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第2章【交わる二人の歯車】

11罪 静の裏の顔①

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 静を引き留めるために、雪を悲しませないために、ヴェルは望まない道を進むしかなかった。雪に優しくしたくても、静を第一に考えなくてはならなくて、静が何かを望めばそれを叶えてあげなければならない。
 そして、ヴェル自身が望んでいなくても、静の事を抱かなくてはならなかった。

「おはよう、雪ちゃん、ヴェルくん」
「あ、おはよう、静ちゃん、真」

 ふふふと笑う静を見て、ヴェルは複雑な思いを抱えていた。なぜ彼女に笑顔を浮かべなければならないのか。凄く、不本意だった。けれど、不本意だとしてもこの道を選んだのはヴェル自身だ。誰にも当たる事なんてできない。

「昨日はありがとうね。ヴェルくん……とても、楽しかったわ」
「それなら良かった」

 ぞわりとした感覚をヴェルは感じていた。

「ぐっすり眠れた?」
「ええ。少しだけ腰が痛いけれど……」

 ――――雪の問いかけに返す静の言葉、腰を軽くさする行動に、ヴェルは表情をひきつらせた。けれど、それを誰にも悟らせまいとすぐに表情を消し去る。

(雪ちゃんにバレるわけにはいかない……)

 静とヴェルの関係を雪に知られたくはなかった。知られればヴェルは静が好きだと雪に勘違いされてしまうだろう。
静の狙い的には雪よりも自分を一番に思い一番大切にしてほしいのだから、きっとその気持ちを満たしてあげられれば彼女自ら雪にバラすことはないはずだ。

「あ、わかる。やっぱりベッドと違うから体痛くなるよね」
「雪ちゃんも?」
「うん。腰も足も頭も……やっぱり柔らかくない地面だから仕方ないよね」

 そんな風に笑いながら話す雪は、本当に何も知らなかった。何も話さず静と雪のやり取りを見ている真も同じだろう。そして、バラす様子の見えない静の態度にヴェルはほんの少しだけホッと胸を撫で下ろした。

「まあ、それも今日限りだから。もうすぐ卯ノ国に着くよ」
「ほんと⁉」

 嬉しそうに声を上げる雪を見て、ヴェルは心臓をぎゅっと掴まれるような感覚に陥った。
喜怒哀楽を表す雪を近くで見つめながらも、この思いを隠し通さなければならない。最悪、大切な雪の目の前で静を大切な者のように扱わなければならない。それを目撃した雪にどんなふうに思われるのか、それが気がかりだった。そして、弱さを見せてくれる雪が、頼ってくれる雪が、熱い視線を向けてくれる雪が、自分から距離を取るんじゃないかという事が、不安で仕方なかった。
 この運命を選んだのは自分自身だというのに、この運命を選ばざるを得なくさせた静を怨みたい気持ちでいっぱいだ。けれど、そんな感情を静に向けたら、おそらく彼女はヴェルを脅すために言った考えを実行するだろう。すべてをぶちまけ、裏切り、雪の元を去ってしまうだろう。

(雪ちゃんを悲しませたくない……俺だけが我慢すればいいんだ……)

 雪がヴェル自身を好いている可能性をヴェルは一切考えていなかった。だから、静が裏切りを考えている事、雪のそばを離れようと考えたことがあったこと、それを雪に知られないようにすれば問題ないと思っていた。

(最悪バレたとしても……)

 ヴェルは下唇を噛み、拳をギュッと握りしめた。静とヴェルの事がバレたとしても、その事で距離を取られたとしても、雪が傷つくとは限らないとヴェルは考えた。距離を取られても、静と恋人同士だという目で見られても、ヴェル自身が耐えればいいだけなのだから。

「卯ノ国って……神国でしょ……?」

 喜ぶ雪がふと、あれ? と我に返った。
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