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第1章【はじまりのモノガタリ】
5罪 雪の恋心④
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「――――っ」
目をぎゅっと閉じて、声を殺して泣いた。ぽろぽろと大粒の涙をこぼした。
「雪ちゃん……」
「本当は怖かった。知らない世界に、知らない事ばかり……知らない前世を思い出さなきゃいけなくて、追われてて……でも、私一人が逃げたら皆に迷惑かかっちゃうからって……」
怖いけど、逃げだしたいけど、ずっとずっと虚勢を張って頑張っていた。強がっていた。本当は誰かにこうして弱音を聞いて欲しかったのかもしれない。誰かに気付いて欲しかったのかもしれない。静たちといつも一緒にいるのに、自分だけ一人ぼっちのように感じることがある、私の孤独に弱さに、気付いて欲しかったのかもしれない。
「私……怖いっ。思い出すことも、戦う事も……凄く、怖いっ」
「嫌ならやめてもいいんだよ?」
ヴェル君の言葉に私はパッと顔を上げた。その言葉は私に逃げ道を提示してくれていた。思い出すことを、戦う事の選択肢を私たちに提示してきたヴェル君が“逃げてもいい”と言ってくれた。
だけど。
「……ううん、ここでやめたら私……ずっと逃げ続けることになる気がするの」
思い出すことから逃げて戦う事から逃げて、その先は? きっと、神国から逃げて運命から逃げて、ずっと隠れて死ぬまで生きていくんだろう。
そう思ったら、それはなんだか嫌だと思った。怖いけれど、きっとこの道を進むしかないと思った。逃げて隠れて、そんな風に生きる人生に“私らしさ”なんてものはないと思ったから。
「だから、怖くても私は立ち止まらないよ。全部思い出す。そして戦うよ」
思い出すことも戦う事も、私ひとりじゃない。私だけの事じゃない。
「雪ちゃんは強いね」
「強くないよ。弱いから虚勢を張ってるだけだよ」
本当の私は弱虫で泣き虫だよ、と笑った。
「でも、こうやって虚勢を張ってでも立っていられるのはヴェル君のおかげだね」
ありがとう、と私は満面の笑顔でお礼を告げた。折れずに立っていられるのは、きっとヴェル君のおかげだから。
「少しでも雪ちゃんの支えになれたなら良かったよ」
嬉しそうに笑うヴェル君の顔を見て、私は再確認した。
ああ、私は彼の事が好きなんだ……と。
目をぎゅっと閉じて、声を殺して泣いた。ぽろぽろと大粒の涙をこぼした。
「雪ちゃん……」
「本当は怖かった。知らない世界に、知らない事ばかり……知らない前世を思い出さなきゃいけなくて、追われてて……でも、私一人が逃げたら皆に迷惑かかっちゃうからって……」
怖いけど、逃げだしたいけど、ずっとずっと虚勢を張って頑張っていた。強がっていた。本当は誰かにこうして弱音を聞いて欲しかったのかもしれない。誰かに気付いて欲しかったのかもしれない。静たちといつも一緒にいるのに、自分だけ一人ぼっちのように感じることがある、私の孤独に弱さに、気付いて欲しかったのかもしれない。
「私……怖いっ。思い出すことも、戦う事も……凄く、怖いっ」
「嫌ならやめてもいいんだよ?」
ヴェル君の言葉に私はパッと顔を上げた。その言葉は私に逃げ道を提示してくれていた。思い出すことを、戦う事の選択肢を私たちに提示してきたヴェル君が“逃げてもいい”と言ってくれた。
だけど。
「……ううん、ここでやめたら私……ずっと逃げ続けることになる気がするの」
思い出すことから逃げて戦う事から逃げて、その先は? きっと、神国から逃げて運命から逃げて、ずっと隠れて死ぬまで生きていくんだろう。
そう思ったら、それはなんだか嫌だと思った。怖いけれど、きっとこの道を進むしかないと思った。逃げて隠れて、そんな風に生きる人生に“私らしさ”なんてものはないと思ったから。
「だから、怖くても私は立ち止まらないよ。全部思い出す。そして戦うよ」
思い出すことも戦う事も、私ひとりじゃない。私だけの事じゃない。
「雪ちゃんは強いね」
「強くないよ。弱いから虚勢を張ってるだけだよ」
本当の私は弱虫で泣き虫だよ、と笑った。
「でも、こうやって虚勢を張ってでも立っていられるのはヴェル君のおかげだね」
ありがとう、と私は満面の笑顔でお礼を告げた。折れずに立っていられるのは、きっとヴェル君のおかげだから。
「少しでも雪ちゃんの支えになれたなら良かったよ」
嬉しそうに笑うヴェル君の顔を見て、私は再確認した。
ああ、私は彼の事が好きなんだ……と。
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