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第1章【はじまりのモノガタリ】
3罪 前世を思い出す方法③
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「雪ちゃん?」
真っすぐ見つめたまま何も言わず、動きもしない私の様子にヴェル君は気付いてくれた。心配そうに私の顔を覗き込んでくれる、その様子に私は少しだけドキッとした。
「あ、えと……」
「雪ちゃんは、前世の記憶を追体験することで記憶が混同して混濁して自分が自分じゃなくなるかもしれないことを心配しているんじゃない?」
「……うん、静にはバレバレなんだね」
口ごもる私の代わりに心配事を言葉にしてくれた静に、私は隠せないな~と苦笑いを浮かべた。私が分かりやすいのか、はたまた静がそういう内面的な事に敏感なのか、それは分からない。だけど、私の代わりに言ってくれたことで少しだけ安心した。
「もちろん、追体験した直後は記憶が混濁する恐れはあると思う。だけど、ちゃんと意識を前世から今に引き戻してから起こすから大丈夫なはずだよ」
手順をしっかりとすれば、前世の自分に記憶や思考が乗っ取られることはないと、ヴェル君ははっきりと言ってくれた。
まだ心臓はドキドキしているけど、彼の言う通りにしていれば大丈夫な気がしてきた。彼を信じよう……そう思えた。
「とまあ、そういうわけだけど……今日は召喚されたばっかりだし、皆が思っている以上に疲れている可能性もある。それに、突然こっちに召喚されて体がついていけていない可能性もあるから一か月はしっかりと体を休めて、各地を巡るのはそのあとにしよう?」
「ああ、そうだな」
私達を心配してくれるヴェル君の言葉に、真兄も頷いて同意した。それは、私も静も同じだった。
「じゃあ、三人の部屋に案内するね」
「部屋、あるの?」
「うん。かつて七つの大罪達が使っていたらしい部屋がずっと空いていてね……良かったら使ってあげて」
もう、どこの部屋を誰が使っていたかも分からないけどね、と笑うヴェル君の表情が少しだけ寂しそうに見えた。だけど、それは仕方のない事だと思う。亡くなった魂はずっと同じ場所にはいられない。だから、私達がここにいるんだ。
「さて、女性陣よりも男性の真が先の方がいいかな? 一応、見ず知らずの住人達も住んでるわけだし」
見知らぬ住人たちが住んでいる部屋からいくらか離れているとはいえ、不安もあるだろうからというヴェル君からの計らいのようだ。確かに女である私達より、間に男の真兄が入った方が安心感はあるかもしれない。私たち三人は顔を見合わせて、そして頷きあった。そうしよう、という無言の合図だ。
* * *
そんなこんなで、他の住人達に近い下層側の部屋に真兄が入り、真ん中に静、そして一番上層部に私が入る形となった。宛がわれた部屋に入ると全く使ってなかったとは思えないくらい綺麗な部屋で、正直驚いた。少しくらい埃っぽかったり、湿気が籠ってたり、穢かったりするだろうって思っていたから。ベッドも姿見の鏡も、ドレッサーも何もかもが綺麗だった。
「ちょっと……意外、かも」
ぽつりと呟きながら、私は苦笑いを浮かべた。だってそうだろう。予想以上に綺麗だったのだ、どう反応していいか分からない。
「これだと、二人の部屋も綺麗なんだろうなぁ」
はずれの部屋がなさそうでよかった、と胸を撫で下ろした。私は部屋の扉をパタンと閉めると、そのまま部屋の中央へと歩みを進めた。控えめなデザインのシャンデリアが部屋を暖かい光で照らしてくれる。けれど、そのシャンデリアはコンセントなどで天井と繋がっていなくて、部屋の上の方にぽかんと浮いているような状況で、ああやっぱりここは私達の生きてきた世界とは違う世界なんだな……と思わさせられた。
「ん~~~~~‼」
体を後ろに反らせると、凝った肩や腰がコキコキと音を鳴らした。あまり人前で鳴らしたくない音だ。
ぼふんっ。大きな音を立ててベッドのマットに体を沈ませた。柔らかいマットが私の体にまとわりつくように沈み──
「気持ちいい……」
だらけた声が発される。たぶん、自分の家のベッドよりも柔らかいんじゃないだろうか?
そんな風にベッドを堪能していた時、コンコンコンと軽快にノックが聞こえた。自分の部屋のドアが叩かれたのだと認識するのに時間はそういらなかった。慌てて足を上まで持ち上げて、両足の力を使って体を起こすと、ベッドから降りドアの方へと小走り気味に向かった。
「はい、どちら様ですか~?」
がちゃり、とドアを開けてノックしてきた相手を確認した。ドアの前にはヴェル君が立っていた。いったい何の用だろうか?
真っすぐ見つめたまま何も言わず、動きもしない私の様子にヴェル君は気付いてくれた。心配そうに私の顔を覗き込んでくれる、その様子に私は少しだけドキッとした。
「あ、えと……」
「雪ちゃんは、前世の記憶を追体験することで記憶が混同して混濁して自分が自分じゃなくなるかもしれないことを心配しているんじゃない?」
「……うん、静にはバレバレなんだね」
口ごもる私の代わりに心配事を言葉にしてくれた静に、私は隠せないな~と苦笑いを浮かべた。私が分かりやすいのか、はたまた静がそういう内面的な事に敏感なのか、それは分からない。だけど、私の代わりに言ってくれたことで少しだけ安心した。
「もちろん、追体験した直後は記憶が混濁する恐れはあると思う。だけど、ちゃんと意識を前世から今に引き戻してから起こすから大丈夫なはずだよ」
手順をしっかりとすれば、前世の自分に記憶や思考が乗っ取られることはないと、ヴェル君ははっきりと言ってくれた。
まだ心臓はドキドキしているけど、彼の言う通りにしていれば大丈夫な気がしてきた。彼を信じよう……そう思えた。
「とまあ、そういうわけだけど……今日は召喚されたばっかりだし、皆が思っている以上に疲れている可能性もある。それに、突然こっちに召喚されて体がついていけていない可能性もあるから一か月はしっかりと体を休めて、各地を巡るのはそのあとにしよう?」
「ああ、そうだな」
私達を心配してくれるヴェル君の言葉に、真兄も頷いて同意した。それは、私も静も同じだった。
「じゃあ、三人の部屋に案内するね」
「部屋、あるの?」
「うん。かつて七つの大罪達が使っていたらしい部屋がずっと空いていてね……良かったら使ってあげて」
もう、どこの部屋を誰が使っていたかも分からないけどね、と笑うヴェル君の表情が少しだけ寂しそうに見えた。だけど、それは仕方のない事だと思う。亡くなった魂はずっと同じ場所にはいられない。だから、私達がここにいるんだ。
「さて、女性陣よりも男性の真が先の方がいいかな? 一応、見ず知らずの住人達も住んでるわけだし」
見知らぬ住人たちが住んでいる部屋からいくらか離れているとはいえ、不安もあるだろうからというヴェル君からの計らいのようだ。確かに女である私達より、間に男の真兄が入った方が安心感はあるかもしれない。私たち三人は顔を見合わせて、そして頷きあった。そうしよう、という無言の合図だ。
* * *
そんなこんなで、他の住人達に近い下層側の部屋に真兄が入り、真ん中に静、そして一番上層部に私が入る形となった。宛がわれた部屋に入ると全く使ってなかったとは思えないくらい綺麗な部屋で、正直驚いた。少しくらい埃っぽかったり、湿気が籠ってたり、穢かったりするだろうって思っていたから。ベッドも姿見の鏡も、ドレッサーも何もかもが綺麗だった。
「ちょっと……意外、かも」
ぽつりと呟きながら、私は苦笑いを浮かべた。だってそうだろう。予想以上に綺麗だったのだ、どう反応していいか分からない。
「これだと、二人の部屋も綺麗なんだろうなぁ」
はずれの部屋がなさそうでよかった、と胸を撫で下ろした。私は部屋の扉をパタンと閉めると、そのまま部屋の中央へと歩みを進めた。控えめなデザインのシャンデリアが部屋を暖かい光で照らしてくれる。けれど、そのシャンデリアはコンセントなどで天井と繋がっていなくて、部屋の上の方にぽかんと浮いているような状況で、ああやっぱりここは私達の生きてきた世界とは違う世界なんだな……と思わさせられた。
「ん~~~~~‼」
体を後ろに反らせると、凝った肩や腰がコキコキと音を鳴らした。あまり人前で鳴らしたくない音だ。
ぼふんっ。大きな音を立ててベッドのマットに体を沈ませた。柔らかいマットが私の体にまとわりつくように沈み──
「気持ちいい……」
だらけた声が発される。たぶん、自分の家のベッドよりも柔らかいんじゃないだろうか?
そんな風にベッドを堪能していた時、コンコンコンと軽快にノックが聞こえた。自分の部屋のドアが叩かれたのだと認識するのに時間はそういらなかった。慌てて足を上まで持ち上げて、両足の力を使って体を起こすと、ベッドから降りドアの方へと小走り気味に向かった。
「はい、どちら様ですか~?」
がちゃり、とドアを開けてノックしてきた相手を確認した。ドアの前にはヴェル君が立っていた。いったい何の用だろうか?
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