32 / 283
第2章【交わる二人の歯車】
8罪 白卯③
しおりを挟む
「構いませんよ、石碑くらい。姫様の……いいえ、雪様のためなのでしょう?」
そこに静と真兄の事が含まれていなくて、少しだけ笑ってしまった。本当に白卯は私に瓜二つのゑレ妃さんの事が大好きなんだなって思った。
「あんたなら、そう言ってくれると思っていたよ」
「本当は神国王から、異世界の人間が三人来たら捉えるように……と命令が下っていたのですが……姫様を捉えるわけには参りませんから」
そう言って、白卯とヴェル君は顔を見合わせ、フッと笑った。
「といっても、今日これから雪山へ登るのは得策ではないでしょう。部屋をご用意致しますので、準備を整えてからお向かい下さい」
時間はどれだけかかっても構いません、と笑う白卯の様子に私はゑレ妃さんに似た私と長時間居たいだけだろ……と思った。
それでも、部屋を用意してくれるのはありがたい事だ。
「一人一部屋ご用意させていただきますので、お好きな部屋をお使いください」
「ありがとう、白卯」
「恐れ入りますっ‼」
ぺこりと頭を下げる白卯に、私がお礼を述べれば涙声で返事を返す。その様子に私は苦笑を浮かべるしかなかった。
* * *
白卯に案内された私たちは順番に部屋を選んでいった。私は一番端っこの部屋、その横に静、その横にヴェル君、そして私とは真逆の方向の端っこの部屋に真兄が入った。
野宿でもなければ、空調の整っているのか寒くも暑くもない城での寝起きでは、室温調節魔法も、防音魔法も、侵入妨害魔法も必要なく、今回は何の魔法もかけずに終わった。
「……明日、とうとう記憶を取り戻すのか……」
私は部屋を割り当てられてから、すぐ部屋に閉じこもった。静とヴェル君が一緒にいる姿を見るかもしれない事が嫌だったのだ。確かに、彼女はヴェル君の事をいろいろと探ってくれると言っていた。協力してくれる優しい親友だ。だけど、見たくないものは見たくないのだ。
「……変な事考えたりしたくないし、早く寝ちゃお……」
柔らかい布団に身を包みこんだ。実家の布団を思い出すなぁって思いながら、その布団の温かさに懐かしさを覚える。
「……ん」
「……っ⁉」
うっすらと聞こえてきた声に、私は驚いてきょろきょろとあちこちを見渡した。今聞こえた声は、私の隣の部屋から……つまり、静の部屋から聞こえてきたものだ。
「……ん……っ……ふ……ぅ……ぁ……」
耳を澄ませなければ聞こえないくらいの小さな声。甘い甘い、声。
これ、は……
「き……ち……ぃ」
「ま……さか……」
「ぁ……ん……」
バサッ‼
勢いよく布団を頭までかぶり、音を遮るようにした。だって、今聞こえてきた甘い声は静の声で、そんな声を出すことって一つしかない。
し、真兄と……シてる⁉
「……こ、これは聞いちゃいけないっ」
顔が真っ赤になるのが分かった。布団で体をくるむようにうずくまり、分厚い布団で防音しようとした。運よく小さな静の声はそれで聞こえなくなった。
ああ、でも……真兄、よかったね。叶ったんだ……そう思うと凄く嬉しくなった。だけど、直接「よかったね」なんて言えるわけもない。だって、それってつまり、この声を聞いたことを遠回りに伝えてしまう事になる。
だから私は彼らから「付き合う事になりました」って報告があるまで知らないふりをしようと決心した。だって、そうじゃない? 親友にエッチな事をしていましたって知られるって……もの凄く恥ずかしい事だ。
「……おおおお、おやすみなさいっ」
小さな声でそう呟くと、私は必死に寝ようとした。布団の中でぎゅっと目を閉じていれば、自然といつの間にか眠りにつくことを私は理解していたから。
そこに静と真兄の事が含まれていなくて、少しだけ笑ってしまった。本当に白卯は私に瓜二つのゑレ妃さんの事が大好きなんだなって思った。
「あんたなら、そう言ってくれると思っていたよ」
「本当は神国王から、異世界の人間が三人来たら捉えるように……と命令が下っていたのですが……姫様を捉えるわけには参りませんから」
そう言って、白卯とヴェル君は顔を見合わせ、フッと笑った。
「といっても、今日これから雪山へ登るのは得策ではないでしょう。部屋をご用意致しますので、準備を整えてからお向かい下さい」
時間はどれだけかかっても構いません、と笑う白卯の様子に私はゑレ妃さんに似た私と長時間居たいだけだろ……と思った。
それでも、部屋を用意してくれるのはありがたい事だ。
「一人一部屋ご用意させていただきますので、お好きな部屋をお使いください」
「ありがとう、白卯」
「恐れ入りますっ‼」
ぺこりと頭を下げる白卯に、私がお礼を述べれば涙声で返事を返す。その様子に私は苦笑を浮かべるしかなかった。
* * *
白卯に案内された私たちは順番に部屋を選んでいった。私は一番端っこの部屋、その横に静、その横にヴェル君、そして私とは真逆の方向の端っこの部屋に真兄が入った。
野宿でもなければ、空調の整っているのか寒くも暑くもない城での寝起きでは、室温調節魔法も、防音魔法も、侵入妨害魔法も必要なく、今回は何の魔法もかけずに終わった。
「……明日、とうとう記憶を取り戻すのか……」
私は部屋を割り当てられてから、すぐ部屋に閉じこもった。静とヴェル君が一緒にいる姿を見るかもしれない事が嫌だったのだ。確かに、彼女はヴェル君の事をいろいろと探ってくれると言っていた。協力してくれる優しい親友だ。だけど、見たくないものは見たくないのだ。
「……変な事考えたりしたくないし、早く寝ちゃお……」
柔らかい布団に身を包みこんだ。実家の布団を思い出すなぁって思いながら、その布団の温かさに懐かしさを覚える。
「……ん」
「……っ⁉」
うっすらと聞こえてきた声に、私は驚いてきょろきょろとあちこちを見渡した。今聞こえた声は、私の隣の部屋から……つまり、静の部屋から聞こえてきたものだ。
「……ん……っ……ふ……ぅ……ぁ……」
耳を澄ませなければ聞こえないくらいの小さな声。甘い甘い、声。
これ、は……
「き……ち……ぃ」
「ま……さか……」
「ぁ……ん……」
バサッ‼
勢いよく布団を頭までかぶり、音を遮るようにした。だって、今聞こえてきた甘い声は静の声で、そんな声を出すことって一つしかない。
し、真兄と……シてる⁉
「……こ、これは聞いちゃいけないっ」
顔が真っ赤になるのが分かった。布団で体をくるむようにうずくまり、分厚い布団で防音しようとした。運よく小さな静の声はそれで聞こえなくなった。
ああ、でも……真兄、よかったね。叶ったんだ……そう思うと凄く嬉しくなった。だけど、直接「よかったね」なんて言えるわけもない。だって、それってつまり、この声を聞いたことを遠回りに伝えてしまう事になる。
だから私は彼らから「付き合う事になりました」って報告があるまで知らないふりをしようと決心した。だって、そうじゃない? 親友にエッチな事をしていましたって知られるって……もの凄く恥ずかしい事だ。
「……おおおお、おやすみなさいっ」
小さな声でそう呟くと、私は必死に寝ようとした。布団の中でぎゅっと目を閉じていれば、自然といつの間にか眠りにつくことを私は理解していたから。
0
お気に入りに追加
32
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
手が届かないはずの高嶺の花が幼馴染の俺にだけベタベタしてきて、あと少しで我慢も限界かもしれない
みずがめ
恋愛
宮坂葵は可愛くて気立てが良くて社長令嬢で……あと俺の幼馴染だ。
葵は学内でも屈指の人気を誇る女子。けれど彼女に告白をする男子は数える程度しかいなかった。
なぜか? 彼女が高嶺の花すぎたからである。
その美貌と肩書に誰もが気後れしてしまう。葵に告白する数少ない勇者も、ことごとく散っていった。
そんな誰もが憧れる美少女は、今日も俺と二人きりで無防備な姿をさらしていた。
幼馴染だからって、とっくに体つきは大人へと成長しているのだ。彼女がいつまでも子供気分で困っているのは俺ばかりだった。いつかはわからせなければならないだろう。
……本当にわからせられるのは俺の方だということを、この時点ではまだわかっちゃいなかったのだ。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
淡泊早漏王子と嫁き遅れ姫
梅乃なごみ
恋愛
小国の姫・リリィは婚約者の王子が超淡泊で早漏であることに悩んでいた。
それは好きでもない自分を義務感から抱いているからだと気付いたリリィは『超強力な精力剤』を王子に飲ませることに。
飲ませることには成功したものの、思っていたより効果がでてしまって……!?
※この作品は『すなもり共通プロット企画』参加作品であり、提供されたプロットで創作した作品です。
★他サイトからの転載てす★
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました
市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。
私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?!
しかも婚約者達との関係も最悪で……
まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる