異世界召喚されたら好きな人を親友に寝盗られた~七つの大罪(グリモワール)の一人だった私は、記憶を取り戻しながら好きな人も取り戻す!~

卯月えり

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第2章【交わる二人の歯車】

8罪 白卯③

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「構いませんよ、石碑くらい。姫様の……いいえ、雪様のためなのでしょう?」

 そこに静と真兄の事が含まれていなくて、少しだけ笑ってしまった。本当に白卯は私に瓜二つのゑレ妃さんの事が大好きなんだなって思った。

「あんたなら、そう言ってくれると思っていたよ」
「本当は神国王から、異世界の人間が三人来たら捉えるように……と命令が下っていたのですが……姫様を捉えるわけには参りませんから」

 そう言って、白卯とヴェル君は顔を見合わせ、フッと笑った。

「といっても、今日これから雪山へ登るのは得策ではないでしょう。部屋をご用意致しますので、準備を整えてからお向かい下さい」

 時間はどれだけかかっても構いません、と笑う白卯の様子に私はゑレ妃さんに似た私と長時間居たいだけだろ……と思った。
 それでも、部屋を用意してくれるのはありがたい事だ。

「一人一部屋ご用意させていただきますので、お好きな部屋をお使いください」
「ありがとう、白卯」
「恐れ入りますっ‼」

 ぺこりと頭を下げる白卯に、私がお礼を述べれば涙声で返事を返す。その様子に私は苦笑を浮かべるしかなかった。

* * *

 白卯に案内された私たちは順番に部屋を選んでいった。私は一番端っこの部屋、その横に静、その横にヴェル君、そして私とは真逆の方向の端っこの部屋に真兄が入った。
 野宿でもなければ、空調の整っているのか寒くも暑くもない城での寝起きでは、室温調節魔法も、防音魔法も、侵入妨害魔法も必要なく、今回は何の魔法もかけずに終わった。

「……明日、とうとう記憶を取り戻すのか……」

 私は部屋を割り当てられてから、すぐ部屋に閉じこもった。静とヴェル君が一緒にいる姿を見るかもしれない事が嫌だったのだ。確かに、彼女はヴェル君の事をいろいろと探ってくれると言っていた。協力してくれる優しい親友だ。だけど、見たくないものは見たくないのだ。

「……変な事考えたりしたくないし、早く寝ちゃお……」

 柔らかい布団に身を包みこんだ。実家の布団を思い出すなぁって思いながら、その布団の温かさに懐かしさを覚える。

「……ん」
「……っ⁉」

 うっすらと聞こえてきた声に、私は驚いてきょろきょろとあちこちを見渡した。今聞こえた声は、私の隣の部屋から……つまり、静の部屋から聞こえてきたものだ。

「……ん……っ……ふ……ぅ……ぁ……」

 耳を澄ませなければ聞こえないくらいの小さな声。甘い甘い、声。
 これ、は……

「き……ち……ぃ」
「ま……さか……」
「ぁ……ん……」

 バサッ‼
 勢いよく布団を頭までかぶり、音を遮るようにした。だって、今聞こえてきた甘い声は静の声で、そんな声を出すことって一つしかない。
 し、真兄と……シてる⁉

「……こ、これは聞いちゃいけないっ」

 顔が真っ赤になるのが分かった。布団で体をくるむようにうずくまり、分厚い布団で防音しようとした。運よく小さな静の声はそれで聞こえなくなった。
 ああ、でも……真兄、よかったね。叶ったんだ……そう思うと凄く嬉しくなった。だけど、直接「よかったね」なんて言えるわけもない。だって、それってつまり、この声を聞いたことを遠回りに伝えてしまう事になる。
 だから私は彼らから「付き合う事になりました」って報告があるまで知らないふりをしようと決心した。だって、そうじゃない? 親友にエッチな事をしていましたって知られるって……もの凄く恥ずかしい事だ。

「……おおおお、おやすみなさいっ」

 小さな声でそう呟くと、私は必死に寝ようとした。布団の中でぎゅっと目を閉じていれば、自然といつの間にか眠りにつくことを私は理解していたから。
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