えっ?」と声を漏らしていた。
「ふふ……雪ちゃんだけよ、そんな風に言ってくれるの。凄く……嬉しいわ、ありがとう」
「みんな、静が可愛いのが悔しくて言えないだけだよっ」
胸の前で両手をぐっと握り、力強く説明する雪の姿に静は胸が暖かくなる感情を覚えた。幼いながらに、褒めてもらえることが嬉しくて、慕ってくれて、頼ってくれて、一番かわいいと言ってくれる雪の言葉が嬉しくて、静はそんな自分に自信を持つようになった。
* * *
「だから私は、ずっと雪ちゃんに一番かわいいと言ってもらえるように努力してきたの」
もちろんそれだけじゃないけどね、と笑う静。きっかけは些細なことだったのだ。褒められたことがなかった静が助けた雪に褒めちぎられ、慕って頼ってくれる雪に自信を持って胸を張っていられる自分でいたいと思ったことが最初だったと静はヴェルに話した。
「だから、私は一番じゃないといけないのよ」
一番じゃないと胸が張れないと、静は言った。
「だから、私は雪ちゃんが大好きよ。私を一番かわいいと言ってくれて、優しいと言ってくれて、私を慕って頼ってくれる……雪ちゃんがいるから、私は胸を張って自信を持てるの」
そう言うと、静はヴェルに手を伸ばした。静の話を聞いていたヴェルは何も言う事が出来なかった。
静と雪の関係は簡単なように見えて複雑だったのかもしれない。きっと、静のこの行動を非難して止めたら、彼女のアイデンティティが壊れてしまうだろうことをヴェルはすぐさま理解した。
「だから、ヴェルくんも私を一番に扱って。私を一番かわいいって……」
「し、ずかちゃ――――ッ」
伸ばした静の手はヴェルの手を掴み、そのまま思い切り自分の方に引き寄せた。バランスを崩したヴェルはそのまま静の上に覆いかぶさるように倒れこんだ。
月明かりに照らされた部屋。ほんのりと灯る部屋の明かりが双方の顔を照らした。
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