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第2章【交わる二人の歯車】
11罪 静の裏の顔②
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「確かにそうなんだけど、卯ノ国はちょっと別というかなんというか……」
「どういうこと?」
「まあ、着いたら分かるよ」
「なら、早く行きましょう? ヴェルくん、案内をお願いしてもいいかしら?」
どう説明すれば分かりやすいかと悩みながらも、上手く説明できないなとヴェルは自分の中で自己完結していた。そして、催促をするように発言をした静に一瞬顔をしかめたが、ヴェルはすぐに笑顔を浮かべ「わかったよ」と答えると張られたテントを回収して卯ノ国への道を急いだ。
きっと、この些細なヴェルの変化に誰も気づいていないだろう。
「――やっぱり、足腰が痛いわ……」
「静、大丈夫?」
「ええ、問題ないのだけれど……ちょっと歩き続けるのはさすがにキツそうだわ……」
「……あ、なら……腕、捕まる?」
「……あら、いいの?」
す、と腕を差し出すヴェルに静はにっこりと笑みを浮かべて首を傾げた。
(そうさせるために発言したくせに……――)
そんな風にヴェルは内心思ったが、それを言葉にすることも表情に出すことも憚られた。
差し出されたヴェルの腕に静は腕を絡ませ、その腕にギュッと捕まった。その行動がヴェルにはわざとらしく見えてイライラした。まるで雪に見せつけるような行動に、吐き気を覚える。
この時、ヴェルは雪の表情に気付いていなかった。腕を組む静とヴェルの二人を見て、凄く複雑そうな表情を浮かべる雪に。そして、静とヴェル――その二人を複雑そうに見つめる雪を横目で見る真も、よくよく見れば表情にほんの少しの機微があった。
「ヴェルくんは本当に優しいわね」
「……よく言うよ」
「なにかしら?」
「なんでもないよ」
雪たちが聞こえて居なさそうな事を確認して、ヴェルはぼそっと少しだけ反抗心を見せた。けれど、にっこりと笑顔を携えたままヴェルをじっと見つめてくる静に、それ以上は何も言えなかった。
「私は別にいいのよ?」
「……ッ」
静の言わんとしていることがヴェルにはよくわかった。静は別に、寝返ったって構わないのだ。神国の方に一人向かったって、静は別に傷つかない。傷つくのは、静が裏切ったと知った雪と真だ。
「寝返る……のは……」
「その事だけじゃないわよ?」
震える声で呟くヴェルに、静は追い打ちを変えるようにフフフと笑った。その言葉が意味するものは――
「え?」
「雪ちゃんの前で、私たちが恋仲のように接してもいいのよ? って言ったのよ」
ドクン。ヴェルは静の言葉に、背筋が凍る思いをした。頭から血の気が引く感覚も覚えた。なんで静はこんなに雪を目の敵にするのか、なぜこんなにも誰よりも一番でいないと気が済まないのか、ヴェルには理解できなかった。
「優しくしてくれていた人が別の女の子とデキてて、さらに友達を置いて神国に寝返ったら……どう思うかしら?」
「あんたは……なんで……」
「なんで?」
ヴェルの問いかけるような言葉に、静はただ無言でにっこりと微笑むだけだった。
「なんで、そんなに目の敵に……」
「別に目の敵にしているわけじゃないわよ?」
ヴェルの腕にぎゅっと抱き着きながら、静はくすくすと笑った。そう、静は別に雪を目の敵にしているわけじゃなかった。ただ単に一番じゃないと気が済まないだけだ。
一番に求められたい。一番に褒められたい。一番に愛されたい。一番に頼りにされたい。自分だけを自分だけが自分だけに自分だけの。
「どういうこと?」
「まあ、着いたら分かるよ」
「なら、早く行きましょう? ヴェルくん、案内をお願いしてもいいかしら?」
どう説明すれば分かりやすいかと悩みながらも、上手く説明できないなとヴェルは自分の中で自己完結していた。そして、催促をするように発言をした静に一瞬顔をしかめたが、ヴェルはすぐに笑顔を浮かべ「わかったよ」と答えると張られたテントを回収して卯ノ国への道を急いだ。
きっと、この些細なヴェルの変化に誰も気づいていないだろう。
「――やっぱり、足腰が痛いわ……」
「静、大丈夫?」
「ええ、問題ないのだけれど……ちょっと歩き続けるのはさすがにキツそうだわ……」
「……あ、なら……腕、捕まる?」
「……あら、いいの?」
す、と腕を差し出すヴェルに静はにっこりと笑みを浮かべて首を傾げた。
(そうさせるために発言したくせに……――)
そんな風にヴェルは内心思ったが、それを言葉にすることも表情に出すことも憚られた。
差し出されたヴェルの腕に静は腕を絡ませ、その腕にギュッと捕まった。その行動がヴェルにはわざとらしく見えてイライラした。まるで雪に見せつけるような行動に、吐き気を覚える。
この時、ヴェルは雪の表情に気付いていなかった。腕を組む静とヴェルの二人を見て、凄く複雑そうな表情を浮かべる雪に。そして、静とヴェル――その二人を複雑そうに見つめる雪を横目で見る真も、よくよく見れば表情にほんの少しの機微があった。
「ヴェルくんは本当に優しいわね」
「……よく言うよ」
「なにかしら?」
「なんでもないよ」
雪たちが聞こえて居なさそうな事を確認して、ヴェルはぼそっと少しだけ反抗心を見せた。けれど、にっこりと笑顔を携えたままヴェルをじっと見つめてくる静に、それ以上は何も言えなかった。
「私は別にいいのよ?」
「……ッ」
静の言わんとしていることがヴェルにはよくわかった。静は別に、寝返ったって構わないのだ。神国の方に一人向かったって、静は別に傷つかない。傷つくのは、静が裏切ったと知った雪と真だ。
「寝返る……のは……」
「その事だけじゃないわよ?」
震える声で呟くヴェルに、静は追い打ちを変えるようにフフフと笑った。その言葉が意味するものは――
「え?」
「雪ちゃんの前で、私たちが恋仲のように接してもいいのよ? って言ったのよ」
ドクン。ヴェルは静の言葉に、背筋が凍る思いをした。頭から血の気が引く感覚も覚えた。なんで静はこんなに雪を目の敵にするのか、なぜこんなにも誰よりも一番でいないと気が済まないのか、ヴェルには理解できなかった。
「優しくしてくれていた人が別の女の子とデキてて、さらに友達を置いて神国に寝返ったら……どう思うかしら?」
「あんたは……なんで……」
「なんで?」
ヴェルの問いかけるような言葉に、静はただ無言でにっこりと微笑むだけだった。
「なんで、そんなに目の敵に……」
「別に目の敵にしているわけじゃないわよ?」
ヴェルの腕にぎゅっと抱き着きながら、静はくすくすと笑った。そう、静は別に雪を目の敵にしているわけじゃなかった。ただ単に一番じゃないと気が済まないだけだ。
一番に求められたい。一番に褒められたい。一番に愛されたい。一番に頼りにされたい。自分だけを自分だけが自分だけに自分だけの。
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