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第2章【交わる二人の歯車】

12罪‬ 一番じゃないと①

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「ずいぶん遅かったわね」

 静の部屋を訪れれば、布団に座り込みこちらを見上げる彼女の姿があった。雪と同じく、この世界に来たばかりの時に渡した寝巻き用のシャツを一枚だけ着ていた。シャツに隠れてはいるが、下半身は下着一枚だ。
にっこりと微笑みながら見つめてくる静の視線を見つめ返すと、まるで自分の気持ちを見透かされているような感覚に陥り、ヴェルは居心地の悪さを感じた。

「でも、来てくれて良かったわ」
「……俺は無駄口を叩くために来たんじゃない」
「わかってるわ。私の話を聞きに来たんでしょう?」
「わかってるなら……」
「そんなに急かすことないんじゃなくて?」

 時間はまだまだあるのだから、と静は不敵に笑みを浮かべた。その笑顔にヴェルはぞくりとした感覚をおぼえた。

「ほら、そんなところに突っ立っていたら見られたくない人に見られてしまうかもしれないわよ?」
「……ッ」

 こちらへいらっしゃい、と手招きをする静。入りたくないという気持ちもあるものの、ここまで来たのだから引けないという思いもあった。そして、静の言う通り雪に見られる可能性だってある。

(こんなことになってるのは誰のせいだと……‼)

 その思いをぐっと呑みこみこらえると、ヴェルは静の部屋に足を踏み入れた。ゆっくりと音を立てないように障子を閉める。

「ヴェルくんは、本当に雪ちゃんの事が大好きなのね」

 妬けちゃうわ、と笑う静。ヴェルは居心地悪そうに視線を逸らして静の目の前――布団の横に腰かけた。そして、じっと彼女を真っすぐ見つめた。

「俺の心は雪ちゃんに向いたままだって話したよね?」
「ええ。知っているわ。それに、気持ちは雪ちゃんに向いていても、私を一番に扱ってくれるって事も……知っているわ」

 満足そうに笑う静は、右手の人差し指だけをピンと立てて唇の下あたりに添えた。そして、ヴェルを真っすぐ見つめると。

「キスは?」

 そんな風に催促をした。ヴェルは一瞬ためらったのち、ゆっくりと静に近づいた。
 顔をゆっくりと近づけ、ふわりと甘ったるい香りが鼻孔を駆け抜けていく。その感覚に顔をしかめながら、ヴェルの唇は静の柔らかい唇に触れた。

「……まあ、いいわ」
「話してくれないのか?」
「どこから話せばいいかしらね……」

 ヴェルのキスにほんの少し不満げな表情を浮かべながらも、静は及第点をあたえた。不満だけど、まあ合格といったところだろう。
 人差し指だけを立てて唇に添えていた手を開き、静は自身の頬を包み込むようにした。首を軽くかしげた状態で、話をどこからするか悩んでいるようだった。

「別にどこからだって……」
「ヴェルくんはそう言うでしょうね」

 くす、と笑いながらも静はいまだ悩んでいた。けれど、話しはじめる個所を決めたのか、頬を包み込むようにしていた手をそっと退けた。

「私と雪ちゃんが出会ったのは、小さい頃だったのよ。いじめられていたあの子を助けたことで仲良くなったの」

 そんな風に静は雪との出会いを話しはじめた。家が近く面識はあったけれど、特別仲良かったわけではなかった雪と静。静は家の近い真とは物心つく前から仲が良かったらしいが、雪と一緒に居ることが増えたのはこの頃からだとヴェルに告げた。
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